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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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梅雨のある日のさくら達

 少し動くのも億劫になるような梅雨のある日。

 さくらは大雨の中、傘をさして通学路を1人歩いていた。

 ここ1週間太陽と呼ばれるものを見ていない気がするほど厚い雲と強く激しい雨が続いている。

 一応夏服を着てカーディガンを羽織るさくらだが、その白い首からは嫌な汗が流れている。


(これならまだ夏の方がマシだよ。うぅ、学校着いたらすぐ靴下替えよう)


 既に靴下は跳ねて入ってきた雨粒で濡れている。

 毎年この嫌な感触を味わって早15年。

 恐らく年寄りになってもこの汗で服に張りつく思いは一生好きになれない。

 朝でこれだけ暑いのだ。

 昼には太陽の代わりに気温が上がってこの嫌悪感が増すのだろう。


(早く夏に……夏も嫌だな。早く秋になってくれないかな)


 遠い季節に憧れを持ちながらさくらは人通りの多い校門をくぐり抜け校舎に入った。

 中学最高学年──つまり3年生になったさくらはこれまで以上に忙しくなった。

 高校までは一貫して同じ学校であるが、実質分かれてはいる。

 なので委員会の主導を握るのも、学校生活を運営するのも3年の仕事なのだ。

 さくらも役割に漏れず主導権を握っている1人である。


「おはようさくら。昨日はお疲れ様。どうだった? 先輩に飲み込まれなかった?」

「おはよう泉。一応大丈夫だったよ。未奈がいなかったら倒れてたけど」


 さくらより先に登校していた泉が寄ってきて前の席に座った。

 さくらは濡れた靴下を取り換えながら泉に返答した。


「良かったね未奈がいて。さくら、押しに弱いから」

「私が弱いんじゃなくて未奈が強いんだと思うよ。先輩にメンチ切れる中学生なんて未奈くらいだよ」

「まあ言えてるかも。小さい頃から向かう者敵なしだよね」

「そうそう。あ、後さ、昨日先生と話したんだけど実は新しく……」

「おはようさん2人とも。楽しそうな話してんじゃない」


 さくらの言葉を遮るようにバッグを2人の間に置く者がいた。


「未奈。濡れたバッグを机に置かないで。汚い」

「ちゃんと下駄箱で拭いてきたわよ。それより誰が向かう者敵なしよ。あんたがまごついてるからフォローしてやったんでしょ」


 不機嫌そうに眉をひそめてバッグをつつくさくらに未奈は反論した。

 先ほどの会話を聞いていたらしい。

 視線を感じて隣の席を見ると昨夜と有季も既に登校していたらしくこちらのやり取りを見ていた。


「おはよう2人とも。一緒に来てたんだ」

「いや、下で会ったんだよ。栗山さんもね」

「そうよ。ていうか2人には挨拶してなんで私は第一声に汚いって言われなきゃならないのよ。はい挨拶。せーの」

「あ、さくら。古文でわからないとこあったんだけど教えて」

「いいよ。えっとこれはね」

「薄情者!」


 未奈を軽く無視してさくらと泉は2人だけの世界に入ってしまう。

 仲間外れにされた未奈は助けを求めるように昨夜と有季の側に寄っていった。


「ちょっと薄情者だと思いません? 泉はいつものことだけど最近さくらが素っ気ないんですよ。なんですか。また術か何かかけました? 友達を素っ気なくする術とか」

「そんなものないよ栗山さん。単にさくらちゃんが栗山さんに飽きたんじゃないかな」

「加治、それ地雷……」

「さくらぁ! 嫌わないでぇ!」


 未奈がさくらの袖を引っ張って前後左右に揺する。

 さくらはその激しさに軽く酔った。

 軽度なのですぐに治ったが。


「冗談だよ未奈。ごめんって」

「許す」


 こうしてさくらと未奈は仲直りした──というより梅雨の季節が始まってから毎日のように行われている茶番劇のため誰一人として複雑な友好関係など懸念してはいない。

 恐らくこの時期にやるのは何もすることがないための暇潰しだろう。


「本当に飽きないねあの2人。これで何回目なんだろう」

「小学校の頃の付き合いだから飽きるも何もないんだろうな」


 さくらも未奈も楽しそうにしているので特に何も言うことなく2人はその様子を眺めていた。


「ところでさ」

「ん?」


 有季が何かを思いついたように昨夜に声をかけた。


「さっきさくらちゃんが石川さんに言いかけたこと」

「何か言ってたか?」


 さくらと泉が話していた内容を思い出そうとするが全く脳内に入ってこない。

 昨夜は首を傾げて有季の返答を待つ。


「ほら、昨日の代表者集会の話の後に言ってたじゃん。先生と話し合って新しいことを始めるって。何かなと思って聞きたいんだけど」

「今は無理だろうな」


 団欒としている女子の間には入れなかった。

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