5・王子に恐れられちゃいました!?
フィンセルの部屋で椅子に腰を掛けていると、部屋の外から誰かが走ってくる重い足跡が聞こえてきた。
すると、また部屋の扉が勢いよく開き、今度は大柄な男が入ってきた。
「フィンセル!無事だったのか!」
部屋に入ってきた男は真っ先にフィンセルのほうへ両手を広げながら走っていった。
「きもっ」
フィンセルは冷たい声と目線で、抱き着いて来ようとした男を横に避けた。
男はそのまま地面にこけて床に顔を強打した。
フィンセル、やっぱり結構当たり強いほうなのかな。私と話してた時と全然違う。
「我が娘よ、森で魔獣に襲われたと聞いてとても心配したんだぞ。それなのに避けるとは、ひどくないか!」
「そんな娘にすぐ抱き着くのはだれでも気持ち悪いと思うけど」
男はこけて乱れた服装を正して、「ゴホン」と咳ばらいをして私のほうを向いた。
フィンセルのことを『我が娘』って言った――てことは、この人がフィンセルの父親で、この国の国王ってことか。
この国本当に大丈夫なのか。
「そなたが娘の恩人であらせられるか。私はバルバスト王国45代目国王、アレクト・バルバストだ。娘を救ってたこと、誠に感謝する」
そう言って国王は私に向かって手を差し伸べてきた。握手、ということなのだろうか。
私は差し伸べられた手を取りながら言った。
「大丈夫ですよ。助けたといっても家に1日泊めただけですから、大したことはしていません」
特に感謝されることでもないんだよな――ていうか早く、街に行って色々見てみたい。
ひとまず今は好奇心を抑えないといけない。
「本来ならば、王国全体に其方の功績を広く知らせるべきなのだろうが――どうやら、そういうのはしないほうがよろしいようで」
国王は少し笑いながら、私に言ってきた。
この人、中々察しがいい人だ。
私は国王をいい人だと確定した。
「それなら助かります。あまり人前には出たくないので」
「ならば、個人的に謝礼を渡させてもらう」
「分かりました」
すると、国王が私の体をじっと見つめ始めた。
えっ何?急にどうしたの。自分で言うのもなんだけど、私そんなに大きくないし。身長が高いくらいだけで、特別かわいいとかそんなのはないんだけど。
私的には、私よりフィンセルのほうが何倍もかわいいと思う。
「――ところで、其方の服は見たことがないが、それは一体何処の物であろうか?」
「あーそれは・・・・」
そうだった、この服は私が前いた世界の服だからこの世界にとっては珍しいものなのか。
さっき、窓から街を見渡した時に分かったけど、この国の服装は、私が前いた世界で言う、中世ヨーロッパくらいの時代の服装が、男女ともに多かった。
「これは私の服ですけど、そこはちょっと―――ちなみに私は、この国の人ではないので」
「ガハハハッ! まあ、あまり其方のことを詮索するつもりはない。それでは、謝礼を用意させていただくので、少し待ってもらう」
「分かりました」
そう言って国は王は部屋を出て行った。
うん、やっぱりあの人いい人だ。とにかく、あまり私のことを詮索されないのは助かった。
謝礼って多分お金とかだろうし、店の資金にでも使わせてもらおうかな。いや、その前にこの国の通貨が分からん。そこら辺も後で街を見ながら調べるか。
しばらくすると、また足音が近づいてきた。今度は国王の時とは違って軽い足音だ。
そして、扉が勢いよく開いて、今度は一人の青年が出てきた。
今度は誰だ?――なんかフィンセルと似てる気が・・・・
その青年の髪の色はフィンセルと同じ銀髪で、目元の当たりが国王とフィンセルに似ている。
そして、無言でずかずかとフィンセルの方に近づいて行った。
「フィンセル無事だったのか!」
彼は半泣きの状態で、フィンセルの肩に手をのせ言った。
「ええ、兄さん。私は無事よ」
どうやら彼はフィンセルの兄のようだ。だから、フィンセルと国王と似てたのか。
それにしても、妹の生還を泣いて喜ぶ兄って、相当妹思い何だろうな。
いや、まさかシスコン・・・・まてまて、人のことを勝手に決めつけるのは良くない。
そして、彼は私の方を向いた。
「そなたが妹の恩人であらせられるか。私はバルバスト王国王子、フォクスワード・バルバストだ」
そう言って私に手を差し伸べてきた。
国王の時と全く同じだ・・・・さすが親子。
私は差し伸べられた手を取った。
すると、フォクスワードは最初は普通に手を握ったものの、すぐに手の力が緩んだ。そして、微かに手が震えている。
「どうかされましたか?」
私が問いかけると、フォクスワードは少しおどおどとしながら答えた。
「い、いや、何でもない。そ、そうだ、そろそろ父上の謝礼の準備ができた頃だろう――カルスタット!」
フォクスワードが名前を呼ぶと、最初に私をとらえようとしたときにいた執事が扉の後ろから出てきた。
「は、はい!何でしょうか!」
「彼女を父上のもとにお連れしろ!」
「はっ!それではこちらに」
フォクスワードは何か慌てている様子があった。
私は執事について行って、その部屋にフィンセルとフォクスワードを残して去っていった。
「どうしたの兄さん?」
フィンセルが心配そうに問いかける。
「フィン、俺のスキルは知ってるよな」
「ええ、確か――【触れた人の感情を読み取る】でしたっけ?それがどうかしましたか」
すると、フォクスワードは手を膝について下にうつむきながら震えた声で言った。
「彼女の感情を見たんだ。最初は普通の、極普通の感情だった―――でも!さらに奥へ行くと、黒では表られないほどの、感情があったんだ。あれは人が生み出す感情じゃない。ただ恐ろしい――『恐』そのものだ」
フォクスワードがミクルの手を握ったときに様子がおかしくなったのはこれが原因だ。
ミクルの感情を感じ取れるのはフォクスワードだけ。しかし、彼はミクルの感情を伝えられていない。それほど酷いものだったのか、残酷なものだったのか。
彼女は一体―――何者なのか。