突然すぎて
午前中の全体集会はありきたりな進路選択の話や、新任教師の話、高校からの心構えなど、一般的に眠くなるような会話ばかりだった。事実、さくらの後ろの席に着いている生徒が寝て教師に注意されていた。
(こういう退屈なことに座って待っていられるのって稽古の賜物だよね)
母は意外とネチネチ嫌味を言ってくることが多く、稽古中も最高で一時間程正座で説教を喰らったこともあった。それと比べれば足を楽にしていいこの集会は随分と楽である。
それよりもさくらが気にしていることは先程の碧の発言である。
『俺が決めるからそれと一緒のやつ選んで』
(それってつまり私と同じ時間を過ごすってことだよね。私は他の子と仲良くしなよって言ってるのに。なんでわざわざ面倒事を引き受けるんだろう)
さくらは自分のことを何かと世話がかかる人間だと認識している。未奈や泉は幼馴染であり、昨夜や有季は前世の繋がりがあるということで一緒に過ごす理由もわかるが、碧に関しては未奈に頼まれただけでさくらと距離を取ってもらっても構わない。なぜ他の同性の友達やクラスメイトと親しくせず自分と関わるのかさくらには理解ができない。
(でも私にはそれを拒否するだけの度胸はないと)
碧の思考回路は謎だが、それで自分が場を白けさせる心配が薄れるというのであれば喜んで従おう。
午前の集会も終わり、昼食も無事一人で摂り終えたさくらは午後から信じられない光景を目にした。
「というわけで、このクラスの学級委員長は柴崎さんと神海さんに決まりました。二人とも、一年間よろしくお願いします」
「はい」
「は、はい」
(なんでぇぇぇぇ!?)
さくらの悲痛な叫びは心の中で消えていった。
原因は数分前にある。
「それでは委員会を決めたいと思いますが、その前にこのクラスの委員長を決めたいと思います。高校生は色々と行事も多いのでそれを取り纏める係ですね。誰かやりたい人はいますか」
学級委員長と言えばクラスの総括ともいえる仕事を行う生徒のことだ。もちろんのことながらそんな面倒な仕事をやりたいと言うのは余程優等生か変わり者くらいだろうとさくらは考える。
案の定誰も立候補しない、と思っていた矢先、後ろから声がかかった。
「はい」
「うん? どうしましたか柴崎君」
「委員長に立候補します。後、神海さんも」
「は!?」
さくらは思わず大きな声を出しながら碧の方を凝視した。碧はどこ吹く風というようにさくらの方には目もくれず担任に向いている。
「俺は中学の頃三年間学級委員長を務めた経験があるので他の人よりは慣れていると思います。後、神海さんに関しては俺の友人なので知り合いが一緒の方が気持ち的に楽なので推薦しました」
「なるほど。皆さんに異論がなければ二人に決定したいと思いますがどうでしょうか」
さくらは誰か反対してほしいと願ったが、波風立てたくないと思う心は皆あるのだろう。特に誰も碧の意見に反対する者はいなかった。
「神海さんはそれでいいですか?」
(嫌です! 絶対嫌です!!)
と言えれば良かったさくらだが、他三十人の視線がこちらに向いている中で自分の欲望を出すなど不可能に近い。
「はい。皆さんが良ければそれで」
「それでは二人に任せましょう。よろしくお願いします」
碧が委員長に慣れているというのは本当だろう。そして、さくらが自分の意見を満足に言えないことを利用して自分の補佐にしようとしたわけだ。あの短時間でそこまで考えられるとは碧はあながち侮れない。
(自業自得。自業自得ですけどね!)
さくらは半ば自棄になりながら後の和気藹藹とした委員会決めを眺めていた。
「あはははは! さくらが、委員長……あははっはは! お腹痛い……」
「そのまま笑い過ぎて窒息死するといいよ未奈」
放課後。いつも通り他クラスにいる四人と下校していたさくらは午後の小さな事件について腹を抱えながら笑っている未奈にこれまでにない程冷めた視線を向けた。
「碧もよくやったわ。一応さくらがどういう人間か簡単に教えといたんだけど、まさかここまで大胆に攻めてくるとは」
「有季くん、今すぐ未奈を苦しめる術かけてくれない?」
「駄目」
さくらが珍しく青筋を立てながら隣の元陰陽師に指図するが、有季はそれを軽々と拒否する。
「諦めなよさくら。それにいいチャンスだよ。委員長として皆と関わっていけば友達なんてすぐできるって」
「嫌われるの間違いじゃないの」
今まで三年間委員長になったクラスメイトを見てきたが、協力する者もいたものの、大半の生徒は委員長が決めたものに対して愚痴うぃ零したり無理な要求を加えてきたりと、友達を作るどころか除け者扱いされるような人が多かった。
「まあそれはそれでさくらボッチだし被害は少ないじゃない」
「泉は黙ってて」
昨日同様泉は会話にさえ参加させてもらえないらしい。
「決まったものは仕方ないけどさ。やるならやるで碧くんも事前に伝えといてほしかったわ。突然指名されて私混乱したんだから」
「言っておこうか。さくらにはちゃんと前置きしておいてって」
「やめて。これ以上ここの溝を深めないで」
碧のせいというか主に未奈のせいでさくらはこの先の高校生活が不安でしかなくなった。
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