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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学二年生(全19話)
33/154

彩果の思惑

 さくらはまどろみの中にいた。

 その目に映るのは三味線と楽譜。

 その耳に聞こえるのは自分が奏でる曲。

 だがさくらの心は満たされない。


(もっと上手くならないと。こんなんじゃ神海家の名に恥をかかせてしまう。もっと上達しないと)

「さくらちゃん。呼ばれてるよ」


 さくらが虚ろな目を上げると優しい笑みを称えている有季がいた。

 彼が指す方向を見ると未奈が手招きしていた。


「さくら、あんたちょっと休めば。顔色悪くなってるよ」

「大丈夫よ。疲れてはいるけど後1週間の辛抱なんだから」

「でもさ」

「大丈夫だよ栗山さん。僕も見てるから。ね、さくらちゃん」


 まだ何か言おうとしている未奈の前に立ち、有季はさくらを庇うように言葉を重ねる。

 未奈は気まずそうに言葉を途切らせて逃げるように泉の方に向かってしまう。


「さあさくらちゃん。もう1回練習を……」

「はーい中学生組集合ー!」


 彩果が部屋に響くようにミーティングルームから叫んだ。

 一度全員が彩果の方を向いたが、すぐに発表会のことだとわかった者が多数なので高校生はそのまま自主練習へ。

 呼ばれた中学生はまばらに彩果の方に向かった。


「ちっ。さくらちゃん。行こうか。すぐに終わらせてまた練習しよう」


 有季が顔をしかめて舌打ちをしたが、気が遠くなっているさくらには聞こえず、手を引かれるままに彩果の側まで歩いた。


「3年は知ってると思うけど、公演の前日は上級生の前で発表を行います。そのことで連絡があるので聞いててください」


 さくら達は2回公演をする。

 1つは中1と高1を招いた新入生公演、その前日に行うのがそれ以外の学年が見に来るリハーサル兼演奏会である。

 大体はどちらも同じ工程なのでミーティングはいらないのだが。


「変更点は1つ。前日の公演に妖精ちゃ……神海さんは出ません。彼女の代打は副部長の高岡先輩が出てくれます」


 まどろんでいたさくらは彩果の言葉で一気に目を覚ました。

 隣にいる有季も驚いて言葉を失っている。

 言葉を詰まらせているさくらに代わって彩果と同学年の部員が手を挙げる。


「どうして急にそんなことを? こんなこと異例じゃない?」

「確かに異例だけど神海さんは重度の貧血持ちで、更に今年は重要なパートを任せています。彼女の代打は副部長の高岡先輩しかできないけど先輩は当日他の役職もあるから代打はできない」

「それで?」

「前日に気合入れて倒れられるよりも当日気合入れて倒れてくれた方がマシじゃん?」


 気持ちはわかるが彩果の言い方を要約すると、「さくらは絶対倒れるから当日本気出させて倒れさせよう」ということだった。


「私的にはいい案だと思うよ。ちなみにこれは部長にも顧問にも講師の先生にも了承済みです」

「まあいいかもね。他の人は当日休んでもそこまで痛手ではないけど神海さんが休むとメリハリないし。私賛成に一票」


 先に彩果に質問をした部員が賛成すると同学年の部員は流れるように賛成に手を挙げた。

 こうなってしまうと年下の2年で反対に入れられる猛者はいない。

 さくらが戸惑っている間に全員が賛成に手を挙げてしまった。

 ちゃっかり未奈と泉もいる。


「じゃあ神海さんは前日欠席で。他の人は後で通し練習あるからそれに向けて練習してね」


 彩果が解散を命じると誰も反論せずに自分の楽器のところへ戻っていった。だがさくらは動かない。


「さくらちゃん。とりあえず練習」

「先輩」


 さくらは有季の声を無視して彩果の目の前まで迫った。


「私、納得できません。確かに前日に倒れるかどうかはわからないけど、だからって私の確認なしに決めないでください」


 さくらは目立ちたくない。

 小声で騒ぎにならない程度に彩果に怒りを零した。

 だが彩果は聞く耳を持たない。


「もう決まったことだからわがまま言わないの。その代わり当日はいくら激しく演奏しても文句言わないから」

「そういうことじゃありません。どうして1回も言ってくれなかったんですか」

「さくらちゃん。もうその辺に」


 有季がさくらを止めに入ろうとする。

 その視界に昨夜を捉え、睨む。


(お前の仕業か相澤)


 有季に睨まれていることに気づいた昨夜は静かにさくらと彩果のやり取りを見守る。


「だって妖精ちゃんに話しかけようとしても無視されるんだもん。私のせいにしないでよ」

「言い訳しないでください。無視じゃなくて集中してただけです。叩くなり叫ぶなりして呼んだらいいでしょ。とにかく今からでも出演できるよう頼んでください」

「……」

「先輩、聞いてます?」

「うるさいな」


 彩果が急に声のトーンを低めたので気弱なさくらは体を震わせ何も発言できなくなってしまった。

 その隙を見計らって彩果は顔を寄せる。


「先輩の言うことは聞く。決まったことに口出ししない。言うこと聞かないなら退部させるよ。いいね。神海さん」


 彩果にきつく叱られてさくらはそれ以上反論できずに一人楽器の方へ戻っていった。

 彩果は昨夜に目配せする。


「できることはやったからね。後は頑張って」


 彩果の言葉に昨夜は力強く頷いた。

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