3・王国に行くことになっちゃいました!?
翌朝
部屋においてあったベッドはかなりふかふかでよく眠ることができた。
私はベッドから起き上がってクローゼットの中から、フード付きのトレーナーとズボンを取り出した。
「やっぱ動きやすいのはこれかな」
私は取り出した服に着替えて部屋を出た。
そして、フィンセルが泊まっている隣の部屋へと入った。
「フィンセル、朝だよ」
フィンセルは掛け布団を抱きまくらのようにして横向きで寝ていて、枕はベッドから落ちていた。
おそらく寝相は相当悪いのだろう。
「ん・・・もう朝」
フィンセルはベッドから起き上がって、両手を上に上げて体をうんと伸ばした。
「よく眠れたみたいね。朝ごはんは今から作るからリビングで待ってて」
「あっ、何か手伝う事とかは」
「大丈夫よ、ゆっくりしてて」
そう言って私は部屋を出ていった。
朝ごはんはキッチンのところに、冷蔵庫があった。前の世界みたいに機械で動いてるのではなく、冷蔵庫の上の部分に石みたいなのがあって、鑑定してみると
・名称 氷魔石
・種類 魔石
おそらくこの石が、氷みたいな役割をしていて、冷蔵庫の仕組みは、昔の氷を上において中を冷やすということだ。
冷蔵庫の中には野菜や肉、果物のようなものが入っていて、調味料も少し入っていた。
一つ一つ鑑定しながら食材を選んで調理していく。
ちなみに、調理器具も大体揃っていた。
コンロに関しては、形は似ているが、仕組みは冷蔵庫同様、魔石を使っていた。
朝食ができたので、リビングに居るフィンセルのところへ持っていく。
「できたよー」
私はできた料理をテーブルの上に置いた。
「これは?」
「これは野菜炒め。色んなものを炒めた料理・・・かな?」
私は冷蔵庫にあった食材を炒めて、そこにソースのようなものを加えて野菜炒めを作った。
「いただきます」
フィンセルはフォークを手にとって、料理を口に運んだ。
「どう?簡単なものしか作れなかったけど」
「うん、初めて食べたけどすごく美味しい!」
「よかった」
味は前の世界に似せて作っているが、この世界の人の口にも合ったようだ。
本当はコメとかパンがあればもっといろいろできるけど、今は冷蔵庫に限られたものしか入ってなかったからな・・・
いつか街とかに行ったときに、何かあればいいんだけど。
「そういえば、あなたこれからどうするの?」
私が問いかけると、フィンセルは持っていたフォークを皿の上に置いて答えた。
「とりあえず、王国に帰ろうと思う。私の無事をなるべく早く知らせたい」
「そう―――ねえ、あなたが王国に行くとき、私も一緒に行っていい?」
「べつにいいけど・・・・行ったことないの?」
あっと、どうしよう。別の世界から来たなんてことは言ったらまずそうだし、変にごまかして後々困るのも嫌だから――よし、ここははっきり言おう。
「行ったことないというか、ほら、ここってずいぶんと森の奥でしょ、だから私この森から出たことないんだよね」
「ええっ!ここって森の奥なの!?」
フィンセルが身を見開いて私のほうを見ながら驚いた様子を見せた。
え、なに。気づいてなかったの?
「この森は、魔物とかがあまりにも多いからどの国も手放しているくらいの、超危険な森よ!そんな森に、さらに奥にある家に住んでるなんて・・・・あなた何者なの?」
おっと、ちょっとまずいこと言っちゃったかな。
でも何者って言われても、今はただの薬屋としか言いようがないし。
でも薬屋って言っちゃうと、別に困ることはないと思うけどなんか嫌だし。
ミクルの謎の考え方が、自分をとても悩ましている。
「う~んと・・・・森の魔女、かな・・・?」
「森の魔女・・・・」
とっさに思い付いたのがこれしかなかった。
自分で魔女って名乗るのはちょっと恥ずかしいけど・・・
それはあくまで前の世界の話。この世界だったら魔女という概念もあり得るかもしれない。
「ふふ・・あっはは!森の魔女ね。じゃあミクルはとってもいい魔女なのね」
フィンセルが小さな子供のように無邪気な顔で笑いながら言ってきた。
そういえばフィンセルって何歳だ?さすがに他人を勝手に鑑定するのはプライバシーの侵害というか、いけない気がする。
私は少し苦笑いしながら返した。
「うん、まあね・・・」
良かった、何とか納得してくれたようだ。
まあ優しい魔女っていうのもいいかもね。
「とりあえず、朝ごはん食べ終わったら王国に行く?私今日暇だし」
どうせまだお店は開いてないし。
そもそも全然準備できてないし。
