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私と彼女の物語  作者: 雪桃
妖精世界(全21話)
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堕獄紋

お待たせいたしました。

 彩果は今にも叫び出しそうな顔で奈子の姿を目で追った。

 あの稲妻は知っている。真矢が逃げ出そうとした時も、ティタニアはあの稲妻で動きを封じた。そしてそれに体を貫かれた奈子もそのまま地面に崩れ落ちた。


「あ、あ……」


 うつ伏せに倒れ、全身が痺れて痙攣する奈子をティタニアは冷ややかな目で見下ろす。


『何もできない小娘が偉そうに逆らうからこうなるのよ。人間が(わたくし)達に逆らうなんておこがましいにも程があるわ』


 ティタニアは力なくその場に置かれている奈子の左腕を取って引きずるように持ち上げ、間髪入れずに近くの木に体ごと打ち付ける。


「うっ!」


 鈍い音を立てて叩きつけられた奈子の体は力なく木を背にずるずると倒れる。

 そんな奈子の様子を彩果は黙って見るしかできない。


(やめて。お願いだからやめて。私ならいくらでも我慢するから。奈子を殺さないで。私の目の前で奪わないで)


 ここで奈子が死んでもティタニアや妖精世界にはなんの支障もない。だが人間界ではどうだ。

 奈子が突然失踪したことでまた社会で取り上げられるだろう。奈子の母──真矢の姉は妹だけでなく娘までも妖精に奪われる。そして再び彩果の親となってくれた真矢の母もまた愛していた娘と孫を殺される。


(彼女達が何をしたというの。悪いのは私だけでしょ。私が言いつけを守らなかったから妖精の世界に閉じ込めたんでしょう。だったら私を罰すればいいじゃない。奈子は関係ない。お母さんもお姉ちゃんも関係ない)


 声を上げたい彩果だが、奴隷紋がそれを許さない。彩果が動こうとする度に金縛りのように奴隷紋が薄く光る。


(ティタニア。あなたが欲しいのは坊やだけ。人間が苦しんだってあなたには何の得にもならない)


 どうにかしてティタニアを止められないか。そう彩果が考えていると、不意に止まっていたティタニアが倒れ込んでいる奈子の首を鷲掴み、自分の目線まで持ち上げた。


「……っ」

『ただ殺すだけなら罰にはならないわね。(わたくし)の坊やを奪った罰は、もっと残酷なものにしましょう』


 そう言うや否や、ティタニアは奈子の右半分の顔を片手で覆い、肌に爪を立てた。


(奴隷紋!?)


 彩果はその動きに反射的に身構える。だが直後違和感に気づく。

 ティタニアは子どもにしたいと思った者にのみ奴隷紋をつける。侵入者や殺意のある者にはつけない。それに──。


(奴隷紋は、左につけるんじゃ……)


 奈子が覆われているのは右の顔。自分は左にあるのに、何か意味があるのだろうか。彩果がそう思いながら見ている間にもティタニアは奈子に呪文を唱える。


「う、あ……」


 奈子がその痛みに悶え苦しみ始める。彩果は何とかして奴隷紋の呪縛から逃れようと腕に力を込める。


『安心して坊や。これは奴隷紋じゃないから、あなたを害するものはなくなるわ』


 彩果の反抗に気づいたティタニアは振り返って薄らと微笑む。

 彩果は敵対心を剥きだしにしてティタニアを睨むが、ふと奈子の方に視線を向ける。


(蝶が、逆?)


 彩果の顔に浮き出ている痣は片羽の色鮮やかな蝶だ。一方奈子の顔に浮き彫りになってくる痣は闇のように黒く、形も不自然な羽のように逆の形をしている。


『坊や。これはね、堕獄紋というのよ。よく覚えておきなさない』

(だ、ごくもん?)


 ティタニアは奈子に烙印を押しつけたまま彩果に優しく話す。


『堕獄紋をつけられた者も不老不死になる。生きたまま地獄に堕とされ、生まれ変わることもなく、永遠に地獄で罰を受ける』


 苦しみもがいていた奈子はティタニアの言葉に息を呑む。そんな奈子の表情を見てティタニアは嘲笑う。


『可哀想に。何百年、何千年、何億年の時を経ても、あなたは死ぬことも許されず、ずっと地獄に居続けるの。肉を抉られ、骨を砕かれ、体を引きちぎられてもすぐに再生してまた同じことを繰り返される。永遠に。永遠に』


 奈子の堕獄紋は段々色濃く、顔半分に拡がっていく。彩果はただただ無闇に手を伸ばそうとする。


(やめて。奈子を苦しめないで。地獄になんて行かせない。奈子は帰るの)


 奈子の足元が徐々に赤黒く変色していく。恐らくあそこを落ちた先が地獄だろう。

 ティタニアの奈子を掴んでいた手が離れていく。


(やめて、やめて……奈子!)


 奈子の首からティタニアの手が完全に離れた。奈子はそのまま重力に逆らわず足元から沈んでいく。


「やめてぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 彩果が奴隷紋に抗い、声を張り上げたその瞬間だった。

 彩果と奈子がティタニアから切り離され、光の空間に巻き込まれる。


「なに!?」


 彩果はただ驚愕を浮かべたまま後ろを振り返る。目の前に立っていたのは。


「よう、せい、ちゃん?」


 さくらだった

蛇足1

さくらが迷い込んだ時は「右の奴隷紋」でした。これは、「坊やではあるけれどティタニアから逃げようとした罰」を意味しています。

彩果は左の奴隷紋で、奈子は右の堕獄紋なので全員意図が違います。

蛇足2

「堕獄紋」はティタニアがつけた名称ですが「奴隷紋」は人間がつけた名称です。(だってティタニアにとっては坊やは奴隷ではなく子どもですから)

新しい名前を考えるのが面倒でティタニアも奴隷紋と呼ばせています。

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