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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学二年生(全19話)
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男の影

 さくらの体調が悪くなることは頻繁に起こる。

 だが重度ということに変わりはないので未奈と泉が顔色を見て隅に置いておくことが一連の動作になる。


「さくら、あんたなんで急に貧血なんて起こってんの。元気そうだったじゃない」

「いやいや未奈。天気予報じゃないんだから」


 泉は首を横に振りながら未奈の言葉を否定する。


「まあ私達は慣れっこだしね。どうするさくら。辛そうならお父さんに連絡してあげるけど」

「……ううん大丈夫。今日は帰れるから」

「そう? じゃあ私達の部活が終わるまで待ってて」


 ある程度回復しても何が起きるかわからないさくらの身を案じて未奈達は一緒に帰ってくれるという。

 さくらの顔色が悪いのは体調が悪いせいではないのだが、余計な心配をかけたくはないので昨夜との件は話さないでおく。


(琴だけならまだしも、さくらこ様のことも知ってる。それに、神海が滅亡寸前まで追い込まれたことも、陰陽師に唆されたことも)


 更に続けて彼はさくらに、自分は味方だと告げた。

 ここまで追い詰められているのに彼を味方だと思うことはできない。


(もし彼が嘘を吐いているのだとしたら、また1000年前のように滅亡にまで追い込まれてしまう。彼が一般人ではないとしたら)


 嫌な予感ばかりが思いつく。

 もし彼が何か企んでいるとしたら、さくらは既に手中に入っているのではないだろうか。

 偶然だと思っていたものも全て仕組まれていることだとしたら。


「……」


 さくらは冷や汗をかきながら昨夜の方へ視線を移す。

 彼は今さくらの方を向いていない。

 先輩に弾き方を習っているのだろう。集中している。


(私がなんとかしないと。未奈達にまで危害を及ばすわけにはいかない)


 さくらは胸に手を当てながら1つ大きく深呼吸をした。




 さくらが恐る恐るといったように昨夜と距離を取りながら学校生活を過ごしていく日が1週間続いた。

 その間、一度として昨夜の方から声をかけてきたことはなかった。


「なんでだろう」

「何? 結局相澤君に必要とされなかったら寂しいの」


 未奈がからかうようにニヤけながらさくらの疑問に答える。

 未奈にも泉にも備品室で告げられたことは話していない。

 昨夜がどれだけ危険な男なのかわからないのだ。


「嫌よ嫌よもなんとやらだもんね」


 泉も未奈のからかいに同調する。

 何も知らない二人だからこそこうやって軽口を叩けるのであって、もしまたさくらが危険な目に遭うと知ればどうなるかわからない。


「もう、勝手なこと言わないで」


 さくらもバレないように笑いながら反論する。

 今も昨夜はどこかへ行っているらしい。

 昼休みに何度か観察しているが、彼がその時間中に教室にいることは滅多にない。

 さくらは大体教室にいるので女子からの視線は全くないが、気になるものはある。


(どこかでご飯を食べてるとか? でも教室で食べたっていいのに)


 昨夜の謎な行動にさくらは言いようのない不安を覚える。とにかくこれ以上友達に自分のことで迷惑をかけたくない。


「ちょっとトイレ行ってくるね」


 未奈達にそう告げてからさくらは1人で女子トイレに向かった。

 昼休みだというのにトイレの人気はない。


(……いや流石に考えすぎか。普通だろうと特殊だろうと相澤君も流石に女子トイレにまでは入らないだろうし)


 さくらは個室に入ってしばし肩の力を抜く。

 あまり強張っていたら未奈達にバレてしまう。さくらは嘘を吐くのが苦手だ。

 それにあまり始終力を入れているといつ体調が悪くなるかわからない。


(こういう人を疑うのって苦手なんだよな。特に異性なんて普通の人とも関わりなんてないのに)


 心の中で愚痴を零す。

 何故こんなことになってしまっているのか。

 さくらはただ平穏無事に学校生活を送りたいだけなのに。


(ああ駄目だ。1人になると愚痴ばっかり出てくる。なんとか早く解決しないと)


 自分の頬を軽く両手で叩いてからさくらは個室を出て水道の方に歩いていく。

 正面にある鏡で自分の顔色をチェックしようと覗き込んだ時だった。


「っ!?」


 背後に男の影が一瞬映ったような気がした。慌てて振り返るもそこには何もない。

 再度鏡を覗き込んでみるがそこに映るのは驚いた表情のまま固まるさくらと後ろの空いているトイレのみ。

 もちろん周りを見渡しても男の姿はない。


「どういうこと……」


 恐ろしくなったさくらは手を洗うと急いでトイレから出た。

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