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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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ティタニア

 ティタニアは人間離れした──人間ではないのだから当たり前なのだが、すっきりとした高い鼻と切れ長の緑色の瞳、桃色の長い髪。座りこんでいるさくらの首が頂上にまで向いてしまいそうな、三メートルはあるだろうその背丈。そして何より彼女の背中には半透明の虹がかかったような羽が四枚ついている。


「ティタニア……ですか」

『そんなに怖がらないで坊や。(わたくし)はあなたのお母さんなのだから。さあ、たくさん甘えていいのよ坊や』


 ティタニアが優しくさくらに手を伸ばすが、何とか抜けた腰を踏ん張って距離を取る。


『どうしたの坊や。逃げるなんていけない子ね』

「私は坊やでもあなたの子どもでもありません。彩果先輩はどこですか。私は先輩を連れて帰るためにここに来たんです」

『彩果? ああ、あの子ね。心配いらないわ。(わたくし)は自分の子どもを傷つけたりしない。だからあなたがどれだけいたずらをしても怒らないわ。ほら、怖がらないでいらっしゃい坊や』

「あなたが優しいかどうかは関係ありません。先輩を返してください。そして私達を地上に帰し、二度と人間の子どもを攫わないと約束してください」

『坊や。あまりお母さんを困らせては駄目よ。さあ、いらっしゃい。抱きしめてあげましょう』

(話が通じない。それなら自分で先輩を捜すしか)


 さくらはこれ以上話はできないとティタニアに背を向けて森の奥へと逃げようとする。一緒に引きずり込まれたのだからきっと近くに倒れているはずだ。そう思って一歩を進もうとしたさくらだが。


『いけない子。いけない子。お母さんに何も言わずに勝手に森へ行くなんていけない子ね坊や』

「──っ」


 さくらの目の前には手の平に収まるような小さな妖精が複数いた。人形のようで可愛い見た目だが、今のさくらには恐怖の対象でしかない。


『いけない子。いたずらっ子は好きだけどいけない子は嫌いよ坊や』

『いけない子。ティタニア様に刃向かった子。いけない子にはお仕置きが必要』


 さくらの周りを取り囲む小さな妖精が口々に同じ文言を繰り返す。その声を聞いているとさくらの足は動かなくなる。


「な、なに!? なんで動けないの!?」

『坊や。いけない子は罰を受けなさい。大丈夫。痛いのはすぐ終わるわ。さあ坊や。私の可愛い坊やになりなさい』


 ティタニアがその長い指を持つ綺麗な右手でさくらの顔の右半分を掴む。直後、右半分の顔が火傷したような熱さに襲われた。


「あ、ああ……」


 ゆっくりとさくらの顔に蝶の鱗粉が混ざったような痣が浮かび始める。額から目尻へ、目尻から頬へ。頬から顎へ痣が広がっていこうとした時、ティタニアの手とさくらが離れた。


『何者!?』

「う、あ……?」


 急な力に押し出されたティタニアと顔半分の痛みに耐えるさくらが顔を上げたのはほとんど同じだった。そこには昨夜と白い女の幽霊、そして彩果がいた。


「さくら!」

「あい、ざわくん? なん、で」


 苦しみながら聞いてくるさくらを抱き起こし、自分の方へと引き寄せる。さくらは戸惑ったような顔をしている彩果に目を向ける。


「せん、ぱいが、どうして」

「話は後だ。逃げるぞ」


 痛みと疑問で混乱しているさくらを抱えて昨夜は来た道を戻る。彩果もそれに続いた。その後ろ姿を見ながら幽霊はティタニアの方に体を向ける。


『お前……また(わたくし)の邪魔をしようというのね』


 怒りに顔を真っ赤にさせているティタニアに返事をすることなく幽霊は遅れながらもさくら達を追っていった。


『許さない……可愛い坊やを盗った……生きて帰れると思うな』




 ある程度離れたところでさくらは降ろされた。時間が経ったおかげか顔半分の痛みは薄れてきている。痣も消えかかっている。疲労も完全に取れているわけではないが、自分で歩行できるまでには回復している。そんなことよりもさくらには確認しなければならないことがある。


「彩果先輩? どうして動けて……解放されたんですか」

「さくらを見つける前に倒れているところを見つけた。正気に戻ったというより意識を反転させてるんだ。先輩を元に戻すにはティタニアを倒すか説得するか。さっきの状況で説得なんて不可能だろうがな」


 昨夜の言葉が正しいかどうか彩果に視線を寄越すと何度も頷いた。彩果自身も目覚めた時間が短いため確認しているのだろう。


「どうやって私の居場所がわかったの?」

「案内してもらったんだ。あの人に」


 昨夜の視線を追ってさくらは後ろを振り返る。さくらの眼前に白いのっぺらぼうのような女の幽霊が立っていた。


「あなた……!」

「さくら、声は抑えろ。どこでティタニアが聞いてるかわからない」

「でも……あれ、どうして見えてるの? だって相澤君さっきまで」

「それはこの人が」


 昨夜が詳しく説明しようとした時、幽霊が間に入ってきた。何事かと言葉を飲み込んだ瞬間、地鳴りが激しく響いた。

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