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私と彼女の物語  作者: 雪桃
妖精世界(全21話)
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 さくらは目の前の優しい表情を浮かべている父の顔を引き攣った顔で見上げる。


「さくら、どうしたんだい? 使用人に呼ばれて来たらそんな表情で。母さんと喧嘩したんだってね」


 大成は身長差のある娘と目線を合わせるように腰をかがめ、諭すようにさくらに話しかける。


「さくら?」

「お、お父さま」


 母とは違った心配そうな表情を浮かべる大成にさくらの心は解れていく。気づいた時には既にさくらの頬に涙が落ちていった。


「助けてください。奈子さんが、彩果先輩が……」


 どうせ信じてくれないだろう。そう思いながらもさくらは自分の中に溜め込んでいた悩みをしゃくりあげながら大成に吐き出す。


「私しかできないの。私しか知らないの。私が助けにいかないと二人が永遠にティタニアに閉じ込められて」


 さくらの理解不能な言動に大成は嘲笑することなく微笑を称えたまま相槌を打つ。さくらが涙で話せなくなるまで待ち、小さな娘の体を抱きしめる。


「さくら、よく耐えたね。まずは落ち着きなさい。僕の部屋へ行こう。そこでちゃんと説明できるね」

「……うん」


 父に抱っこをされ、さくらはすぐ近くにあった大成の部屋に連れていかれた。さくらが畳の上でしゃくりあげている間に大成はお茶を淹れて戻る。


「少しずつでいいから落ち着いて。初めからしっかり説明しなさい」

「はい」


 さくらはゆっくりと包み隠さず全てを大成に説明する。

 山梨に合宿に行ったこと。精露山が近くにあったこと。未名河彩果という人間がいたこと。神隠しに遭ったこと。記憶を書き換えられたこと。

 そして、奈子が一人で彩果を助けに行ってしまったこと。


「私と奈子さんが、彩果先輩を連れ戻そうとしたから。ティタニアは激怒して私たちに仕返しをしたの。そして今度は奈子さんを連れ去ろうとしている」

「さくらは、二人を助けたいんだね」


 大成の問いかけにさくらは躊躇うことなく頷く。


「お父さまは信じるの? 私の話を」

(にわか)に信じがたい話だが、娘がボロボロになりながら話しているのに信じない親がどこにいる?」

「だって、お母さまが」


 さくらの言い分に大成は首を横に振る。


「母さんのことを悪く言わないでくれ。これは僕のお願いだ。母さんは、君が大切でならないんだよ。母親は、娘が危険に晒されないように、時に過保護になってしまうんだ」


 それはさくらも知っている。さくらと大喧嘩をしていた時の母は、少なからず傷ついた表情を浮かべていた。それだけさくらは愛されているということだ。


「じゃあ、もう諦めなければいけないの? 記憶を残したまま、私だけ生きるの?」

「父親としては、その方が心臓にいいけどね。娘が永遠に消えない罪を背負うのを見届けるのはもっと辛い」


 大成の優しい声音にさくらが落ち着き始めているところで部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「旦那様。さくら様のご容態はいかがでしょうか」


 さくらに付いてきた使用人が扉の外から窺うように声をかけてきた。


「えっと……」

「大丈夫だよ。お母さんと喧嘩したから癇癪を起こしてしまったみたいだ。今は落ち着いたみたいだから後で部屋に戻すよ。君はもう下がりなさい」

「承知いたしました。おやすみなさいませ」


 大成の機転により使用人が部屋から離れた。外の気配がなくなったところで大成がさくらに向かう。


「さくら。僕に考えがある。明日の朝、お母さんを説得するからさくらは準備をしなさい。いいね」

「……できるの?」

「可愛い娘のためだからね」


 大成がさくらの頭を優しく撫でる。

 さくらは一人で抱え込んでいた不安を父に打ち明けたことで心が楽になった。


「ありがとうお父さま。じゃあ、お願いします」

「ああ。おやすみさくら」

「おやすみなさい」


 さくらは大成の部屋を出て、迷うことなく自分の部屋へ向かった。




 翌朝。いつもと同じ時間に起きたさくらは寝ぼけた頭のままリビングへと向かう。


「どういうことですか!!」


 障子に手をかけたさくらは中から聞こえてきた怒声に体を大きく震わせた。ぼんやりとしていた脳も冴える。

 恐る恐る障子を開け、隙間からリビングを覗くと落ち着いた雰囲気の大成と拳を作り顔を赤くしながら夫に詰め寄っている母がいた。


「どういうことも何も言った通りだよ。さくらが山梨へ行くのを許してほしいんだ」

「絶対に許しません! あなたまでさくらの肩を持つんですか! 自分の娘が理由も語らず一人で遠くへ行くんですよ。危険しかないでしょう!?」


 やはりというべきか、母が詰め寄っていた原因はさくらだった。さくらは昨夜父が説得してくれると考えていたが、これでは流石の大成も手に負えないだろう。


「落ち着きなさい。そんなに大声を上げたら倒れてしまうよ。君も体が強いわけではないんだから」

「大声を出させているのはあなたでしょう! 私はさくらの身を案じているんです。一人で行って事故に遭ったらどうするんです。貧血が悪化して道中倒れたら? 誰もすぐ駆けつけられないでしょう」


 さくらは障子の隙間から様子を見ながら表情を曇らせる。これでは平行線だ。母をよく知っている父でさえこの状態だ。結局諦めなければならないのか。

 さくらが気を落としていると微笑を称えたまま大成が口を開いた。


「母さんが言っていることもわかるよ。僕だって娘を危険な目に遭わせたくないさ」

「じゃあ……」

「だから一人にしなければいいんだ」

「はい?」


 母が聞き返したのとさくらが顔を上げたのはほとんど同時だった。


「僕が一緒に精露山へ行けばいいんだよ」


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