臆病で人見知りなお嬢様
三人の目の前に現れたのは栗色のショートボブに学校指定の制服を着用した少女──何を隠そうさくらの小学生からの幼馴染、栗山未奈である。未奈はアルマジロになっているさくらを見下ろして不審者でも見るように眉根を寄せる。
「何これ。新手の未確認生物?」
「うーん、もうそれでいいかな」
「良くないぞお前ら」
何故かこの二人が集まるとどうしてもツッコミ役をしなければならない昨夜は入学早々嫌な予感を覚える。
「で? それはそうと何してんのさくらは」
「クラス編成に異論があるみたい」
「クラス?」
有季は未奈に事の顛末を説明する。その間さくらがこれ以上暴走しないように昨夜は監視しておく。クラスに新入生がいるため視線が痛い。
粗方の説明を受けた未奈はクラス表とさくらを交互に見比べる。
「さくら、あんた新しい友達は欲しくないの?」
「欲しくないと言えば嘘になる」
「欲しいのね。じゃあ一人にメール送っとくわ」
「は?」
未奈が説明もなしにスマホを取り出して誰かにメッセージを送っている。
「よし」
「よしじゃない! 何したの! 誰に何を送ったの!」
さくらが慌てて未奈のスマホを取り上げ開かれているメッセージを覗く。そこにはさくらの名前と友達になってあげてという旨が書いてある。メッセージを受信した宛先はというと。
「柴崎、碧?」
さくらが声にして名前を呼ぶと未奈は一つ頷く。
「私の引っ越す前の幼馴染。さくらとは学区が違うから知らないだろうけど私は隣だからそのまま継続して友達だったのよ」
「それで?」
「あんたと同じクラスみたいだから仲良くしてあげてって送っといた」
「何を勝手なことを」
その碧という女の子とさくらは気が合うのか。未奈のことだからさくらをいじめるような人間に連絡は取らないだろうがそれでもさくらは警戒心を弱めない。
「別に仲良くしなくてもいいけど。あんた、部活以外で仲いいクラスメイトいないでしょ。もしボッチ飯になったらこっち来ていいから。じゃあね。こっちもホームルームあるから行くよ。二人とも行こう」
「また後でねさくらちゃん」
「すぐ迎えに来てやるから」
「薄情者ぉ……」
さくらが引き止めようとするが、三人は別のクラスへと戻ってしまう。ちなみに三人と今日は合流しなかった泉は全員同じクラスらしい。何とも酷な話だ。
「はあ……」
廊下で一人蹲っていても仕方がない。さくらは渋々目の前の教室に足を踏み入れた。
新入生は初めての高校ということで緊張しているが、持ち上がり組は既に仲の良い友達同士でいくつかグループができている。恐らくこの場で一人なのはさくらだけだ。
(どうしよう。もう心が折れそう。早くホームルームになってくれないかな)
神様仏様とさくらが心の中で願っていると、しばらくして担任が教室内に入ってきた。どうやら担任は穏やかそうな男の先生らしい。中学の頃から知っているのでさくらは少しばかり緊張を解いた。
「皆さんおはようございます。入学式が終わって一息吐いているところだとは思いますが、今日もやることは沢山あります。配布物と諸々の手続きと、後は自己紹介ですね」
(出た)
さくらの最も苦手な分野。それこそが自己紹介だ。何せさくらは病的なまでの人見知り。更に神海家ともなればこの付近で知らない者はいないほどの超名門家。そこの跡取り娘ともなれば嫌でも期待が付きまとってくる。
「たった一分程度でいいです。出席番号と名前、後は所属したい、またはしている部活などを教えてください」
(たった一分。されど一分。待ち時間がどれだけ長いか)
さくらの通っている学校はなぜか五十音順で並ばない。全てランダムに配置されている。何でも『あ』の人が最初、『わ』の人が最後だといつまでも不公平だと言うが正直わかりにくいので変えてほしいと思う。特に今のさくらの席は後方寄りだ。ずっと緊張したままクラスメイトの発表を聞いていなければならない。
(私だってできることなら皆と仲良くなりたいよ。でも無理でしょ。この極限状態でどう平静を保っていろと!?)
さくらが──あくまで心の中で──絶叫している間にも着々と各々の自己紹介が終わっていく。さくらが完全に気絶する一歩手前で順番が回ってきた。
「神海さん、お願いします」
「は、はい!」
ロボットのように硬直した手足を動かしてさくらは立ち上がって周りを見る。そこにあるのは両手では足りない程の人と目。
「に、二十番の。じ、じ、神海、しゃくりゃ、でしゅ。部活は、わ、和楽部に、入っております。よ、よろしくお願いしましゅ」
あまりのさくらの吃りと茹蛸のような真っ赤な顔にクラス中がポカンと口を開けたまま数秒固まった。
「い、以上、です」
さくらが俯きながら席に着くと、驚いていた担任も我に返った。
「あ、ああそうですね。よろしくお願いします神海さん。それじゃあ次の方、どうぞ」
さくらの発表で何とも言えない空気になった後の自己紹介は何とも辛いものがあるだろう。
さくらは罪悪感に押しつぶされながら後ろの席に向く。
「はじめまして。十九番の柴崎碧です。中学の頃は野球部に入っていました。よろしくお願いします」
(……え?)
柴崎碧──未奈から紹介されたクラスメイトだ。その健康そうな体と邪魔にならない程度に切られたショートカットの髪。そして高校特有のブレザーと、スクールズボンを履いた。
(男、の子?)
だった。
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