求める自由
有季は廊下側の1番後ろ。つまり昨夜の隣の席になった。
有季が邪魔にならない程度の声で昨夜に挨拶すると表情1つ変えずに昨夜は会釈をした。
(ああそうだ。この2人が一緒に行動してくれれば私は蚊帳の外。転校生同士仲良く……)
「加治の案内はそうだな。神海、お前がしてやれ。従兄妹だし慣れてるだろ」
(なんで!?)
担任に見えないところで打ちひしがれるさくら。
その目の端に小刻みに動くものがいた。
そちらに目を移すと正体は未奈だった。
彼女もまた目立たないところで目に涙を浮かべ、腹を抱えながら笑いを堪えていた。
(あの裏切り者!!)
さくらは表情に殺意を浮かべながらも担任の指示を聞き頷いた。
有季に校舎を案内している時も少なからず学年問わず好奇の目に晒された。
だが学校のネットワークは迅速なのだろうか。
大方の人間にはさくらと有季が従兄妹というほとんど兄妹仲と変わらない関係だということは知られていた。
そのためか昨夜の頃よりはその視線はきつくない。
「見られないのが一番なんだけどな」
「さくらちゃんも大変だね。美人っていいことばかりだと思ってたけど」
「有季君もそうじゃなかったの?」
「僕は大丈夫だったな。男だからちょっとコンプレックス気味ではあるけど特に不便はなかったよ。それに僕は跡継ぎとかもない家庭に産まれたから」
有季の母はさくらの母の双子の姉にあたるが、神海家は代々次女が継ぐものになっている。
そのため有季の母は自由に会社員となり今は専業主婦をしながら少しずつパートに出ているらしい。
ちなみにさくらの姉も跡継ぎではないため自由に高校生活をしている。
「でも妹であるさくらちゃんとかおばさんは重荷じゃないの? 産まれた頃からもう跡継ぎにされちゃうんでしょ?」
「まあお母さまの方は少し反抗してた時もあったらしいけど私はそこまで嫌でもないかな」
「なんで? 自由になりたいとか思わないの?」
「別に束縛されてるわけじゃないよ。友達を家に招いてお茶してもいいし、何より和楽に携わる仕事ができるのは楽しいよ」
「ふーん」
有季は歯に衣着せぬような返事をしてから再度さくらに向き直った。
「でもさ、いつかは思うんじゃない?」
その顔には優しさと、何かを試すような仄暗い笑みがあった。
「屋敷を抜け出して、旅に出たいなんてこと」
「え?」
さくらは有季が急に声音を変えたことに驚いてついそこに立ち尽くしてしまう。
「屋敷を抜け出す?」
さくらが有季の言葉を反芻する。
その様子に有季は一瞬顔から表情をなくし、その後声を出して笑った。
「え、な、何?」
「ごめんごめん。さくらちゃんがあまりにも真剣に考えるからおかしくなっちゃって」
何故かわからないが笑われていることに対してさくらは少なからず不機嫌な気分になった。
頬を少し膨らませて眉を寄せる。
「からかってたの?」
「ごめんってば。でも全部冗談なわけじゃないよ。もっと自由に生きてもいいなと思って。今は昔みたいに規則に縛られすぎるのも疲れるだけだし」
有季が心のどこかで心配しているような言い方をしたのでさくらは思い当たらないとでも言うように首を傾げた。
「別に何も不自由してないけどなあ。それに私重度の貧血持ちでこれ以上自由があってもどうせ外に長時間いられないし。営業職とかも人見知りでままならないだろうから全然嬉しい限りだよ」
「そっか。それならいいよ」
さくらの跡継ぎ事情は有季の言葉で終わった。
昼休みも残り少ない。
次の教科の準備もしたいため、2人は足早に残りの教室を周り戻っていった。
風呂から上がり夕食も終えたさくらは自室に戻り今日出された宿題に取りかかり始めた。
現代文の評論を読もうとしたが教科書がないことに気づく。
「あれ? 持って帰らなかったかな」
通学鞄の奥の方まで見てみるが重なっている部分はない。
探している最中にさくらが思い出した。
「そうだ、有季君に貸したんだ」
今日の現代文の授業は担当教員が出張だったこともあり休みだった。
さくらは既に予習を済ませていたので違う勉強をしていたが、有季が教科書を持っていないということで貸していた。
それを返してもらうことを忘れてしまっていたらしい。
「まあいいや。確かお姉さまが同じ教科書持ってたよね。借りよう」
さくらは隣の姉の部屋に出向き教科書を貸してもらうと再び自室で勉強に励んだ。
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