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私と彼女の物語  作者: 雪桃
妖精世界(全21話)
83/154

あれは何だったのか

これにて中三編・妖精編は終了です。

 彩果が落ち着いたところを見計らって大成は車を出した。しばらく運転してから大成はあることに疑問を抱く。


「ところで二人に聞きたいことがあったんだが」

「はい?」


 大成の問いに後ろに座っていた彩果と奈子は首を傾げながら続きを待った。大成は運転を続けながら助手席の少女を横目で見る。


「さくらはいつから意識を失っていたんだい? さっきから全く起きる気配がないんだが、あちらの世界では起きていたのだろうか」


 大成の疑問に二人は困ったように顔を見合わせる。彼の言う通り、さくらは人間の世界に帰ってきてから一度も目を覚ましていない。いや、それどころか──。


「あの、それが私たちにもわからないことがあって」

「うん」

「ティタニアを倒したのは神海さんなんです」

「え?」


 流石の大成もその返答は予想外だったらしく、奈子に聞き返す。


「倒す? 説得や言いくるめではなく?」

「はい。物理的にというか」

「もう少し説明してもらってもいいかな」


 大成に促され、奈子は妖精の世界で起きたさくらの異変を事細かく説明した。

 ティタニアによって彩果が完全に奴隷紋の餌食になりそうだったこと。奈子が堕獄紋をつけられ地獄に堕とされそうになったこと。奈子の体が沈みそうになったところで周りに衝撃波が立ち、奈子は地獄から離され、彩果の意識が戻ったこと。そして次の瞬間。


『あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』


 ティタニアの顔は醜く爛れ、真下にいたさくらはそんなティタニアに対し軽蔑と憎悪を込めたような視線を向けた。そして止める暇もなく、さくらはティタニアを地獄に堕とした。


『偽りのティタニア』

『さくらこは私のもの』


 不思議な台詞を吐き捨てて。


「その後は私達も慌てていたので詳しくはわかりません。ただ、ティタニアを地獄に送り込んだ神海さんはその後、何も言わずに人間界との扉を開けました。そこからはずっと意識を失ったままです」


 足りないところは彩果も補うなどしたが、如何せんどちらも理解が追いついていない。

 それでも大成は先程までの穏やかな表情から一変し、険しい顔つきをさくらに向けた。


「あの、大成さん?」

「ああ、ありがとう二人とも。僕の考えられる限り、さくらの命に別状はないようだからそこは安心してほしい。だが、これはあまり喜ばしい報告ではないね」

「何かわかりますか?」

「いいや。でもその何かは二人の前でティタニアを葬ったのだろう。さくらは生まれてから今までただの普通の女の子だ。僕たちが知らない何かがさくらに取り憑いたのかもしれないね」

「それにさくらこって。千年前の神海家に実在した方ですよね。確か妖精ちゃんが一年の頃に巻き込まれたっていう」

「ああそうだ。もしかしたらさくらこに関与する何者かがさくらを利用してティタニアを始末したのかもしれない」


 確かにあの時のさくらは今までのさくらと全く気配が異なっていた。もちろん今まで不思議な力を使ったことも見たことがない。

 だがさくらこは違う。二年前、さくらが巻き込まれたようにさくらこは悪い気を呼び寄せる。その悪い気の元凶がさくらに取り憑き、原因不明のままティタニアを地獄に堕とした。


「でも、偽りのティタニアってなんだったんでしょう」

「それは簡単だ。その世界も女王も全て仮初の姿なんだよ」

「かりそめ?」


 彩果と奈子にわかるように大成は更に説明を続ける。


「そもそもティタニアはシェークスピアの作中人物。イギリスが舞台だ。精露山はあくまでその舞台に近い場所だったというだけで、完全な世界ではなかったというわけだ」

「妖精にこちらの世界観が通じるんですか」

「あくまで彼らは空想上の人物だ。こちらが想像する通りに動く。あのティタニアも、さくらに取り憑いた何かが仕組んだ偽物だと考えれば、合点がいく」

「偽物の、ティタニア」


 よく考えてみればあの世界はおかしなことばかりだった。ティタニア以外の妖精はほとんど人形のように指示されたことだけ動き、木々には生気が宿らず、空はずっと夜のまま。


「あのティタニアは、何がしたかったんですか」

「わからない。ただあの狂気ぶりから見るに、彼女は人間の子どもを溺愛していたのだろう。だが女王でも何でもないただの妖精が人間を攫うほど力を持っているとは考えられない。そこにつけ込んで仮の力を付与した。そこで済ませておけば良いものを狂気に満ちたティタニアはさくらを襲うという取り憑いた何かの逆鱗に触れた。だから世界を崩壊させた、という筋が有力だね」

「人間の子どもを、溺愛していた」


 確かに今までのティタニアは病的なまでに自分が選んだ坊やを愛していた。

 あの愛情がもっと優しいものであれば。あの眼がもっと慈愛に満ちていれば。人間から子どもを切り離すことなく、平等に愛していれば。


「誰も苦しむことはなかったのに」


 彩果がポツリと零したその言葉は、都会の喧騒に塗れて消え去った。



次回、高校生編になります。

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