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私と彼女の物語  作者: 雪桃
高校一年生(全27話)
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壊れるお嬢様

 入学式から三日目。始業式を終えた他学年の生徒も学校生活が始まり、一気に学校全体が賑やかになった。


「それでね先輩。さくら委員長になったんですよ。あのさくらがですよ。考えられます?」


 久しぶりの部活中、未奈は目の前にいる一つ上の先輩に昨日腹が捩れる程笑ったあのさくらの話を聞かせる。


「その碧君とやらが策士だったんだね。妖精ちゃん、お気の毒に」


 『妖精ちゃん』という不思議なあだ名でさくらを呼ぶこの先輩は未名河彩果。去年、妖精の世界へ閉じ込められ、さくら達の助力があり呪縛から解放された少女である。今は高校二年生に進級し、ティタニアに怯えることなく学校生活を送ることができている。

 彩果の件に関しては、さくらの家族と、さくらの親しい友人四人しか知らない。


「それにしても奈子さんが卒業してから何だか寂しくなってしまいましたね」

「奈子が部長だった頃はここも随分纏まってたからね。私ももうじき部長を引き継がなきゃいけないから荷が重いわ」


 あの一件があってから彩果は奈子のことを呼び捨てにすることにした。初めこそ先輩を呼び捨てにする彩果に驚いていた面々だが、奈子が彩果以上に満足そうに笑っているためそれが一般化したのはつい最近のことである。

 しかし、そんな奈子も今年の三月には卒業を迎え、今は少し遠くの大学に通っている。


「彩果先輩、呼んでもらえません? 週一か週二で」

「頼んでみようか」

「高岡先輩も忙しいでしょうしやめましょうか」


 未奈と彩果が本気でスマホを取り出そうとするので有季はやんわりと止めた。彩果の頼みを断れない傾向が奈子にはある。


「まあ奈子も暇があったら遊びに来るって言ってたからね。それより妖精ちゃんは? 一緒に来なかったの?」

「ああ、それが委員長会議があるらしくて……」


 彩果の質問に未奈が答えようとした矢先、部室の引き戸が乱暴に大きな音を立てて開いた。未奈達の視線が一斉にそちらへ向く。


「あ、妖精ちゃん久しぶり。大丈夫? 綺麗な髪がなんだかグチャグチャに……わぁ!?」


 引き戸の先には息切れを起こしているさくらがいた。さくらの目はこれまでにないほど闇を抱えている。

 彩果がさくらに挨拶をしようと声をかけるとさくらは一直線に彩果へと突撃していき、その胸に思いきり顔を埋めた。そのまま無言で彩果の匂いを吸う。


「嬉しいけど複雑だわ妖精ちゃん」


 流石の彩果も自分の胸で匂いを嗅がれることはそこまで良いことではないらしい。困ったように眉根を寄せ苦笑しながら未奈の方へ救援を要請する。


「すみません誰か助けてもらえませんか」

「頑張ってください先輩。今なら可愛い妖精ちゃんが触りたい放題ですよ」

「いや、流石にこれはくすぐったいというか。私の望んだものではないというか」

「ああ、先輩の匂いだぁ」

「妖精ちゃんお願いだからそれ以上嗅がないで!」


 いつもは彩果が鬱陶しい性格のはずだが、その立場が今日は逆転している。何とか引き剥がそうとする彩果だが、何故か今日のさくらは力加減がいつもと違う。


「ヘルプ! イケメン君ヘルプ!!」


 未奈も泉も助けてくれないとわかると彩果は楽器の準備を始めた昨夜に救援を求めた。

 昨夜も流石に同情を向け、さくらを無理矢理引き剥がす。


「さくら、落ち着け。それ以上先輩を吸っても何も出ないぞ」

「その言い方は悪意がありませんか」

「お前が余程ストレスを抱えているのはよくわかったが、先輩に八つ当たりしない」

「だってぇ……」


 さくらにしがみつかれた彩果の制服は一部が皺になっている。剥がされた彩果は制服を直しつつさくらの様子を見守る。


「何があったのさくらちゃん」


 有季が側に寄ってさくらがこうなった原因を聞いてみる。さくらは少々黙り込んだ後、小さく説明しはじめた。


「碧くんが……」

「碧君が?」

「私を学年の副委員長にした」


 それだけ言うとさくらは力尽きたように畳に突っ伏した。

 さくらの高校には学年委員会というものがあり、修学旅行や体育祭、文化祭など学年の行事を取りまとめる小規模な生徒会がある。そしてさくらはその副委員長、学年の二番目の地位に選ばれたというわけである。


「委員長は?」

「あおいくん……」

「あははははは! さくらが、あのさくらが。あはははは!!」

「あいつ地獄に堕としてやろうかな。堕獄紋つけて」

「やめなさい妖精ちゃん」


 本気でキレ始めているさくらが言葉遣いを悪くしながら未奈を睨む。彩果は慌てて止める。あの時のさくらであれば本気でやりかねない。


「またなんでそんなことになったの。先生もいたはずだし立候補制でしょ?」

「いや、それが色々ありまして」

「色々?」


 さくらは三十分前の悪夢を細かく説明し始めた。


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