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金色の血統  ~守りたい。あなたとこの国を。~  作者: 陽だまり
第一章 「兆し」
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3. カネツグ トウジ (52歳)

 もう近くまで来ている。目的地まではもうすぐだ。歩くカエンの両手には、まだはっきりと天狗の一撃を受け止めた感触が残っていた。天狗など実際によくいたものだ。あの者は自分を殺すつもりはなかった。殺気は感じなかったし、実際に一太刀で消え去った。しかもあの斬り込みの絶妙な力加減。木の枝から降りてきたとして、落ちる速度にあの体格の者の体重が乗って振り下ろした一撃にしてはやや軽い。コンタクトの瞬間に腕の力を抜いていたに違いない。つまり刃を交える気はあったが、深く切り込んで殺傷するつもりはなかった。こちらがその一太刀を受け切れると確信があったはずだ。自分の力量を見透かされているかのようだ。だとしたら、あの天狗は何者で、何が目的だったのだろうか。頭の中を様々な考えがぐるぐると回っていた。


 途中、岩と岩の間をジャンプして渡ったり、崖すれすれの道を切り抜けた。カエンの目的地はもう目の前だ。一度木々の生い茂る林へ入ったが、すぐに少し開けた場所にでた。ポツンと一件、からぶき屋根の小さな家がたたずんでいる。庭には柿の木、その脇には割られた薪と斧があった。

 入口の戸をコンコンと叩いて、中の様子を気にも留めずカエンはガラガラと戸を開けた。

 中には座って竹籠を編んでいる男がいた。チラリとカエンを見て少しニヤリとした。カエンは男に向かって一礼した。


「お久しぶりです師匠。」


 男は手作業を続けながら向き直った。


「よう、異端児。まだ生きてやがったのか。最近は女っぽい顔にもなってきたじゃないか。」

「はい、この世の全ての男たちを虜にしてやろうと思っています。」

「黙れ。」

「そちらこそ。」


 かまわず中に入り、背負った荷物を降ろす。壁に掲げられた掛け軸には(文字に非ず言葉に非ず)と、ど下手くそな書が書かれていた。何年たっても変わらぬ光景には、やはり安心感を覚えるものだ。


 カエンが師匠と仰ぐ人物。【カネツグ トウジ】またの名を【カムナ御守護上釼持】(カムナオンシュゴノカミトウジ)。後者の名は、先代の殿皇(イザナの父)が贈った名だ。生前のうちに贈り名を拝領するなど異例中の異例であり、破格の扱いである。この人物が今日に至るまでどのような歩みをなしたのか、カエンとの出会いのエピソードなども語りたいところだが、いかんせん長くなりそうなのでまたの機会としたい。


 囲炉裏の横で竹籠編みを続けるトウジの前に正座する。刃先を自身のほうに向けて、二本の刀を下に置いた。


「師匠、ここに来るまでに、・・・」


言いかけたカエンだがトウジが重ねるように言った。


「どれ、見せてみろ。」


 編んでいた籠を置いてカエンの刀を手に取り、鞘から抜き取った。鮮やかな刀身をまじまじと見つめる。トウジの表情が曇った。何らかの攻撃をうけた傷がある。名工とも名高いトウジだ。傷を見れば相手側の武器の種類はおおかた予想がついた。


「このような大技物が繰り出す動きは大きくなってしまうため、大抵よみやすいものだ。おおよそ縦に下ろすか、横に振るか、そして突くかが基本となる。いづれも体の初動が自然と見えるものだ。俺の打った刀に誉傷ほまれきずをつくるなど、貴様は鍛錬を怠っていたのか。」

「はい、相手がヒトなら回避していたと思います。」


トウジは無言になった。囲炉裏で小さく燃える薪の音。しばらく静かな時間がながれた。

 ・・・・・・・・何を言わんとするや師匠の言葉をまつ。

(ぐうううう)

「お腹がへった。」

カエンは久々にこの男をぶち殺したくなった。


 ガラガラと戸が開いた。籠を背負ったタエとリョウタだ。山菜を取りに行っていたらしい。タエはトウジの妻、10歳のリョウタはもちろん息子だが、二人の実の子ではなかった。


「わあ、カエンだ。カエンが来てる。」


言うなりリョウタは駆けよってカエンに抱き着いた。


「よく私の事がわかったしゃないかリョウタ。ちょっと見ない内にずいぶん大きくなったね。」

「うん、抱っこしてみて。僕重くなった?」

「リョウタやめなさい、みっともない。カエンちゃんよく来たね。立派な顔立ちになって。今鍋にするから、かまわずそこに座っておいで。」

「タエさんお久しぶりです。」


 膝元であばれるリョウタを制止しながら丁寧にあいさつをした。


「リョウタ、あんたは手伝うんだよ。」

「カエンも一緒だよ。おいで。」


 カエンの手をひっぱるリョウタだったが、父さんとお話があるのだとタエに言われてあきらめたようだ。

 おもむろにトウジが口を開いた。


「カエン、さっきの話の続きだが・・・。」

「はい。」

「・・・飯を食ってからにしよう。」

「はい、是非。」

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