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私と彼女の物語  作者: 雪桃
高校一年生(全27話)
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謎の表情

「さくら先輩、ちょっと」


 さくらの後ろから声をかけてきたその少々小柄な女の子は伊部弥生。和楽部に所属しており、さくらの一つ下の後輩だ。

 去年の合宿からさくらとは親しい仲になっている彼女だが、いつもの活発さはどこかへ消え、不安げな表情を浮かべている。


「どうしたの弥生。そんな浮かない顔して」

「いえ、あの、ちょっとお話したいことがあるんですけど」


 弥生は隣に座っている彩果を気にしながらさくらに何かを伝えようとする。何かを察した彩果はすぐに二人の前から遠くへ動いた。

 他に近くに人がいないことを確認してさくらに小さな声で問いかける。


「あの、さくら先輩が今話してる人って」

「碧くん?」

「はい。そのあ……柴崎先輩ってどんな人でした?」


 弥生の質問に首を傾げながらさくらは先程まで一緒にいた碧の姿を思い出す。


「野球をしてたから健康そうな体つきで、身長は相澤くんと同じくらいで、顔つきはまあまあ整ってて」

「ち、違います! 容姿のことじゃなくて、最近どんな様子かなって」

「最近? なんで気になるの?」

「え、えっと、あ! 小学校の頃仲良くしてもらったことがあったのでもしかしたらと思って」

「ああそういうこと。今の碧くん? うーん、大人っぽいっていうか、あんまり感情の起伏がないっていうか。相澤くんに似てると思う」


 さくらの曖昧な説明に弥生は釈然としないような表情を見せながらもさくらに対して微笑み礼を言う。


「ありがとうございますさくら先輩。それが聞けただけでも良かったです」

「ん? うん」


 含みのある言葉を残しながら立ち去る弥生を疑問に思いながらも、さくらは休憩を終えて会議室へと戻っていった。

 さくらが戻った後も碧は休むことなくキーボードを打っていた。一時間だと言われていた委員会の業務だが、さくらの十分の休憩を抜いても既に規定は超えている。


「碧くん、もう時間経ったよ?」

「うん。でも多分このペースでやってると体育祭までに間に合わないかもしれないから」

「え、じゃあ私もパソコン手伝うよ」

「神海さんがやったら確実に五分で壊すからいい。できなくなったら他の委員に手伝わせるし、神海さんは残りを仕上げて」


 他人に任せるのなら何故さくらに副委員長をやらせたのか。そう問いたいさくらだが、ペースを早めている碧に口を挟める度胸はない。

 せめて機械がなくともできる業務だけでも終わらせようとさくらも残業するように目の前にある仕事をこなした。




 さくらと碧が命じられた業務を終わらせたのは次の週だった。既に六月に差し掛かり、学校指定の夏服と紺色のカーディガンを羽織っているさくらはようやく片付いた書類の束を端に寄せて首を何度か回す。


「お疲れ様碧くん。ずっとパソコン見てたから私より疲れたでしょ」


 向かいに座っている碧がパソコンをしまっている姿を見ながらさくらは両手を顔の前で合わせる。碧はさくらの方を見ることなく片付けながら返事をする。


「別に、家でも少しずつ使ってるし、そこまで苦ではなかった。神海さんの字も見やすかったし頼りになったよ」


 不意打ちで碧に褒められ、さくらは地味に頬を紅潮させる。やはり褒められると誰しも嬉しいものだ。


「これから後一ヵ月は」

「他クラスの委員長と、先輩達全員が集合してこの纏めたものを照らし合わせながら当日の流れを確認したり、当日使用するパネルとかを作成したり」


 さくら達の通う高校では費用削減のためにできるものはなるべく自分達で作成することが決まっている。例えば入退場の門だったり、得点板だったり、装飾関連のものを中心に委員会で作っている。

 この作成は放課後をほとんど使用するが、生徒もこれまでと比較にならないくらい多く動員されるため、一ヵ月足らずで完成する。もちろん指揮が採れていればの話だがこの調子なら問題はなさそうだろう。


「神海さんはそっちの方が得意なんじゃない?」

「うーん、物を作るのは好きだけど昔からあまりやってこなかったから普通かも。碧くんは苦手そうだよね」


 さくらが冗談混じりに碧に聞く。しかし彼はそれに対して微妙な苦笑を向けるばかりでさくらの想像していたものは返ってこなかった。


(あれ?)

「碧くん、もしかして何か触れちゃいけなかった?」

「……いや、別に」


 先ほどまでの親しみやすかった表情はなくなり、さくらは言いようのない気まずさを覚える。


「あ、そ、そうだ! 私今日からまた部活に戻らないと。流石に一ヵ月ほとんど休んじゃったから。じゃあね碧くん、また明日」


 さくらはその場から逃げるように早口でそう言うと、下に置いてあった鞄を手に取り、早足で会議室を出ていった。

 彼女を見送る碧の冷たい視線に気づかずに。



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