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私と彼女の物語  作者: 雪桃
妖精世界(全21話)
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奈子が真矢を知った日

 奈子と、男から真矢と呼ばれた女の子二人は地元の診療所に連れて行かれ、診察を受けた。

 奈子は転んだ際の擦り傷や打撲こそ多いものの、命にかかわる重大な傷はなかった。消毒と絆創膏をしてもらい、経過を待つこととなった。

 そして真矢は、奈子のように傷の手当てと共に、都心の大きな病院に運ばれた。


「先生」

「どうしたの高岡さん」


 診療所から帰る途中、奈子は付き添いの担任を呼んだ。


「あの女の子は?」

「……」


 奈子の質問に担任は顔を逸らす。あの山で診療所に運ばれてから真矢とは一度も会っていない。


「先生?」

「高岡さんは子どもだから気にしなくていいのよ。今は傷の完治が一番なんだから」

「でも……」

「ご両親の方には既に連絡してあるから明日中にでも迎えに来てもらえると思うわ。もうみんな東京に帰っているけど多分来週から学校へ行けると思うから。精神的に辛かったら勉強もゆっくりでいいからね」


 それ以上真矢のことについて言及させないとでも言うように担任は矢継ぎ早に奈子を言いくるめてしまう。

 まだ何か言おうとした奈子は口を開きかけて声を出さぬまま担任に頷くしかできなかった。




 翌日の昼頃に両親は車で迎えに来た。共働きなのですぐに会社を休んで駆けつけることはできなかったらしい。


「お父さん! お母さん!」


 昨日の今日起こったことは幼い奈子にとってはやはり不安だったらしく、車から降りてきた母の元に急いで駆け寄ると奈子はその体を抱きしめる。


「奈子。無事で良かったわ。もう心配させないでね」


 母に優しい声で諭された奈子はきまり悪そうに顔を引き攣らせながらも母の顔を見た。

 そこで見た母の顔は、仕事疲れだとは思えないほどやつれていた。


「お母さん。心配かけてごめんなさい」


 そのやつれた顔は自分が遭難したせいだと思い込んだ奈子はすぐに両親に謝る。二人は怒っているわけではないので奈子をすぐに許したが、様子が少しおかしい。


「さあ奈子。帰りましょう。一つ、話があるから」


 母に促され、世話になった地元住民や担任に礼を言ってから奈子は家の車に乗り込んだ。


(話ってなんだろう。やっぱりお説教かな)


 少々気まずい思いで車に乗り込んだ奈子だったが、車に搭載されているラジオの一件に気を逸らされた。


『続いてのニュースです。昨日、山梨県○○町にて、三十年前に失踪したと思われる当時六歳の女の子、喜納川真矢ちゃんが発見されました。真矢ちゃんは現在病院で治療を受けており……』


「あ! お母さんこの子だよ! 私が見つけた女の子。まやちゃんだっけ?」

「……奈子。そのことで話があるの」


 ラジオではいまだに真矢についてのニュースが流れている。それの音量をオフにし、隣に座っている母が神妙な顔で奈子に言う。


「どうしたのお母さん。大丈夫?」


 いつもとは違う母の様子に奈子は怯えながらも手を母の方に伸ばす。奈子の手が触れる前に母は泣き出してしまった。


「お母さん!?」

「ご、ごめんね奈子。急にこんなことに巻き込まれて怖かったわよね。あのね奈子、あの子はね。真矢はね」


 あなたの叔母さんなのよ。


「え? 叔母さん?」


 叔母がどういう存在なのかは奈子も知っている。両親どちらかの妹のことを叔母と呼ぶのだと。


「でもお母さん。あの子が私の叔母さんっておかしいよ。だって私より年下だったよ。お母さんの妹だとしたら私より年上でしょ?」

「そうよ。そのはずなのよ。それなのに真矢はあの時のまま。家族でキャンプに行って、一人で森に行って、帰ってこなくなった真矢のままだったのよ」


 深く聞き込みたかった奈子だが、突然半狂乱に何かを唱えたままの母を見て大人しくしているしかなかった。

 そんな中で運転をしている父が奈子に声をかけた。


「奈子。あの真矢ちゃんに会いたいか?」

「え? う、うん。無事なの?」

「一応な。第一発見者はお前だからどうなっているか知りたいだろう。明日は学校を休んで真矢ちゃんに会いに行こう。彼女も奈子になら口を開いてくれるだろうし」


 その後、片道二時間かけて山梨から東京へと帰ってきた奈子は、ストレスと疲労が積み重なっていたらしく、すぐに眠ってしまった。




 翌日。

 両親に連れられて奈子は真矢がいる病院へ足を運んだ。

 面会の手続きを済ませた三人は早速真矢のいる病室へと向かった。そこにはベッドで寝ている真矢と奈子の祖母が座っていた。


「おばあちゃん! 久しぶり! なんでいるの?」


 今の状況がわからない奈子は真矢と自分の関係を把握できていない。そのため、奈子から見れば他人だと思われる祖母がなぜここにいるのか純粋な子どもの疑問なのだろう。

 そんな奈子を窘めるでもなく、祖母は優しく奈子の頭を撫でて隣に座るよう促す。


「奈子。あなたが真矢を見つけたそうね」

「見つけたっていうか遭難したらいたんだよ」


 奈子はベッドで寝ている真矢の顔を覗き込む。

 彼女は放心状態なのか一向に奈子と目を合わせようとしない。


「この子、死んじゃったの?」

「縁起の悪いことを言わないで奈子!!」


 奈子の言動に後ろにいた母が怒りを含め声を荒げる。

 その怒気に驚いた奈子は体を大きく震わせてしまう。


「やめなさい紗矢。奈子は何も知らないのよ。仕方がないでしょ」

「でもお母さん」

「あなたはまだ混乱しているのよ。少し休んでらっしゃい」


 祖母に促された奈子の母は父と共に病室を出ていった。


「私、おかしいこと言った?」

「大丈夫よ奈子。でも知らないわけにはいかないわ。ちゃんと説明しないとね」


 祖母は真矢の頭を撫で、奈子の方を向く。


「この子は喜納川真矢。私の娘であり、あなたのお母さんの妹。そしてあなたの叔母にあたる子よ」

「でもこの子、私より小さくて」

「それはね奈子。真矢が三十年前、山梨で事件に遭ったからなの」


 神隠しに遭ったから。

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