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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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白く枯れた花びら

 さくらと弥生の間に気まずい空気が流れる。少しの間沈黙が続いた後、弥生が口を開いた。


「今のは見なかったことにしましょう」

「え?」


 弥生が厨房に案内するように再びさくらの前を歩きだす。


「年齢関係なく女性は喧嘩をするものです。それを見てしまったら気まずいですがあの二人は気づいてません。それなら私達は見なかったことにする。これが最善策だと思います」

「そう、だね。うん」


 弥生の意見に賛同したさくらは器を乗せたお盆を持ったまま弥生について行った。

 その後は風呂に入り、明日の準備をした。就寝までは時間があったので弥生が暇潰しに持ってきたトランプで遊んだ。


「はい。私の勝ちです」

「伊部さん強くない?」

「先輩が弱いんですよ。あ、こんなに勝ってるんだから何か願い事一つ聞いてください」

「願い事? 無茶ぶりじゃなければいいよ」


 近くにある自動販売機からジュースを買うだとか肩を揉むだとか、そんな軽いものをさくらは想像していた。だが弥生はそんな想像を覆した。


「私のことを名前で呼んでほしいです」

「へ?」


 予想だにしていなかった願い事にさくらは変な声が出た。


「名前って」

「弥生です」


 人見知りのさくらでも後輩の名前ぐらい知っている。


「私、先輩と仲良くなりたいんです。流石に先輩後輩の壁は超えられないですけど、できたら仲のいい関係でいれたらなと思って」


 弥生の純粋な願いに対人関係が得意でないさくらは一瞬たじろいだが、彼女も人が嫌いなわけではない。恐る恐るだが口を開いた。


「じ、じゃあ。弥生?」

「はい。さくら先輩」


 弥生の無邪気な笑顔に釣られてさくらも強張った顔を緩め、一緒に笑った。

 就寝時間になって間もなく、さくらは先程の昼寝が嘘のように睡眠に入ろうとした。だがそれもすぐ覚めてしまう。


(やっぱり今もいる!)


 既に気配はさくらの枕元にまでいる。全身は布団の中に入っている。さくらは視線だけを布団の外に向ける。


「っ!」


 さくらの視界の中心には日中に見た幽霊の足が見える。それはほんの数ミリだが床から離れており、その白さはどう見ても人間らしさは感じられない。


(どうしよう。でもこのままじゃ弥生にも被害が)


 幽霊は怖いが弥生に怖い思いをさせるくらいならとさくらは少しずつ後ろに下がりながら対峙する機会を窺う。さくらが動いている間も幽霊はその場から何もしてこない。


(追いかけてこない? でもさっきは)


 口を塞がれ助けを呼べなくなったさくらは間一髪逃れることができたものの今度は本気で襲われるかもしれない。さくらが意を決して布団を剥がして幽霊の姿を見る。


(やっぱり怖い)


 布団を剥がしたまではいいが、人間離れしたその姿とのっぺらぼうのような顔にさくらは委縮してしまう。さくらの怯んだ様子を見て幽霊はすぐに側まで近づいてくる。さくらが悲鳴を上げようとすると手を置いて防がれる。


(ど、どうしよう。幽霊に何されるの。怖い……怖い……助けて!)


 幽霊の空いている手がさくらの左から出される。その手は何かを持っているように握られている。呪いか何かをかけられるのかと悟ったさくらは目を固く瞑って覚悟する。


「……?」


 だがいくら待っても痛みや違和感は来ない。薄らと目を開けてみるとやはりそこにはのっぺらぼうの幽霊がいた。だが握られていた手は開かれ、さくらに差し出されている。


(花びら?)


 幽霊から渡されたその花びらは灰がかった白いものが数枚。さくらの手に落ちた瞬間その花びらは全て萎れ、枯れてしまった。

 幽霊はさくらの口から手を離すと窓の向こうへ消えていく。


「待って。これってどういう……」

「先輩? どうしたんですか?」


 さくらが消えていく幽霊に声をかけようとしたが、物音で目が覚めた弥生に引き止められてしまう。そうこうしている内に幽霊は跡形もなく夜の闇に消えていった。




 翌朝。何かに起こされることもなく、さくらは起床時間に自分で起きた。今度は寝不足ということもない。


「おはようございます先輩。今日は体調も良さそうですね」

「……うん」


 さくらは先に起きていた弥生に話しかけられ曖昧に相槌を打つ。その脳裏には昨晩の幽霊が残っている。


「昨日、幽霊が来たよね」

「はい? また幽霊ですか」

「だって弥生、一回起きたよね」

「起きましたけどあれはさくら先輩が物音を立てるからです。一人で何やってたんですか」


 やはり弥生にはあの幽霊は見えないらしい。さくらも本当は夢ではないのかと思いたかったが、ふと手を見るとそこには昨日渡されたものがあった。


「枯れた、花びら」


 さくらの呆然とした声に応えるかのように、小さく枯れた花びらが揺れたような気がした。

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