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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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丑三つ時の異変

 二時間あまりの会議を終えてさくらは弥生の待つ部屋に帰っていった。


「お帰りなさい先輩……なんで頬膨らませてるんですか」


 明らかに部屋を出ていった後のさくらと今のさくらの表情が違うことに気づいた弥生が目を丸くしながら何事か聞いてきた。さくらは先程のスパルタメールを拒否された件について愚痴を零す。


「お母さまはもちろん厳しいけどちゃんと努力に見合った技能は身に着けさせてくれるのよ。それをみんなあんなに鬼気迫る勢いで拒否しなくてもいいじゃない。ねえ伊部さん」

「すみません。私、栗山先輩達に賛成一票入れます」

「なんで!?」


 最近事あるごとにさくらにくっついてきていた弥生なら同意してくれるだろうと高を括っていたさくらだったので、反対されたことには驚きを隠せなかった。


「なんでって。そんな神海家のスパルタどころかもはや拷問に近い練習方法嫌ですよ。むしろなんで今まで逃げてこなかったんですか」

「え、だって全然耐えられたし」

「ここの血筋はおかしい」


 弥生に心底気味悪がられるような表情を返されたさくらは思い通りの結果にならなかったので、更に不機嫌そうに頬を膨らませた。

 その日の夜更け。一般的に丑三つ時と呼ばれている夜中の二時にさくらは目を覚ました。

 

(なんでこんな時間に……でもいいや。二度寝しよ)


 そのまま再び瞼を閉じようとするさくらだが、何かの気配を感じて瞼を擦る。少し離れたところには弥生が同じく静かな寝息を立てているが、気配を感じたのはもっと向こう側。窓の方だ。


「何かある、の」


 思うままに目線を向けたさくらだがすぐに後悔した。


「ひっ」


 すぐにさくらは頭まで布団を被り、足を曲げたまま体を縮こませた。

 さくらの目に映ったものは白い人影。それも髪は腰の辺りまで伸び、くるぶしまであるワンピースを羽織った女の影だった。何よりその足は宙に浮いていた。あれは確認せずともわかる。


(ゆ、幽霊? どうしよう、伊部さんを呼ばないと。いやでも伊部さんを呼ぶには一回布団から出ないと)


 布団から出たら必然的にあの女の幽霊に見つかる。さくらが弥生を起こすのと幽霊に襲われるのとどちらが先か。そんなのは聞かなくてもわかる。さくらは恐怖で意識を覚醒させたまま日の出まで待った。




 翌朝六時。起床時間より三十分早く起きた弥生は隣を見やる。


(……かまくら?)


 そこには冬の風物詩──ではなく、山の形になっている掛け布団があった。そっと引き剥がしてみると、さくらがアルマジロのように丸まっていた。弥生が声をかけようとする前にさくらが頭を勢いよく上げた。間一髪で弥生は頭突きから避ける。


「危な! さくら先輩急に頭上げないでくださいよ」

「え、あ、朝? やっと?」

「やっとってなんです……うわ先輩なんですかその隈! 貧血ですか!? 特有の!」


 弥生の目に映ったさくらは美人顔が台無しになるような深い隈と所々跳ねている髪を持っている。どれだけ考えてもこれが名門の跡取り娘だとは褒められない。


「貧血じゃない。寝不足」

「なんでですか。昨日私より先に寝てたでしょ。え、さくら先輩の貧血ってどうするんですか。栗山先輩は保健室にぶち込めばいいって言ってましたけどここ学校じゃないし」

「本当に大丈夫。後でちゃんと休むし辛かったら有季君達の方に頼るから。ていうか未奈のその話を詳しく聞かせなさい」


 布団から這いずりでてきたさくらは枕元にある洗顔道具を持って外の洗面所に向かおうとした。慌てて弥生もついていく。


「それで、なんでさくら先輩は寝不足なんです? 楽しすぎて寝れなかったとか?」

「だって幽霊が……」

「はい? 幽霊? そんなものいませんでしたよ」


 顔を洗っているさくらに弥生は聞く。その返答が理解しがたいものだったら誰でも首を傾げるだろう。


「本当だよ。こう、白くてワンピースを着てた長い髪の女の人が」

「ほぼ今の先輩と大差ないですね。白い以外は全部一緒じゃないですか」

「私は宙に浮いてない!」

「はいはい。どうせ寝ぼけてたんですよ。だってもし幽霊がいるなら日中にだって見えるはずです。地縛霊とかなら昼夜関係ないですもん」


 後輩である弥生に軽くあしらわれてさくらはその病人のような顔に

 朝食時もさくらの顔は特に変わらなかった。


「どうしたのさくらちゃん。美人って寝起きは不細工になるの?」

「加治。お前流石にそこまで言うのは……」


 相変わらずその中性的な優しい顔でさくらに棘のあるような発言をした有季を昨夜は止める。さくらは更に頬を膨らませた。


「不細工じゃないもん。寝不足なだけだもん」

「え、寝不足? 貧血は?」

「伊部さんも言うけど寝不足で貧血になったことはないの。多分低血圧と勘違いしてるんだよ皆。ほーらこんなにピンピンしてますよーだ」


 大袈裟に腕を振りながらさくらは朝食に向かう。その後ろ姿を見ながら一緒についてきた弥生が呆れたように一言零す。


「ほぼ毎日貧血になってるから。低血圧と貧血を勘違いしているのはさくら先輩でしょう」

「「ごもっとも」」


 弥生の主張に男子二人は同意するように仕方なさそうな表情で頷いた。

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