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婚約破棄?できると思ってたならおめでたいね。

「あ、りません!」


からからに乾いた喉から、何とかそれだけを絞り出したけど。


もちろんフラン様はそれだけでは満足なさらなかった。


「何故だ?救国の獅子……お前が王妃として国を統べる立場にあれば、それだけで他国への抑止力となるだろう?」


それはいろんな人と、何度も議題に上がった話だった。


神童も成人すればただの人、とはよく言ったものだ。勉強に集中するためとはいえ。もう数年程新しい魔法を生み出せてない女が、これ以上国の役に立つにはどうすればいいか。皆心得ていたのである。


第2王子などより、王太子たるクライト殿下に。何なら他国の王族に嫁げと言われたことすらあった。


まあ、他国からそんな話は一切正式には頂いてないから、一生懸命探さないと、ろくな縁は結べなかっただろうけどね!ローカルヒーローなんて、ありがたがるのは活躍している内の一部地域だけなんだよ。


でもね、うん。分かってはいるんだよ。今後大成するかも怪しい私個人の働きよりも、一応名前を知られる救国の獅子の政略結婚は、かなりのものを国にもたらしてくれるって。それはフラン様の助けにだってなるだろう。


何せ訳が分かってなかったとはいえ、一応は呪詛戦争を止めるきっかけを作ったんだ。今や私の理論とも言えない話を元に、次々見事な魔法も生まれている。すごいんだよ?長い呪文を唱えたら、ちゃんと威力のある魔法として成立するようになったんだから。


だから元々クローニャは周囲を大国取り巻かれた、他国にとっては緩衝材のような小さい国だけど。際立った結界技術により、戦禍に脅かされずに成熟してきた文化は、今や他国にも敬意をもって受け入れられたし。つなぎを作りたい国は多かった。


だから国の為に成果を出すには、一番手っ取り早いけどね。うん。こればかりは私の我儘でしかない。


「それだけはお許しを!たとえ王命であろうと、貴方以外の妻となるなら国を出ます!」


幼少期に国王陛下より賜った『結婚相手を自分で決めていい』権利は、私が周囲の目に折れなければ未だに有効である。


だから、とっくの昔にね。結婚をしないことに決めていたんだ。


王妃様と、たまたま婚約撤回された時どうする?みたいな話した時にも、その旨は伝えてあった。そしてちょっと頭を抱えさせてしまったから申し訳ない。


だって私は所詮、成り上がりの伯爵だ。これまで学校にすら通えなかった私が、舞踏会も迂闊に歩けなかった私が、一体貴族の妻として何の役に立つというのか。


今の私に出来ることなんて、結局あれほど疎んだ、魔法研究のみ望まれて成果を掠め取られる役割くらいだ。


でも、まだ個人的な能力には望みがある。


魔法以外にも、あれこれと勉強は積んできた。やっと周囲と比較して、今後を検討できる機会も得た。大学が自分の有用性を示して、下働き以外で城での雇用をつかみ取れる。最後のチャンスなのだ。


今はまだ、フラン様のお傍でお仕えしたい、とまでは口が裂けても言えない夢の話だ。それでも、彼を支えられる仕事をしたかった。


あっでも怒るより先に深々とため息をつかれると、流石にちょっと堪えるね!


「い、いくらフラン様が怒ってもだめですよ!こればかりは、私が以前の褒賞として王様に許された権利のひとつです!ならば、誰も選ばぬ自由もあるはず!伯爵位とて私一代のものですし、ウォーフル男爵家は兄弟が継ぎますしね!」


「そこじゃないんだよなぁ!アン、お前、自分が何を言っているのか分かってないな?………しかしそうか、俺の妻でなければか。は、ははは!はははははは!」


「え……あ、ひぇっ!」


失言に青くなる前に、足が浮いた。声を上げて笑うフラン様に、腰を抱くように抱えられたからだ。


この国では男は剣を学ぶ。いくらフラン様が垂れ目の優しい顔立ちと言えど、日々鍛え上げられた身体は、ドレスと装飾で重みを増した私にすらも揺らがない。


肩口にすりすりとフラン様の額が寄せられて、頭がパンクしそうになる。


直火で炙られたように火照る私の頬に唇を落として、フラン様は大変機嫌が良さそうだ。


え、なんで?


「だいたいそこまでを素面で言えるならな、いっそ夫に俺を望めよウォーフル伯爵。前から俺で妥協しろと言っているだろ」


「……え」


おっと。夫に、フラン様?え?なに、空耳?


信じていないな、と顔を覗きこんでくるフラン様の威力がすごくて、正直頭回んないんだけどもどうしよう。


「妻にするならお前がいい、と言ったんだ。何でもお祭り騒ぎにできるお前に慣れると、どんな女も味気がないんだよ。お前くらいだぞ、俺を心から笑わせてくれる女は」


嘘だぁ結構笑ってるじゃないですか!


兄様だって、毎日のように騎士団で鍛錬中のフラン様が、笑ってたって教えてくれたし!リップサービスが過ぎる!……いや、褒めてるのそれ?!