「じゃあそうする。ここから王国までかなり時間がかかると思うから、行くなら並べく速く出発したほうがいい」
「じゃあ今から行きますか!」
ということで王国に行くことになったので、二人は朝食をとった後早速王国へと向かった。
王国の方角は分かっていて、移動手段がないため歩きで向かうことになる。
疲れたら、薬を使えば疲れは取れる。
なんかやばい薬みたいになってるけど、決してそんな薬ではない。
しばらく日が射す森の中を二人でのんびり歩いていた。
森の中は、木の葉がこすれあう音と、鳥のさえずりくらいしか聞こえなかった。
しかし、ここは周りの国が見捨てるほど恐ろしいくらいに魔物が出る森である。
油断しているミクルたちを、あるものが襲う。
「ねえ、何か聞こえない?」
ミクルが足を止めて、耳を澄ます。
すると、フィンセルも歩くのを止めて、耳を澄ました。
「確かに――何か足音みたいなのが聞こえる」
静かな森の中で、大きな動物の足音のような重い音が近づいてくる。
「く、クマ!?」
フィンセルが足音の正体に驚いていた。
近づいてきた足音の正体はクマだった。
しかし、私が知っているくまとは少し違った。
体が大きいのと、手が大きいのは同じだが、
牙が異様に大きく、むき出しの状態になっていて、
真ん丸とした可愛らしい黒目ではなく、とても鋭い赤い目をしていた。
「みっミクル!これどうすればいいの!?」
「グオオオォォォォ!」
クマが私たちに向かって吠える。
私のことを頼るんかい。そもそも私これ見るのすら初めてなんだけど。
クマ・・・なのかな?
いやでも、特徴はほとんど似ているからクマだとは思うけど。
とりあえず、今はこのクマをどうするかだ。
クマの標的は明らかに私たちだし。今は武器も何も持ってないし―――
あっそうだ、あれを使おう。
ミクルはトレーナーのポケットを漁って、薬を取りだした。
「何それ?それでどうにかできるの!?」
「まぁまぁ見てなさいよ――ほれっ」
私は手に持っていた薬を、クマの顔に向かって思いっきり投げつけた。
そして、薬がクマの顔に当たった瞬間。
パァン、という音を立てて破裂した。そして、破裂した薬の中身がクマの顔に飛び散った。
「グワアアアアアァァァァァァ!」
クマは自分の顔に飛び散ったものを手で退かそうとしたが、とんでもないくらいに暴れだした。
「よし!今のうちに逃げるよ!」
「えっちょっ」
ミクルがフィンセルの腕を引っ張ってクマから走って逃げて行った。
そしてしばらく走って、クマの鳴き声が聞こえなくなった。
ミクルはどうもなっていないが、フィンセルはものすごく息切れしていた。
「はぁはぁ、ねぇ、今の何なの」
「ああ、あれ?あれはね、私が造った薬の一つで、あの中身はかなり強力な毒になってて、目に入ると失明したり、手で触ったりすると火傷したみたいに皮膚が溶けるの。だから顔に投げると、正気じゃいられなくなるくらい、痛みが襲ってくる薬なの。」
「何その劇薬―――」
ちなみに投げて破裂したのは、オブ草っていうのを混ぜて製薬したら、飴玉みたいに固くなるんじゃなくて薄い膜みたいなので覆われた感じになった。
「とりあえず、王都まであとどのくらい?」
「えっと、ちょっと待ってね」
するとフィンセルは目をつむって、黙り込んだ。
「えーと、あと1キロくらい?」
「ねぇそれってどうやったら分かるの?」
地図などは一切持っていないのに、まさかここ一体を把握しているのだろうか。
だとしたら、かなりの天才・・・・
「距離とかが分かるのは、私のスキル【地形記憶】って言って、一度着たところの地形はすべて覚えることができるの。だから、王国真野で距離とかが分かるわけ」
「ふ~ん、便利なスキルがあるものね」
この世界のスキルはものすごく便利だ。
しかし、どれもいいものとは限らない。
そして、またしばらく森を歩いていると、ようやく森を抜けることができた。
「やっと抜けたー!――ここが王国か」
「そう!ここがバルバスト王国の王都バルバストよ!」
森を抜けた先にあったのは、20メートルは軽く超えるであろう、大きくて丈夫そうな壁が建っていた。
そして入国門には、ものすごくゴツイ鎧を着た体の大きい兵士と、入国を待つ長蛇の行列があった。
「あれ、並ばないといけないの?」
私は嫌そうな顔をしながら、フィンセルに問いかけた。
「大丈夫、私抜け道知ってるから」
すると、フィンセルがミクルの手を引っ張って、長蛇の行列とは違う方向に走っていった。
抜け道?一国の王都の入国に抜け道なんてあっていいのか?
大丈夫なのかな、この国・・・