4・兵士に襲われちゃいました!?
「ちょっと、どこまで行くの?」
私はフィンセルに手を引っ張られて、壁の周りを走らされていた。
入国門からどんどん離れて行って、人影もなくなってきていた。
「ここよ!」
そう言ってフィンセルが立ち止まったのは、何もないただの壁の目の前だった。
周りにも何もなく、ただ目の前に巨大な壁が建っているだけだ。
「ここ、何もないけど――」
「そりゃそうだよ、目立つよな抜け道だったらダメじゃん」
フィンセルは壁に近づいて、そっと手を添えた。
すると、添えた手が優しく光り、人一人がギリギリ通れるくらいの大きさの穴が開いた。
これが魔法なのかな?
なんか私が思ってた魔法って、ものすごい中二病的な無駄に長い言葉を言ってから使うものだと思ってた。
でもよかった、もしそうだったら自分が使うときものすごく恥ずかしいもん。
この世界では普通のことかもしれないけど、私の場合前の世界の中二病という概念が残っているから、ちょっとね・・・・
「ほら早く。ここが抜け道だから」
そして、私とフィンセルは穴の中に入っていった。
中に入ると小さな階段があり、少し降りると二人分の幅ははあるくらいの通路があった。
先が目ないほど長く、真っ暗な一本筋の通路だ。
「ほれっ」
パチンッ、とフィンセルが指パッチンをすると、指先から小さな球体が現れて光った。
周りが明るく照らされ、通路がよく見えた。
壁も床も天井も全て土で出来ていた。
おそらく地中をそのまま掘って通路を通らせたのだろう。
これ、全部フィンセル一人でやったのかな?
力と体力がありそうにも見えないし――あっ魔法とか使ったのかな。それだったら、フィンセル一人でこの通路を通らせるのも不可能ではない。
魔法って汎用性高いな。
そんなことを思いながら、私とフィンセルは黙々と道を歩いていた。
かなり歩いているので、王国の中には既に入っている。
10分くらい歩くと、道の終わりが見えた。
そして、道の終わりには螺旋階段があった。
「階段?これ上るの?」
「そう、この階段を上ったら着くから、あと少し」
着くって、今どこに向かってるんだろう?
そう思ったが私は聞かなかった。
聞いたところで答えてくれなさそうだったからだ。
それにしても、この階段も土で出来てるのに、よく崩れないな。
歩いてる感覚はまるでコンクリートの上のように硬かった。
「よし着いたよ」
階段を上り終わると、そこにはまた何もない壁があった。
そして、王国の壁の時と同じように手を触れると、壁に穴が開いた。
「足元気を付けてね」
そう言いながらフィンセルが壁の中から出た。
それに連れて私も壁の中から出ると、そこには、とても広い部屋があった。
「ここは・・・?」
「ようこそ、私の部屋へ!」
フィンセルは部屋の中心に立って、両手横に伸ばした。
部屋の中は、とても広くて豪華な見た目だ。
レース付きの豪華なキングサイズのベッドや、部屋の床いっぱいに広がるペルシャ絨毯、3メートルを超える大きな棚の中には、高価そうな物が多く並んでいる。
そして大きな窓からは、王国の街が広がっていた。
「すごい部屋、あなたいったい何者なの」
「ああそうだね、私は―――」
「誰かいるのか!?」
フィンセルが私の質問に答えようとすると、部屋の扉が勢いよく開き、燕尾服を着た執事のような男と、鎧を着た兵士が数人入ってきた。
「貴様何者だ!捕らえろ!」
「えっちょっ!」
執事のような男が右手で私を指さし、兵士に指示を出した。
そして、剣を取った兵士が私に襲い掛かってきた。
この執事、少しは人の話を聞こうとしないのかな。
私は落ち着いて対応しようとした。
相手は剣を持っていて、私は何も持っていない。
とにかく今はよけるしかない。
髪が切られてしまったら面倒くさいので、私はフードをかぶって中に髪を入れた。
「よっと」
私はまず、正面から縦に切りかかってきた兵士の剣を横に避けた。
そして今度は、一度に複数人で八方から切りかかってきた。
この人たち私を捕まえる気ないでしょ、完全に殺す気で来てるよ。
この剣の動きは、私がよけなかったら確実に死んでいる。
しかし、私は素早く下にしゃがみ、兵士たちの後ろに回った。
『うわっ!』
私が避けたため、兵士たちが互いにぶつかった。
この兵士たち、先を考えて攻撃してこないし、戦場とかに言ったら確実に死ぬな・・・
「はい、そこまで!」
部屋の端で見ていたフィンセルが手をパンッと鳴らし、兵士たちの動きを止めた。
そして、兵士と指示を出していた燕尾服の男がフィンセルを見て驚愕していた。
「お、王女殿下!?」
燕尾服の男がフィンセルを見ながらそう叫んだ。
王女殿下?今フィンセルのこと王女殿下って言った、あの男の人?
もしそうならば、全て説明がつく。
森でフィンセルだけが生かそうとされて飛ばされたのも、服装が貴族っぽいのも、この部屋がこんなに豪華なのも。
「王女殿下、ご無事だったのですか!」
男と兵士たちがフィンセルのほうを向いてひざまずいた。
あー、本当にフィンセルって王女なんだ。
おそらく、私が何者かと聞いたときにこのことを言おうとしたのだろうが、タイミングが悪く、言えなかったのだろう。
「とりあえずその人は私の恩人よ、無礼は絶対許さないわ」
『は、はい!』
男と兵士たちがそろえて返事をした。
「あなた、王女だったのね・・・・」
「そう。改めて、私はフィンセル・バルバスト。この国の王女で、ここは王城の私の部屋。言ってなくてごめんね!」
「まあいいわよ別に、少し察しはついてたから」
初めて私にフィンセルが状況を話したとき、ところどころ悩みながら話してたから、自分の身分を何とか隠しながら私に伝えようと頑張ってたんだろうな。
「とりあえず、父様に私の無事を伝えて。そして早く部屋から出て行って」
「承知しました!」
男と兵士たちが走って部屋を出て行った。
フィンセルって意外と人に対しての当たりは強いんだな・・・
なんか以外。
「はぁー。兵士たち、もっと早く止めてよね」
「ごめんごめん、なんか見てて面白くなっちゃって。ミクルって意外と動けるのね」
何その私が動けない人みたいな言い方。
ちょっと傷つくんだけど。
私は近くにあった椅子に腰を掛けた。
かなり長い距離を歩いて、長い階段を上ってきたので、さすがに少し疲れてしまった。