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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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盆地の暑さ

 ものの数分で準備をしてきた彩果を迎えてさくら達は外に出た。盆地ということもあって、夜は寒いが日中は猛暑と言っても過言ではないほど太陽が照りつけてくる。信号を待つだけで全身から汗が噴き出してくる。


「暑い……」


 さくらは長い髪を緩くシニヨンのようにまとめ、タンスの肥やしと化していたキャスケットを被っている。こうでもしないと汗がとめどなく溢れて仕方がない。彩果も帽子こそ被っていないものの、バレッタで髪を上に上げている。


「東京の方がまだマシなくらいねこれじゃあ」

「今大体三十五度らしいですよ」


 有季がスマホに表示されている天気予報を他の三人に見せる。さくらが誰よりも早く重い溜息を吐いた。


「早く帰りたい」

「出たばっかりだよ妖精ちゃん」


 ハンドタオルで顔の汗を拭きながら彩果は苦笑する。


「さっさと涼しい部屋に入るか。今道調べるから」

「ああ大丈夫だよ。美味しい所なら知ってるから」


 歩きながらマップを開こうとする昨夜を静止して、彩果は慣れたように先頭に立った。


「知ってるって先輩、来たことあるんですか」

「うん。元々ここに……」


 さくらの質問に答えようとした彩果だが、何かに気づいて言葉を切った。


「先輩?」

「あ、えっと、地方の人にもらったマップ見ればわかるから」

「ああそういうことですか。いいですね、方向音痴にはどっちを向いてるかもわからないです」


 彩果が慌てて言い直したことにさくらは気づかず隣で感心している。隠れて安心したように息を吐く彩果を後ろから昨夜は何も言わず見ていた。




 そこから十分もかからずに彩果が言っていた目的地に着いた。その頃には全身汗まみれになり、服が張りついてくる。


「帰りたい……ああ涼しい。ここにずっといたい」

「言ってることが食い違ってるぞさくら」


 店の中は新しいというわけではないが、昔から営まれているということもあって風情がある。寒暖差に弱いさくらを考慮して一番冷房に当たらないところを選んでもらったが、それでも涼しいことに変わりはない。暑さにやられてしまったさくらはわからないことを言っている。


「ここで生活してる人ってどうやって生きてるんだろうね」


 彩果が注文している間に水を飲みながらさくらは疑問に思う。


「東京も似たようなものじゃない?」

「東京はもっと風があるよ。ていうかなんで二人はあんまりバテてないの?」

「盆地出身だからかな」


 根っからの東京出身であるさくらは風もあまり吹かない盆地は灼熱地獄だ。一方で去年転校してきた昨夜と有季は盆地出身らしく、慣れているという。暑いことと汗をかくことは共通だがそれに耐えられるかということだろうか。


「溶けてるよ妖精ちゃん。あれ? でも神海家って稽古場はクーラーなかったよね。この前練習に使わせてもらった時障子開けてても蒸し風呂みたいで地獄だったよ。着物で練習してたらこれぐらい慣れるんじゃないの?」

「だって練習してたら気温も雑念も消えるじゃないですか。まあでも終わったらすぐお風呂に行くくらい汗かいてる()()()ですけど」


 彩果の問いにさくらは特に迷った様子もなく当たり前のように返答する。暑さを忘れられるくらい真剣に練習をしたことのない他の三人はさくらを珍獣か何かのような目で見た。そうこうしているうちに彩果が頼んだものが届いた。皿から出そうになるくらいの量なので、さくらと彩果は二人で一つを完食した。




 食事をして幾分か回復した一行は歩いてきた道を戻るついでに観光もした。元々精露山近くは観光地としても有名らしく、土産物やご当地名物が所々に売られている。


「これなら未奈達にもすぐにお土産買っていけるね」


 よくわからないキーホルダーを手に取ってそう話すさくらの様子を見かねた有季が一緒についていった。彩果と昨夜はそれとなく涼しい店内を見て回る。


「先輩」

「どうしたのイケメン君」


 彩果はさくらだけでなくあだ名をつけたら本名を言わないらしい。昨夜は既に慣れているらしくあだ名に関しては完全スルーで話を続けていく。


「高岡先輩とはどういう関係なんですか」


 楽しそうに商品を手に取っていた彩果の足が止まった。無言を貫く彩果に畳みかけるように昨夜は話しかける。


「さくらにははぐらかしているようですけど。一人でロビーにいたのもわざとでしょう」

「……」


 彩果から笑みが消え、その表情は「それ以上言うな」という風に昨夜を睨んでいる。


「誰とでも仲のいいあなたが誰からも誘われないなんてありえない。さくらの誘いを断らなかったのは深く詮索してこないと思ったから」


 昨夜の考察を聞いて彩果は目を伏せた。わずかな沈黙が二人の間を過ぎていき、数秒後、彩果が先ほどと変わらない笑みを浮かべて昨夜に顔を向けた。


「だから?」

「え?」


 彩果の返答が意外だったのか珍しく昨夜が驚いたような表情を見せた。


「私が奈子さんとどんな関係にあっても、あなた達には関係ないよね。妖精ちゃんに実害が出ていないならいいよね」


 昨夜が硬直している間に彩果は土産を悩んでいるさくらの元へ行ってしまった。

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