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君に似合いの

◆◇◆◇◆

9歳になった頃。週に5日位お城に泊まって、行儀見習い?として、いろんな授業を受けるようになった。


寂しくなるかな、と思ったけど。


何連勤?ってくらい城に父も来ていたし、兄は何故か騎士団で稽古受けていたし。母には週末会えたので、ホームシックになる暇はなかった。


一応ちゃんと、全寮制で貴族の女の子が通う学校もあったんだけどね。


国王様に呼び出された先で、難しい顔をした騎士団長から、警備面で確実に守り切れないと断言されてしまった。重ねて、他の子たちの迷惑になるので、通うのはやめてほしいとも。


確かに無駄に身分高いストーカー共が、他の子を利用して脅してこないとも限らない。他の生徒が本来受けなくてもいい苦労と被害を、私が通うことでもたらすのは避けたい。


でもそれを聞いた国王様は、婚約時に結んだ契約を履行するため、城にわざわざまともで安全な講師を呼んでくださったのだ。


あ、これもしかして税金…?申し訳なさで胃がしぬやつ…?と思ったけど。


特に何も言っていないのに。フラン様は元々警備のしっかりした城に通って、教師を個別につけた時の授業料と。私が学校に通った際に必要になる警備費用の見積もりを、算出して比較してくれたのだ。


確かに個別教師も費用がかかるけど。どっちの方が費用が嵩むか、比べるまでもなかった。ちょっと目が痛くなる桁の数に、そっと見なかったことにしたのは言うまでもない。


まあしばらくしたら、ここまでしてくれてるならと、勉強に集中できるようになったけどね。そもそも魔法なんて意味わかんないものを追求するより、ちゃんと役に立つ知識を勉強するのは本当に楽しかった。


その上、週に一度はフラン様とお茶をする機会ができた。


これは流石に予想外だった。第2王子の彼は、私と比較にならない位に忙しいお人だからだ。


だけどこの頃には、私は彼と話すのが本当に好きになっていた。


面倒見が良い、兄のようなお人だ。あちこちに飛び回る彼は、いろんな話もしてくれた。


おいしいお菓子とお茶を楽しみながら、彼とゆったりと過ごすのは、変な連中に追われる私にとっては最高の息抜きだったんだ。フラン様が誘ってくださるうちはと、目をつぶってしまったのは許してほしい。


私は9歳になって、ようやく本格的に行儀作法を学び始めていたけど。12歳になったフラン様は、既に剣の修行の一環として、騎士団とあちこち冒険しているらしい。たまにひやひやするような体験談を聞かせてくれた。


何せフラン様は結構血の気が多いんだけど、何かこう……敵を罠にかけて蹂躙するのが面白いってタイプだ。


自分の采配でどれだけ山賊とか仕留めたかに燃える方だから、剣の腕を頼みに無暗に突っ込んではいかないけど。それはそれとして普通に心配だ。


それにフラン様の話で初めて知ったんだけど。この世界、魔法と剣だけかと思えば、普通にモンスターもいるらしい。


じゃあなんで、これまであまり話にも出てなかったのかって?そもそもモンスターの概念が最近生まれたばかりらしいのだ。だいたい呪詛が全然効かなくなった、うちの国のせいである。


呪詛に代わる新しい侵攻手段として、動物や人に精霊をまぜこむ?とかした他国の仕業らしい。


まあうちの国の警備の要は、未だに私が開発した泥玉だけど。恐ろしいことに何の進歩もないそれが、未だに何のほころびもなく、あらゆる敵の進行を食い止めていたから。精霊崩れのモンスター程度、何の影響もなかったのだ。


何せ素材がその辺で手に入る泥と、適当に潰した草花でも効果ある絵の具である。一個二個壊れたところで、日々量産されているから、正直何の問題もないのだ。


それにモンスターは脅威だけど、決して悪い事ばかりではなかった。


モンスターを倒すと見たことがない、いい素材が手に入るらしいから。呪詛にも戦争にも巻き込まれず、順調に鍛錬を重ねて強くなってるうちの国の騎士団は、嬉々として狩りに出ている。そしてより実践に近い形式で鍛えられていた。


そのモンスター、人も混じっているって言ってなかったっけ?と思っていたら、人っぽいのには薬屋さんが開発したいい匂いのシュッとするやつを浴びせて、どうにもならなければ倒しているらしい。なお、今のところどうにもならない事例はないそうだ。


いやかけたらどうしてどうにかなるの、という疑問は残るけど。こっそり騎士団長に尋ねたら、婦女子には教えられないとお説教されるので聞けていない。


まあとにかくすごいや薬屋さん。今や嗅覚活かして、貴族御用達の香水屋さんに転身しちゃったけどね!未だに私のことを忘れないで、専用の香水とか作ってくれてるから気遣いがすごい。




