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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学二年生(全19話)
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一件落着

中二編最終話なので八月で終わらせておきます。

 翌日の公演は何事もなく無事に終わった。

 さくらは倒れることもなく1つのミスもなく完璧な演奏を終わらせることができた。

 だがその面持ちは晴れていない。


「お疲れさくら。体調は大丈夫そうね。でも名家の娘はすごいのね。あれだけ大勢の人に見られて1つもミスしないなんて……さくら?」


 演奏が終わり、労いに来た未奈の言葉が聞こえていないかのようにさくらは彼女の前を素通りして楽器を片づけ始めた。

 その顔は沈痛な表情に変わっている。


「さくら? どうしたの?」

「え? いや、なんでもないよ」


 未奈に肩を揺すられてさくらは正気に返った。

 心配そうに自分を見つめる友人に大丈夫と笑みを作って片付けに専念する。


「どうしたんだろうさくら」

「疲れたんじゃない? 私も難しいパートだから疲れたー。未奈肩揉んでー」

「嫌だ。私も疲れたんだから。ていうか泉ちょっとミスしてたよね」

「あ、バレた?」


 未奈は泉と共に雑談をしながら遠くまで行ってしまった。

 さくらは誰とも話さずに三味線を袋に入れて立ち上がった。

 その拍子に三味線の撥が落ちてしまった。


「あ」


 さくらが拾おうとすると先に拾って渡してきた者がいた。

 顔を上げるとそこには撥をさくらに差し出している昨夜がいた。


「……あ、りがとう」

「ん」


 撥を渡すと昨夜はすぐにさくらから離れていこうとした。

 ハッとしてさくらが昨夜を追いかける。


「ま、待って」

「なんだ」


 相変わらず昨夜はさくらに素っ気ない。

 だがそこで怖気づいてしまうとまた逆戻りだ。

 さくらは意を決して昨夜の目を見た。


「あの、昨日のことで」

「ああ。あれは気にしなくていい。もうあいつが術をかけてくることはない」

「あの、そっちじゃなくて。ずっと知ってたの? 私がその、さくらこ様だったことも。有季君が私を利用しようとしてたことも」

「まあ」


 肯定する昨夜にさくらは一瞬眉を小さく寄せると頭を下げた。


「ごめんなさい。一方的にあなたを悪者扱いして酷いこと言って」

「いや、そう仕向けたのは俺だし、さくらが気にすることではない。今は誤解が解けているわけだし」


 さくらが恐る恐る顔を上げると昨夜がその無表情だった顔を少し緩めた。

 さくらも緊張が解けたのか強張っていた顔に少し笑みを零した。


「ありがとう相澤君。あなたがいなかったら私は今頃さくらこ様のように利用されてた……有季君に」


 笑みを浮かべるさくらだが、その顔はすぐに後悔を悲しみに満ちた表情になってしまった。


「有季君とはもう、話すことすらできないのかな」


 さくら達の前から姿を消した後有季はそのまま学校を早退してしまった。

 今日も風邪という名目で学校を休んでいるが、彼はさくら達の前から姿を消すと宣言していた。


「あの調子だと、また転校するんだろうな。だが家庭は変わらないからここの近くの学校になるんだろうが」

「そんな……そんなことしなくても私は仲良く学校に通えるだけでいいのに」

「気持ちはわかるがな。加治だって嫌だろう。自分が利用しようとしていた人間に悪事がバレて一緒に生活はできない」


 さくらは悔しそうに唇を噛みながら肩を震わせた。


「折角、友達になれたと思えたのに」


 泣きそうなさくらを慰めようと昨夜が手を伸ばす。

 だがその手は寸でのところで別の手に遮られてしまった。


「何気安くさくらちゃんに触ろうとしてんの」

「有季君!?」


 さくらと昨夜が驚いている間に欠席しているはずの有季が割り込んできた。

 有季は掴んでいる昨夜の手首を離し、さくらに向き合った。


「な、なんで? 姿を消すって」

「僕もそのつもりだったよ。転校もする気でいた。でも先輩からメールが来たら残らなきゃ」


 有季が2人にスマホのディスプレイを見せる。

 そこには宛先が有季、送信者が未名河彩果と書かれたメールが1つあった。


『転校してもいいけどそしたら毎日妖精ちゃんとイケメン君のラブラブ写真送るよー。殺すのはダメだけど三角関係は大好物だから存分に妖精ちゃんのこといじめちゃえ』


 メールを見終わった後、さくらはカメラのシャッター音がどこかで鳴るのを聞いた。

 そちらに視線を移すと彩果が悪そうな笑みを浮かべながらスマホで写真を撮っていた。

 その隣には呆れたような表情をしている奈子がいる。


「あ、バレた」

「先輩!!」

「いいじゃん。私もイケメン君に加担してあげたんだからそのお駄賃」

「駄目です! ていうか私まだ根に持ってますからね! 演奏会出されなかったこと!」

「あ、じゃあチャラで」

「割に合ってません!」

「いいから2人ともさっさと片付けしなさい。午後からまた授業あるでしょ」


 奈子が2人のどうしようもない言い合いを一蹴し片付けを促した。

 さくらは膨れ面をしながら、彩果は楽しそうに写真を保存しながら楽器部屋に向かった。


「というわけで、これからもさくらちゃんを盗る気でいるから。気をつけなよ。相澤」


 有季も何かが吹っ切れたように清々しい様子でその場を後にした。

 昨夜は1つ大きな溜息を吐いた。

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