聖騎士と少女 その1
ライナスは剣の一振りで相対する魔物を斬り伏せた。
「これで最後か」
そう呟きながら、剣身に付着した魔物の血を振り払うと剣を鞘に収める。戦闘で乱れた金髪を軽く整えて、辺りを見渡せば彼と同じく魔物討伐に派遣された同僚達も周囲の警戒を解除して各々労いの言葉を交わしている。ライナス達はグランエスタ神聖国の聖騎士である。彼らは皆等しく同じ恰好をしており、白を基調とした外套を纏い、剣身のみならず鍔から握りまで銀で統一された剣を装備していた。聖鎧布と聖銀剣、どちらも特殊な金属素材でできている。それらはグランエスタ神聖国の聖騎士のみが装備を許されている。
聖鎧布 ――鋼よりも遥かに軽い上に衝撃を吸収するだけでなく身体能力の強化補助まで行う。
聖銀剣 ――刃こぼれが自動修復される上に扱うもののエネルギーを切れ味に変換する。
周囲を見渡していたライナスの方へ駆け寄ってくる人影があった。同僚のパーシヴァルだ。
「よっ!おつかれさん」
パーシヴァルは朗らかに笑いながら労いの言葉を口にするとライナスの肩に手をかける。ライナスはその手をムスッとした顔で一瞥したが振り払うことはせずに、「ああ」と素っ気ない返事のみを返した。嫌そうな顔をするライナスを無視してパーシヴァルは、話しを続ける。
「それにしても、こんな簡単な任務に聖騎士を5人も派遣するなんて大袈裟だよな」
「そうだな」
それはライナスも感じていたことだ。今回の任務は聖都ウインドクロスと他の街を繋ぐ行路の一つに魔物が出るとの噂が発端である。任務の内容は魔物の確認及び魔物と遭遇した場合は討伐せよであった。実際、行路には影狼と呼ばれる魔物の群れがいたため、ライナス達は討伐に当たることにした。しかし本来、この程度の任務であれば聖騎士一人でこなす。聖鎧布と聖銀剣が無くてもこなせるだけの実力が聖騎士にはある。
「まあ、楽できていいけどさ」
そこまで気にしてはいないのか、パーシヴァルは「このあと聖都に帰ったら夕飯でも食いに行こうぜ」とすでに終わった任務のことなどどこ吹く風という雰囲気である。
「ああ、でもその前に隊長への報告があるだろう」
ライナスもそこまで気にしていなかったため、この話題については切り上げる。
「ライナスは真面目だねぇ」
「お前が不真面目なだけだろう」
ライナスの言葉にパーシヴァルはニシシと笑う。
近くに停めていた駆動馬車に今回派遣された聖騎士全員が乗り込むと、駆動馬車は聖都に向けて走り出した。聖都への帰り道、ライナスを除く聖騎士達は他愛もない話題で盛り上がっている。「最近、聖銀剣の調子が悪い。これは整備部の怠慢だ」と熱く語っている同僚に対してパーシヴァルが「整備部の娘に振られたからって止せ止せ」と宥めている。どうやらその騎士は整備部の娘に振られたばかりらしい。
駆動馬車に揺られた影響か、ライナスの瞼は徐々に閉じていく。聖都に着くまではまだかかるし、このまま寝てしまおう。ライナスはまどろみに身を任せて意識を手放すことを決めた。
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