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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学二年生(全19話)
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険悪な雰囲気

 教室に戻った後、再び視線を向けられて固まるさくらを余所に未奈はグループでまとまっている女子達のもとへ向かった。


「聞いてきたよ。これで満足?」

「で? どんな関係よ」


 グループのリーダー格である気の強そうな女子がさくらの方を睨みながら未奈に質問する。


「弱いさくらに当たり散らすのやめなよ。後別になんともないって。従兄妹らしいよ」

「は? 従兄妹?」


 さくらは自分に聞かれているような気がして泉の後ろから勢いよく首を縦に振った。


「今日から転校してくるんだって。通学路も一緒だからさくらのお母さんに一緒に行けって言われたらしいよ」

「本当でしょうね。嘘吐いてたら」

「さくらが嘘なんて吐けるわけないでしょ。こんな箱入りお嬢様に」


 未奈が軽くさくらのことを皮肉っている気がするが、世間知らずなさくらは未奈が自分を庇ってくれているだけでありがたい気持ちになっているので気づいていない。


「もういい? これ以上巻き込まれたくないんだけど」

「……まあいいわよ。なんともないんだったね」


 余所から見れば女同士の険悪な喧嘩だろう。

 現に野次馬と化しているクラスの男子やその他一部の女子はチラチラとこの争いを見ている。

 さくらはただでさえ目立ちたくない性分が祟り、顔は青どころか色がなくなっている。


「そういえば相澤君まだ来てないんだね。そろそろ来る時間なのに」


 泉が何気なくさくらに聞こえる程度の声で問いかけた。

 その目は昨夜の空席を見ている。


「あれ、そういえば廊下側の一番後ろって空いてたよね。なんか机あるんだけど」

「今相澤君に来られても困る……え?」


 さくらも泉が指す方に視線を移す。

 そこには今まであるはずのない机が置かれていた。


「今日ってその従兄妹君以外転校生いるのかな。そんなに一気に編入できるとは思えないんだけど」

「ま、まさか」

「さくら、頑張って」


 他人事のように呑気に笑いながら手を振る泉にさくらは引き攣った笑いを返す。


「地獄だ……」




 有季は担任になる教師に職員室で挨拶した後、廊下で待っていた。

 ホームルームの最初に自己紹介をするため、担任と一緒に行かなければならないのだ。


「まさか登校の前にさくらちゃんに会えるなんてな」


 有季はまだ賑わっている廊下で小さく独り言を零した。

 そんな彼の元に1人男子が歩き立ち止まる。


「君は」


 男子の存在に気づいた有季は目線を寄越し、にこやかに手を振った。


「相澤君だっけ。はじめまして、さくらちゃんの従兄妹の加治有季です」


 男子──昨夜は人の良さそうな笑みを浮かべる有季にその蒼眼を向け、眉を寄せる。


「何故ここに来た」

「親の転勤だよ。それ以外にないじゃないか」

「公立があるだろ。ここじゃなくてもいいはずだ」

「それは君も同じだろ。でも可哀想にね」


 有季はその優しそうな顔から一転昨夜を馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「さくらちゃんは君のこと、迷惑な人間としか思ってないよ」


 さくらの名を出した途端昨夜の眉が険しそうに寄った。


「さくらは渡さない」

「それは僕のセリフだよ。今度は誰にも邪魔されない」


 昨夜は更に何か言いたげだったが、職員室から担任が出てきてしまったので諦めて教室へと向かった。

 その後ろ姿を見送りながら有季は1人ほくそ笑んだ。




 さくらの騒動が終わって5分後、昨夜が静かに教室へ入ってきた。

 もちろん昨夜は先程の女子の(いさか)いは知らない。

 そもそも他人の目を気にしていないのでクラスメートの視線が集まっても我関せずといったように席に着いてバッグから筆記用具や教科書を出していた。

 その間さくらの方を向くこともなかった。

 そしてさくらも昨夜のことに気を取られている場合ではなかった。


(転校生が同じクラスに2人も来ることなんてそんなにない……いやでも、そういえば始業式のクラス編成でうちだけ人がちょっと少なかったような。いやでも……)


 さくらが頭で色々と反芻しているうちに始業のチャイムが学校全体に響き渡った。チャイムが鳴り終わる前に大半の生徒が自分の席に戻る。戻らなかった生徒も担任が来ると即座に戻った。


「今日も休みはいないか。よし、じゃあ早速転校生を紹介しよう」


 さくらが願う暇もなく担任は慣れたように淡々と出欠確認を行い廊下にいる転校生を手招きで呼んだ。

 そしてやはりそれはさくらが先程まで一緒に登校していた有季である。


「はじめまして。加治有季と言います。皆さんと仲良くしたいです」


 有季はその中世的な顔に優しそうな笑みを浮かべてクラス全体を見回した。

 その目にさくらを映すと手を肩辺りのところまで上げ手を振る。

 そうすると一気にさくらの方に注目が行く。


「なんだ加治。神海と知り合いか?」

「はい。従兄妹なんです。さくらちゃんとはほとんど兄妹のように育ったので一緒になれて嬉しいです」


 さくらは有季が嘘を吐いてるのに気づいた。だが何も言わず首を縦に振る。

 有季は自分達に恋愛感情はないと女子の前で証明してくれたものだ。


(有季君。感謝しかないよ。ありがとう)


 さくらは感激しすぎて泣きそうになった。

 その横で昨夜はさくらに不機嫌そうな目を送っていた。

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