「で、ですが……!」


「あと誰が吹き込んだかは知らんが、アマルカ嬢は公式に兄貴の情人だぞ」


「……え?」


く、くらいと様のぉ?!嘘でしょ!!!身分が商人なのに王太子の情人?!あれぇ!?いいんだっけそれぇ!!子爵になったばかりの頃に、うちの国に後宮とか側室みたいな制度こそないけど、情人だって流石に子爵でぎりだって薄ら聞いたことあるよ?!


母様は元が一兵卒だから、ぶっちゃけ貴族の事よく知らないって言ってたし。王妃様は正式な婚約者でもないから、そういう事はあんまり教えてくれなかったけど、できることなの?!


「まあ、兄貴が秘密裏に王位継承権を放棄したから成せた真似だが。俺とアマルカ嬢の大学卒業を待って婿入り予定だ。正式に俺が王太子になる」


「ふらん様、私その件を一切しらされてないんですけど」


酷い頭痛がしてきた。


フラン様なら王様になっても大丈夫、と思う。他国とも渡り合ってクローニャ国を守り、新しい産業を成功させたこれまでの実績があるので、むしろ自然なくらいだ。


でもあのパリピ本当なにやってんの?ってところですごいこう……正直霞むって言うか。いや、これまでフラン様が積極的に実績を積んでたの、もしかしてスムーズに王太子になるためだったの?


「兄貴はな。忍んで遊びに出た城下で3つ歳下のアマルカ嬢に、一生何不自由させずに養うから結婚してほしい、と言われて勝手に結婚決めてきた筋金入りの紐野郎だぞ。おいそれと吹聴できないだろ。まあ、すぐに結納金でやべぇ額を用立ててきたアマルカ嬢もどうかしてるが」


く、くくくくらいと殿下……!!あまるか嬢も!!


いやクライト殿下は結構そんな人だし、出来れば終日寝てたい人なのも知っていたけどぉ!あ、あまるか嬢に突っ込んだ方がいいかなこの場合!いや、それ抜きにしても自由だなぁ王家!


もう好きな人に抱っこされたままどこかに運ばれて、次々と明かされる事実にくらくらしてきた。勘弁してほしい。


何とか下ろしてほしいと声を絞り出すと、フラン様はひとしきり私をからかって満足したのか、ようやく放してもらえたけど。


下ろされたのは廊下の隅っこだし、唯一の逃げ道にフラン様が立っていた。


こ、これか、かかか壁ドンってやつでは?おまけに気持ち上から覆いかぶさってくるのはやめましょう?!ち、ちかっ近いんですよ!私の心臓止めたいんですか貴方!


「どうか俺と結婚してくれよ、アン。そこまで言えるなら、俺の一番近くで助けてくれ。正直な、俺は初めて会った時から、お前がかわいくてしょうがない。他の野郎に、一秒たりとも俺の婚約者じゃないお前を見せたくない」


「フラン様…は、私なんかで妥協していいのですか?!」


「俺が何年前から、どれだけこの機会を待ち望んでいたかは、頷いてくれたら教えてやるよ」


また大袈裟な、と思っていたら、ぽろぽろと何かが肩にかかるのを感じた。


不思議に思って振り返れば、上から細かな粉のようなものが、落ちて。


フラン様が石壁に触れた部分から、ぎち、と手袋の革が鳴る音が聞こえる。


「まあ、この期に及んで諦めるつもりはないんだけどな」


せいぜい気長に口説くさと。そう言って朗らかに笑うそのオレンジに浮かぶのが、かつて気持ち悪いと思った男の熱に、どこか似ていたのは気のせいだろうか。


どろりと濁って、なのに熱くて。嬉しいのは何故なの。


「アン、返事は?」


「お慕いしています。私で、いいのなら……」


くらくらきて、目の前の胸に額を押し当てたら、間髪入れずに抱きしめられた。


少しは迷ってくださいよ。でないと私、本当に好きなんだなってうぬぼれちゃうじゃないですか。






「いや、十数年にわたる周囲からの隔離と、丁寧な洗脳の結果ってこっわいなぁ……やってることカルセドニーよりえげつねぇよ」


「しっ!!クライト、せめて一途なアプローチって言いなさい……!愛はあるのよ……!」


「リージュ。息子たちの罪から目をそらしてはいけないよ。まあ、正直よくやったと思うけどね。アードルフの吠え面が今から楽しみだよ。ざまあみろあの野郎」


「あなた!」



………ん?


アンはかなりフランによって行動が制限されていたため、彼女の視点で明らかになる部分はこの辺で終了です。彼女がかなり現状に関してふわっふわした認識しかないのは、その都度フランに誘導されていたせいです。多分次から周辺人物視点の、フラン王太子による犯行の証言集みたいな話になります。いや、そうとしか言いようがないんですけど、これ一応ラブコメのつもりで書き始めたのに酷い。ウケる。

あと、気になさる方がいるかはわかりませんが、一応彼らはお互いがお互い以外に考えられない位の両想いですよ!何人か犠牲にはなりますが、ハッピーエンドです。

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