流石は未奈の友達
翌日の早朝。いつも通り刻限三十分前に登校してきたさくらは一人で寂しくバッグの中身を机の中にしまう。この時間はいつも順番に登校してきた友人と話に華を咲かせているはずなのだが。
(ああ、これがぼっちっていうものなんだ。昨日の自己紹介から誰も私と絡んでくれないし)
自己紹介で絡まないのではなく教室にいる二、三人は新入生のためどう声をかけていいかわからないだけだが、緊張していたさくらがそんなことを理解しているはずもなく、見えない壁を心の中でただ固めていく。
(せめて一人でも同じクラスならいれば……欲を言えば相澤くんがいれば良かった)
昨日の状況からすれば未奈と有季はたとえ同じクラスにいたとしてもさくらに友達を作れと要求してくるだろう。あの二人は外面が良いので誰とでも仲良くなれる。泉は何を考えているのかわからず、たまに爆弾を投下してくるため新入生に何かを暴露されたらそのクラスでの立場がなくなる。消去法で行けば昨夜がいてくれた方がさくらとしてはとても心強い。
(ま、まあね。休み時間さえ乗り切れば授業中に友達はいらないわけだし? 放課後になったら半日分の会話は部活で補えば……)
「何笑ってるの?」
「ひっ!?」
後ろから男子の声が聞こえ、さくらは声を上ずらせてしまう。
「おはよう」
「お、おおはよう碧くん。早いね」
「いや、もうすぐ予鈴鳴るけど」
「え!? あ、ああ本当だ」
さくらが心の中で捻くれている間に既に時間は二十分以上経っていたらしい。その間に碧も来て準備を終わらせていたようだ。
「それで? なんで笑ってたの?」
「い、いや。ちょっと思い出し笑いと言いますか。頭がおかしくなったわけではないのでご安心ください」
「昨日の自己紹介の時点で人と少し違うことはわかってる」
「ひ、人が気にしていることを」
碧がさくらの傷口を抉るような発言を容赦なくしてくる。
さくらは早々に話を切り上げたい気持ちのまま碧へと体を向ける。
「神海さんは持ち上がり組でしょ。それなら友達とかいるんじゃないの」
「いや、私は基本的に友達は多めに作らないと言いますか」
「ああ。要は未奈達以外に友達がいないってこと?」
「そんなダイレクトに言わなくてもいいじゃないですか」
二言三言交わしただけでもわかる。碧はさくらの触れてほしくない部分を罪悪感なく抉ってくるらしい。確かに未奈の友達らしい性格をしている。
「あの、昨日も言ったと思うんだけど無理して私に関わらなくていいですよ。碧くんは男の子同士で仲良くなってもらっても構いませんから」
「いや、それは無理だと思う」
「え? なんで……」
さくらが話を続けようとする前に始業のチャイムが鳴った。それと同時に担任が教室に入ってくる。
「皆さん着席してください。ホームルームを始めます」
「時間になったから他の人とは話せないし」
「それは私のせいじゃないと思います」
碧から担任へと体を動かしながらさくらは返事をする。
「おはようございます。今日の予定として、午前中は全体で集会を行い、午後からはクラス内で委員会決めを行います。明日からは他の下級生、上級生も加わっての生活になります」
担任の話は中学生の入学式後にも同じことを言われた。おおまかな流れは恐らく三年前と同じだろう。そこは別にさくらの気にするところではない。
(問題はその後というか)
午後の委員会決めはどの役職にせよ必ずクラスメイト全員が参加する流れになる。大体一つの作業に二人もしくは三人が選抜されるのだが。
(これってグループでやりたいとかの人達と偶然重なったらすごく重い雰囲気になるんだよね。先にそういう人から選んでいけばこっちも被害が少ないのに)
中学生の時は未奈と泉がいたおかげで何かと嫌な空気になることは避けられた。だが今は一人だ。更に昨日の自爆のような自己紹介をしてから何だか碧以外のクラスメイトが一線を引いているような気がしてならない。
(自業自得だとは思うけどね。私だって好きで緊張してるわけではないの)
最悪最後まで手を挙げずに残り物にこっそり入ればいいかとさくらは安易に考えながらホームルーム中を過ごす。
「神海さんは何に入ろうと思ってるの」
「へ?」
さくらが考えていたようなことと同じことを碧が後ろから小声で話しかけてきた。担任からあまり目の届かない所に座っているから少し話すくらいなら問題ないと思ったのだろう。
「中学生の時からいるんでしょ。決まってないの」
「決まってないというか、未奈たちが決めてたものに便乗してたから自分で決めたことがないんです。まあ最後まで残っているものにしようかなって」
「自分の意思はないの?」
「なるべくグループで動いている人に譲りたいでしょう」
さくらの言い分に碧はつまらなそうな腑に落ちないというような顔を向ける。
「じゃあさ、俺が決めていい?」
「え?」
「俺が決めるからそれと一緒のやつ選んで」
「へ?」
さくらの意見は聞かずに碧はそのまま担任の話へと戻った。
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