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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学二年生(全19話)
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可愛い男の子の正体

 顔を洗い直して頭を冷やしたさくらはリビングに戻り、まだあの男子がいるかどうか隙間から確認した。

 すぐに母がさくらの存在に気づく。


「さくら、頭は冷えましたか」

「はい。お待たせしました」


 なるべく男子の顔を見ないようにしながらさくらは先程座っていた席に戻った。


「おはようさくらちゃん。ああ初めましての方がいい?」

「い、いえ。大丈夫です」


 話しかけられたさくらはつっかえながらも、なんとか答えるまでには落ち着いた。

 その様子を見ながら男子は1つ頷いた。


「良かった。また怖がらせちゃったら悪いから」

「大丈夫ですよ有季君。さくらが臆病すぎるだけですから」


 その要因の1つは母の過剰な心配性だが、面倒になるのでここはグッと我慢する。


「さくら、彼は加治有季君。あなたと同い年の従兄弟よ。6歳の頃に1回会ったきりだから覚えていないのも無理はないのだけれど」


 そう言うのだったら呆れたような目線を送らないでほしいとさくらは心の中で願う。


「でも突然どうしたのですか有季君。ここにいるなんて聞いてませんが」

「あれ、母さんから聞いてませんか。僕引っ越したんです。今日から転校するので」

「ああ。だから制服がさくらと一緒だったのですね。それならいいわ。さくら、どうせなら学校まで一緒に行きなさい。同じ学年なんだから何かと頼りになるでしょう」

「え!?」

「何か文句がおありで?」


 睨む母に勢いよく首を振ってからさくらは急いでバッグを肩にかけ、有季を連れて外に出た。


「あれ、いいの? まだ話の途中じゃなかった?」

「あのお母さまとこれ以上話を繋げられません」


 嫌味を言われると学校に辿り着けなくなる。

 それよりかは話を切ってさっさと家を出てしまった方が早いし楽だと体験談が語っている。


「そう。じゃあこれからよろしくね。さくらちゃん」

「んっ、うん」


 相変わらずさくらの人見知りは治っていないが、彼は中世的な顔をしているからか、まだ話しかけやすい。

 少なくとも隣の席に座っているあの怖い男よりかは。


「か、加治君はここの近くに住んでるの?」

「有季でいいよ。そうだね。もう少し遠いけどここの道を通るから近くかな」

「そう。それなら」

「それなら?」


 昨夜と一緒に通学することはなくなる。

 そう口から出そうだったが、ほぼ初対面の有季に他の男子の名前を出して怪しまれても迷惑をかけてしまう。

 母の耳に入ればまた1年前のように過保護になってしまう。


「ううんなんでもない」

「そう。それなら行こうか」


 さくらは戸惑いながらも有季と同じ歩幅で通学路を歩いていった。




 さくらは美人だが、本人の美的センスはずれている。

 有季のことも可愛らしい顔立ちだとは思っていたが、特別に整っているとは思っていなかった。

 だから学校に着いた時、地獄を見ることになった。


「あれ神海さんじゃない? 隣にいる男の子って誰?」

「彼氏とかじゃない?」

「え、でももう1人いたよね。確か金髪の」


 すれ違う女子がヒソヒソとさくらを見ながら話す。

 聞きたくなくても視線で大体予想がつくからいたたまれない。


「なんか噂になっちゃってるね」

「そ、そうだね」


 さくらはなるべく顔を伏せながら下駄箱まで歩いていく。


(やっとこの痛い視線から解放されると思ったのに! これが最悪っていうんだ)


  さくらは有季の死角になる所で下唇を噛む。

 これ以上目立つことを避けようとした結果、更に複雑な関係性を疑われてしまった。


「ごめんねさくらちゃん。なんか僕の知らない間に嫌な噂が流されてたなんて知らなくて」

「う、ううん有季君のせいじゃないよ。本当に」


 申し訳なさそうにしている有季にさくらは遠い目を向けながら返事をする。

 そう、有季のせいではない。

 正直あの男のせいにしたい。

 自分は巻き込まれただけだと信じたかった。

 だが元凶がさくらだということももちろん理解している。


「もういっそのこと転校したい」

「まあまあ。もしなんか言われたら僕も援護するから」

「ありがとう」


 有季は一度職員室へ向かうとのことで、さくらは1人で教室に行くことになった。

 家で有季と話していたためいつもより登校が遅れた。

 クラスには大半の生徒がいる。

 そしてさくらが教室に入った瞬間一斉に視線がこちらへ向いた。


「お、おはよう」


 さくらが心臓を激しく動かしながらなんとか挨拶すると双方向から腕を掴まれた。左には未奈、右には泉だ。


「さくら。ちょっとおいで」


 クラスの誰かが声をかける前に2人が軽々とさくらをトイレにまで引きずっていく。


「さくら、正直に答えようね。さっき一緒にいた人は?」

「せ、責められてる?」

「まずは質問に答えなさい」

「い、従兄妹です。母方の。私も小さい頃に一回しか会ってなかったから覚えてなかったけど」

「特別な関係では?」

「ないよ。大体それならもっと親しくしてると思わない?」


 さくらのことをよく知っている2人だ。

 さくらの問いに疑いもせず頷く。


「まあそんなことだろうとは思ってたよ。ただ私達めっちゃ質問攻めにあってさ。わからないって言ったら聞けってうるさくて」

「……ごめんなさい」


 友人にまで迷惑をかけていることにさくらは申し訳ない思いで目を逸らした。

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