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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学二年生(全19話)
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正面衝突

 有季は笑みを浮かべながら昨夜に一歩近づく。

 昨夜は下がることなくその場で竹刀を構える。


「僕は、有理は何も屋敷の人間全員を殺そうとは思っていなかった。殺すのは貴族の人間共だけ。使用人は残しておこうと考えていた。だってそうだろう。権力者になっても仕えさせる人間がいなければ元も子もない。だから有理は貴族が集まる演奏会を開いたつもりだった」

「計画が崩れたから現世で再びさくらの力を使おうと」

「誰だかはわからない。でもいたんだろう。未来以外にさくらを守ろうとする人間が。そいつがさくらこ様を誑かしたせいで力は暴走した。そう、あの先輩みたいな奴がいたんだろうね」


 有季が憎しげに前世を思い出して吐き捨てるように言う。

 だがすぐに元の優しそうな表情に戻った。


「まあでも今はさくらこ様を誑かす奴もいない。後はお前を始末すれば僕の勝ちだ」


 有季が新たに呪符を目の前で展開させると鋭利な刃物に変化させて昨夜に向かって発射させた。

 昨夜は何とか竹刀で刃物を防いでいくが、防具も何もない体で受け止めるには無傷とはいかない。

 腕に、足に、頬に刃物で肉を切られ血が出る。

 隙を見て竹刀を有季に振ろうとするが天井が高くない室内では動くことも難しい。


「お前に勝ち目はないよ未来。どうせ昔みたいにお前は大好きな姫1人も守れずに死ぬんだ。大丈夫。さくらちゃんは苦しませない。僕の操り人形になるから苦しいなんて感情もなくなるよ」


 昨夜は有季の勝ち誇った顔を見る。

 その頬からは少量とは言えない血が流れているが気にしていない。

 しばらく無言を貫いた後、昨夜は口を開いた。


「お前はさくらに対して何も抱かないのか。従兄妹だろう」

「従兄妹と言っても幼い頃に一度会っただけだよ。情も何もあるわけないだろう」


 これまでのさくらへの接し方を見てきた昨夜は予想していたとは言え気分を害さないことはなかった。


「そうか。つまりお前はさくらをただの道具としか思っていないと」

「さっきからそう言ってるじゃないか。いい加減負けを認めてさくらちゃんの居場所を教えてよ」

「その必要はない」

「は?」


 有季が眉間に皺を寄せて昨夜を睨む。


「最後の悪あがき? 格好悪いからやめなよ。そもそも君はさくらちゃんに嫌われているのだから僕を倒したところで信用は」


 有季は言いかけて気づいた。

 昨夜の目に映っているのが自分ではないことに。

 その視線の先を追うとそこにいたのは有季を信じられないというような、悲しそうな表情を浮かべたさくらがいた。


「さくらちゃん? どうして、隠れてたんじゃ」

「隠れているとは言った。でもここにいないとは言っていない」




 遡ること数分前。

 彩果に促されて部室に戻った後、連れてきた混濁しているさくらの意識を取り戻させた。

 目を覚ましたさくらは昨夜の顔が目の前に現れたため驚いて逃げようとした。


「待て」

「離して! 有季君は?」

「いいから聞け。あの男の所に戻ったら殺されるぞ」


 物騒な言葉が昨夜の口から零れ、さくらの動きが止まった。

 その隙を見計らって昨夜はさくらを練習室にあった小さな荷物置き場と化している押し入れに引きずりこんだ。


「ちょっと、何……」

「いいから。怒るのは加治との会話を聞いてからにしろ」

「え?」


 呆然とするさくらを押し入れに閉じ込め昨夜は有季と対峙した。




「有季君。今の、どういうこと」


 さくらは今でも先ほどの有季の発言が信じられないと言うように彼の目を見返した。

 有季は冷ややかな視線をさくらに返す。

 その様子を見ながら昨夜は有季の隣を通ってさくらを背後に守るように立った。


「俺は術のことはほとんどわからん。でも1つ。さくらに術のことがバレてはいけないということはわかった」


 有季がかける術には弱点が1つあった。

 それはさくら──つまり術をかけられる者に術の存在がバレてはいけないということだ。

 だから有季は本性を決してさくらに見せることはなかった。

 だがここで術の存在も有季の企みもバレてしまった。


「昔、未来はさくらこを救うことばかり考えて術者の存在を全く確認しなかった。だから現世ではあえて術者を野放しにして観察していた」


 昨夜が説明する後ろでさくらは戸惑ったように2人を交互に見返していた。

 彼女は何も知らない。

 ただ知らない間に有季に操られ、敵だと思っていた昨夜に助けられたのだ。

 戸惑いもする。


「お前に勝ち目はない。さくらこの力は神海家でもさくらしか持っていない。もう操ることはできない」


 有季は後ろで庇われているさくらと目を合わせる。

 さくらは怯えたように昨夜の背中に隠れる。


「……そう。結局さくらちゃんは僕を拒絶するんだね。わかったよ。僕の負けだ。君達の前から消えればいいんだろう」


 有季は手に持っていた呪符を床に落として塵にすると呆気なく2人に背を向けて出て行こうとした。


「え、ちょっと待って」

「さくら、行くな。あいつはお前を殺人犯にしようとした人間だぞ」

「え、でも……」


 昨夜が追いかけようとするさくらの手を引いて昨夜は阻止する。

 さくらも腑に落ちないような顔で部屋を出ていく有季を見送るしかなかった。

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