「アン、これどう思う?」


そんな訳で、来る日も来る日も勉強に勤しんでいたある日のことだ。授業終わりに、フラン様にお茶の席に呼ばれた。


少しぶっきぼうな彼に手渡されたのは、華奢な装飾の金の台座に、澄んだ楕円の橙をはめたブローチである。可愛らしいデザインだけど、普段使いもフォーマルでもいける、ぎりぎりの豪奢さだ。


色も可愛いし。こんな感じのデザイン、すっごい好みだ。まだ私一生もののアクセサリーとか作るにはちっちゃいから、買わずに伝手を辿ってレンタルしているんだよね。


いつまで伯爵なんてやってられるか分かんないし。ちょっと未来予想図があやふやすぎて、軽率に高いものが買えないのだ。それにその頃の流行だと、お子様な私には全然似合わないデザインだったからね。


だけど意見を聞かれるってことは、これ系で新しい産業でも始めるんだろうか?


それなら私でも買える値段だと嬉しいなぁと、呑気に思っていたのだ。


「とっても素敵です!フラン様の目の色ですね……!どこの職人さんが作られたのですか?是非、私も……フラン様?」


久しぶりに趣味に合うアクセサリーで、はしゃぎ過ぎたのだろうか。私の手にあるブローチを、フラン様はぽかんとした顔で凝視している。


ややあって、俺の色か、と吐息のようにこぼしたから。私はおずおずと頷いた。望まれている答えがさっぱりわからなかったからだ。


だって私にとって、フラン様以上に馴染みのあるオレンジ色なんてない。


「そうか……そうなのか。はは!…………ああ、悪い。気に入ったなら、それはやるよ。誕生日祝いだ」


「………え?」


今なんてったこのひと。


やる、やる?何?このぶろーち、何かの新商品の意見募集とかじゃなくて?


ちょっとのみ込むのにかかって、固まったまま動かない私に、フラン様の行動は迅速である。


私の掌からブローチを受け取ると、ちゃっちゃとドレスの胸元につけてくれた。


「……やっぱりお前にはこの色の石が一番似合うよ」


予想だにしない贈り物に、お礼を言うのも忘れて、まずぽかんとしてしまった私である。


気に入らなかったかと、珍しくフラン様は自信なさげに言うけど。


その時の私に、フラン様を気にしている余裕はなかったのだ。


つやつやした石の表面を指先で撫でて、ようやく事態を把握したその時。ぼん、と一瞬で頭が煮えた気がした。


顔が、熱い。


「…おい、大丈夫かアン?顔真っ赤だぞ」


「~~~~っ!」


今一生懸命、こういう時に自然と振る舞えるマナーも習っているんだけどなぁ!


食事の作法ならいざ知らず、こういう場面では、これさえやっとけばOK!なんてのが少なすぎてどうにもならない!


うれしいのと、申し訳ないのとが押し寄せて、何から言っていいのか分からない。


「ああ、安心しろよ。国の金には手をつけてない」


フラン様が視察で訪れたモンスターがでる鉱山。そこで働く探鉱者と一緒に戦う内に意気投合したフラン様は、モンスターの落とした素材と交換で、変わった鉱石を分けてもらったそうだ。ブローチの作成も、素材を換金して職人に依頼したらしい。


「アン、お前の目は金色だからな。きっと似合うとは思ったが、流石に好みに合うかはわからなかった……気に入ってくれた、みたいだな?」


ていうことは、最初から私にくれるつもりだったんだろうか。一から素材を探して、似合うものを考えてくれたの?


もう頷くしかできなかった。前世でもなかった突然の贈り物イベントで、正直いっぱいいっぱいだったのに。


息も絶え絶えに、消えそうな礼の言葉を述べる始末でも、フラン様は優しい。仕方なさそうに笑って、わしわしと頭を撫でられた。散々撫でた後で、ほっぺたをひんやりした両手で包まれる。


「ふ、フラン様……!」


「熱いな……だがこれでちょっとは冷えるだろ。頼むから、屋敷から外に出る時は必ずつけてくれ。もったいないからと、引き出しにしまい込んでくれるなよ?」


お前にその色を見てなお声をかける奴を、俺が全員片付ければ話は早いだろと。


間近でふてぶてしく笑う顔にきゅんとしたのはもうね。仕方ないと思うんだよ。


ていうかフラン様、この時点でじゅ、12歳なんだよね?そうだよね?中に成人済みのお兄さんとか入ってないよね?


正直私以外にも生まれ変わった人がいる気がして、定期的に前世ねた振ってみたけど。まったくわかってなかったもんね!?え、それはそれでこわい!

読んでくださっていることも、評価も、誤字報告も、本当にありがとうございます。

誤字には本気で気付いてません。全部ノリで書くのでろくでもない間違いしてますね。うける。

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