表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と彼女の物語  作者: 雪桃
妖精世界(全21話)
69/154

互いに引けない状況

「彩果は、まだ幼かったこともあってか保護された一月後には普通に食事も排泄も一人でできるようになった。妖精の世界で話していなかったせいか言語発達は大幅に遅れていたけど、そこは日常会話で回復したわ。ただ一つ問題があった」


 さくらに粗方説明をする奈子は、彩果のいない写真が収められている分厚いアルバムを手に昔のことを思い出す。


「何をされたのかはわからない。ただ、人間にとってトラウマになったことを散々やられたんでしょう。感情を表すという行動が出なかったわ。私が小学校を卒業する頃に少しだけ生理的な欲求を言葉で示しただけで、神海さんが知っている天真爛漫な彩果は中学生になってからだったと思うわ」

「彩果先輩……そんなことが」


 さくらが知っている彩果はいつも笑顔でたまに鬱陶しい、それでも学校生活で支えになってくれた仲の良い先輩だ。

 それが、ここまで追い詰められた過去を抱えていたとは思えない。そして、ここで何もできず彩果を亡き者にする気もない。


「そんなの……そんなの間違ってます。彩果先輩は、真矢さんはただ森で遊んでいただけ。それを妖精の勝手な思いで三十年も無駄にされ、ようやく感情も取り戻してきたところでまた連れ戻され永遠に森に閉じ込められるなんて。そんなのおかしい」

「ええ。私もそう思うわ。泣き寝入りする気もない。だから行きましょう」

「どこに?」

「精露山よ。もう一度あの場所へ行ってティタニアに直談判する以外方法はないわ」


 奈子が言っていることにさくらは一切の疑問を抱かない。彼女も同じことを考えていたのだから。

 だが──


「でも先輩。先輩も小学生の頃見たんですよね。それならわかるはずです。ティタニアは」

「私たちの話なんて一切耳を貸さないでしょうね。むしろ自分の子どもを盗る悪人と考えて殺しに来るかもしれないわ」

「じゃあ……」


 さくらが意見を言う前に奈子は彼女と目を合わせた。

 その目には並々ならぬ決意が浮かんでいる。


「先輩?」


 さくらはなぜかその目に不安を覚え、呼びかけてみる。


「大丈夫よ。彩果からティタニアを引き剥がす手立ては考えているから。後は家族の目を盗んで山梨に向かうだけ」

「……はい」


 奈子が大丈夫というのだから深く追及するのは野暮だろう。

 さくらは後ろ髪を引かれるような思いを抱きながらも奈子の作戦を聞いた。




 奈子の両親は共働きで二泊三日の出張に行っているという。その間奈子は一人になるので容易に山梨へ行く手立てを整えられた。

 だがさくらはそう上手く行くわけにもいかない。


「山梨に行く!? それも未成年だけで! 了承できるはずがないでしょう!」


 リビングにさくらの母の怒号が飛び交う。

 本当は内緒で山梨に向かいたいさくらだったが奈子に説得するよう言われた。

 一般家庭でも問題だがさくらは名門神海家の令嬢だ。書き置きだけ残したとしても高い確率で誘拐や失踪を疑われる。警察に届を出されればそれこそ一日と経たずに戻されるだろう。


「お願いお母さま。帰ってからならいくらでもお説教を受けます。何でも言うこと聞くから今回だけ許して」

「駄目です! 大体理由を聞いても答えられないのに行かせる親がどこにいますか。帰ってからって、そんな危険なことをして完全に帰ってこられる保障があなたにあるの!?」


 今まで散々喧嘩してきた二人だが、ここまで母の怒号が飛び交ったのは初めてだ。

 竦み上がりながらもさくらは反論できずに正座をしたまま母の怒りを受けていた。


「お母さまの気持ちがわからないなんてことは一切ないの。私だって同じ立場になったら絶対反対するもの。それでも行きたいの。今行かないと絶対後悔するから」


 しっかりと目を見て話すさくらの言葉を母は真面目に聞くが、それでも心が変わることはない。


「確かに高岡さんはしっかりしていますし山梨に行くくらいなら文句は言いません。でもあなたは違うでしょう。この家の跡取りとして育てられた令嬢です。それに重度の貧血を持っている。山梨で貧血を発症させた場合どうするのです? まさか高岡さんに全部任せようなんて思っていないでしょうね」

「お、思ってない! 最近は貧血を起こすことも少なくなってきたから大丈夫だと」

「それが命取りだと言っているのです。ここは都会ですし気心が知れているからあなたも慣れている。環境が変わればあなたの体も相応に変化してくる。薬でどうにかできれば今頃こんな口うるさく言われることもないでしょう」


 頭がいいさくらでも所詮まだ中学生。倍以上生きている母に口で勝てるわけはない。

 さくらがどう説得しようか迷っていると痺れを切らした母が話は終わりだと言わんばかりに立ち上がった。


「あ、待ってお母さま」

「待ちません。この話は終わりです。高岡さんには行けないと連絡しておきなさい。もし言わないならこちらからあちらの親に連絡させてもらいますからね」


 さくらが引き止める間もなく母は障子を閉め、自室へと戻ってしまった。

感想・誤字報告よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