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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学一年生(全17話)
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様子見

 膨れているさくらと慰めになっていないフォローを繰り返す彩果を引き戻す。


「はいはいそれはおしまい。それにしても謎ね。神海さんはおかしくないけど私達とは極端に音の違いがある。それに身内他人関係なく。こんなこと、ファンタジーの世界でしかありえないようなおとぎ話ね」

「そのおとぎ話が現実的になってるんですけど」


 さくらは一旦琴を元の場所にしまう。そうしなければ圧迫感が部屋を覆うのだ。

 琴をしまっただけでも随分部屋が広くなったように感じる。


「あ、そういえば」


 それまで半分空気と化していた泉が声を上げた。


「どうしたの?」

「私達さっきから音の差ばかり気にしてますけど」


 ばかりも何もそのために神海家へやってきたのではないのか。


「そもそもどうしてさくらは蔵で琴を見つけたのかってことも疑問に出たじゃない」

「蔵で……あ、そっか」


 最初にこの話をした時。更に話をする前もさくらはなぜ蔵に、しかも生身の状態で琴が放置されていたのか気になっていたのだ。

 それに今思えばあんな置き方をされてどうして琴がそのまま正常に──正常かどうかはわからずとも壊れていなかったのかも浮かび上がってくる。


「こんな非現実的なことをたった1日で解決するのは無理ね。しかも私達はまだ子どもでわからないことも多いし」

「……じゃあこのお琴は」

「あ、待って。廃棄しましょうって意味じゃないの。できることを少しずつやっていけばいいでしょ」


 奈子はつまり時間をかければ少しは糸口が掴めるだろうと言っているわけだ。


「でも何をどこからやるんです? 琴の歴史? 業者?」

「業者は無理ね。神海さんのお母様はこの琴を廃棄しようとしているのでしょう? 見つかったら神海さんは大目玉を喰らうわ」


 さくらは想像して身震いした。

 ただでさえ普段の母も怖いのだ。それが本気になったらそれこそ体の弱いさくら相手にだって容赦はしないだろう。


「琴の歴史を調べたらそれこそ中国の時の起源まで遡るけど」

「あなた達さっきから何を的外れなことを言ってるの。神海さんの件と言ったら神海家の歴史でしょう」


 日本で和楽が始まった頃からある由緒正しい家柄の神海であれば調べればいくらか出てくるだろう。

 上手く行けばその琴を使っていた人物も特定できるかもしれない。


「でも誰がやるんです? 今のネットは嘘も含まれてますし奈良平安に遡ったらそれこそ生半可じゃ何も出てきませんよ」

「何言ってんの未奈ちゃーん」


 彩果が色々心配する未奈の肩を軽く叩く。


「はい?」

「ゴシップ大好き未奈ちゃんなら行けるさ」

「絶対来ると思ったから反論したんですけど!」


 先輩2人は完全に未奈に調査を丸投げした。




 さくらの部屋は広い屋敷の中でも離れの母屋にある。

 幼い頃までは姉や両親と同じく屋敷の中央に部屋があったが、使用人や弟子が行き交う廊下と面した部屋では重度の貧血持ちで1日の大半を部屋で過ごしているようなさくらにとっては全く療養できず離れに移ることになったのだ。


(1人で寂しいと思ってたけど、まさかこんなことで役に立つとは)


 離れということで忙しく働いている使用人は掃除の時にしかほとんど現れない。

 騒いでもほとんど聞こえない。

 だから琴を弾いていてもバレる可能性も低いのだ。


(少し埃を拭けば十分弾けるんだから。専用のお琴って夢だったんだよなー)


 折角状態の良いものを手放すのはさくらの意に反する。今日はこの後夕飯まで何の用事もない。


「よーし」


 稽古は嫌いだが自習する分には楽器が好きなさくらである。夕飯を食べ、自室に帰った後は就寝時間になるまで琴を弾き続けていた。




「ふわぁぁぁ……」


 3日後。さくらは隈が浮き出た顔で制服に腕を通した。

 元々外に出ないさくらだが、この三日は起床して稽古をして宿題をするとすぐに隠してある琴に手を付ける。

 そんな不健康な生活を送っているからか、寝不足に陥っている。


(元が貧血持ちだから顔色が悪くても言及はされないけど心配されはするんだよな)


 更に最近はなぜか息苦しさと悪寒も感じるようになった。

 体温も低ければ食欲もあまり湧いてこない。


(熱中症にでもなったかな? でもこまめに水分補給はしてるしクーラーも弱風設定してるし)


 強いて言えば運動不足が過ぎるがそれは悪寒と関係があるのだろうか。

 何はともあれ楽しく琴を弾くためには体調管理にも気を付けなければならない。

 風邪をひくと使用人の出入りも多くなるのだ。


「?」


 さくらは何か気配を感じて後ろを振り返る。だがさくら以外の人間はどこにもいない。


「気のせいか」


 さくらは特に気にすることもなく学校へ行く準備をするとさっさと家を出ていった。

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