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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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神海家の拷問訓練

 夕飯が終わった18時過ぎ。

 ここから1時間は自主練習だが、その後は就寝の22時まで全員自由時間である。

 流石に外出は暗くて危ないので禁止されているが、他の部員の部屋に遊びに行くことは可能だ。

 民宿内であれば大抵のことは自由である。


「というわけで今日中に曲を決めなくてはなりません。コンセプトすら決まってないのは中3のみです。誰とは言いませんがある2人のせいで。補習に引っ掛かりやがったお2人のお嬢様のせいで」

『何? 怒ると日本語おかしくなるのさくら』


 無駄に丁寧な言葉遣いと乱暴な言葉遣いを組み合わせているさくらに対し、ディスプレイ越しから未奈が疑問を呈する。

 講師に伝達された通り、事前にさくらが伝達しておいた話し合いについて、3年生5人が集まった。

 未奈と泉は自宅からだ。

 グループで通話を展開しているため、昨夜がスマホを起動させている。


「まあまあさくらちゃん落ち着いて。スマホ睨んでても誰にもダメージ与えられないから」

『そうだそうだ。もっと言ってやれ加治!』

「栗山さんはちょっと反省しようね」


 仲介役の有季が拳を作っているさくらを落ち着かせる。

 それに便乗してきた未奈にも一応やんわりと喝を入れておく。

 一方の昨夜は今まで習ってきた曲の教本を眺めながら顎に手を当てた。


「意外と3年で習ってる曲は多いんだな。2年まではそこまででもなかっただろ。年に2曲か3曲程度で」

「ああ。一応中高一貫では卒業式もあるし、そこで部活をやめる人も多いからだよ。その前にちょっとでも知識を覚えてやめてほしいっていう先生の希望が含まれてるの」

『さくらはやめたくてもやめられないけどね』

『さくらが和楽をやめたいなんて言った時には空から槍降ってくるよ』

「すみません。そろそろキレてもいいですか」

「駄目」

「我慢」


 未奈と泉の揶揄い発言にさくらが頬を引き攣らせながら男子2人に了承を取ろうとするが満場一致で拒否される。


「はあ。もう冗談はいいから。明日には本格的に練習も始めなきゃいけないんだからね。えっと、1年と2年は確実に『さくら』を弾くのよね」

『毎年恒例だからね。去年のデータあるよ。えっと、3年は『越天楽(えてんらく)』、高1は『桜道成寺(さくらどうじょうじ)』、高2が『かくれんぼ』で、高3が『舞踊曲』だったかな』

「まだ先輩達の決めた曲聞いてないけど後の3曲は無理そうだね。古参の先輩でさえ苦労してるんだから」


 そうなると去年と同じ曲を選ぶことになるのだろうか。

 もちろんそれでも講師は了承してくれるが、できれば難しい曲をやってみたいという冒険心もさくらに芽生えている。


「でも冒険して転ぶのはプライドが許さない」

『さくら駄目だよ』

「何が?」


 さくらが1人、どこかに思考を持っていかれそうになっていると泉に声をかけられた。

 隣を見ると有季が苦笑して首を振っている。


『さくらは15年和楽やってるからもう難題もクリアできるかもしれないけど私達まだ新参者だから。誰も冒険できるまで成長してないから』


 昨夜と有季が同意するように頷く。

 未奈の姿は見えていないが、恐らく同じ行動を取っているだろう。

 さくらは泉の言動の意味を理解しようと視線を上に持っていき、名案を思い付いたような表情で自身のガラケーを寝巻きのポケットから取り出し何かを打ち始めた。


「何やってんださくら」

「メール打ってる」


 急な行動に出たさくらに疑問を抱き昨夜が質問するとさくらが見たままの情報を伝える。

 今時の女子中学生がガラケーを使っているのは珍しいがおかしいことではない。

 だがもうガラケーを愛用して3年になるというのにいまだ文字を打つのが遅いさくらには微かに機械音痴の性質があると感じている。


「じゃなくて誰に打ってたんだ」

「お母さま」

『え、急に?』


 今の会話の流れからどこにさくらの母に繋げる要素があったのだろうか。

 そもそも昨夜はさくらの母と面識がない。

 有季も最初の頃の挨拶程度で親しい仲とは言えない。


「できた」

『いやだからなんの内容を?』

「経験が足りてないなら無理矢理つければいいのよ! お母さまお稽古のプロだからみんなを1週間で急成長させられるよ。大丈夫。座りすぎて骨折したことあるけどいい病院知ってるから若ければすぐ治る……」

「「『『絶対駄目!!』』」」


 全員に拒否され、昨夜にガラケーを没収されたさくらは何がおかしいのかもわからないままその後ずっと不貞腐れていた。

 ちなみに楽曲は毎年恒例の『越天楽』に決まったそうだ。

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