混乱
落ち着いてきた頃を見計らってさくら達も練習に戻ろうとした。
だがその時顧問からさくらのみ声をかけられた。
「神海さん、ちょっと」
顧問の側には昨夜が行儀よく座っていた。
嫌な予感はしながらも従わないわけにはいかないのでとりあえず昨夜から離れた場所に座り直す。
「なんでしょう」
「さっきの公演の件なんだけど、当たり前ながら相澤君は出られないことはわかってるわよね」
それはさくらもわかっている。
入部してまだ1日しか経っていない昨夜を3週間後の発表に出させるわけにはいかない。
だがそれとさくらがなんの関係があるのだろうか。
まさかその間一緒に雑用をさせるわけではあるまい。
「でも入部したからには参加はさせたいの。だから当日備品の組み立てとか後片付けの手伝いとか。楽器は自分達で運んでもらうとして、他の雑用をやってもらおうと思ってるの」
「はい」
雑用をやらせるという点では合っていた。
さくらが聞きたいのはそこではなく、何故自分が選ばれたのかというところなのだが。
「私はその手伝いですか」
「いいえ。名門の生徒を舞台に出させないわけないでしょ。あなたは全部員の中でも一番楽器やその他諸々の手順に詳しいから本番までにノウハウを相澤君に教えてほしいの」
嫌な予感程よく的中するとはこのことだろう。
さくらは頬を引き攣らせながら顧問の顔を見た。
「私1人ですか」
「別に栗山さんとか呼んでもいいけど、相澤君と仲がいいのは神海さんでしょう。引き受けてくれるわよね」
何故顧問までも断りづらい性格のさくらに頼むのだろうか。頼まれたらさくらは首肯するしかない。
「はい。もちろんです」
「そう。じゃあ早速お願いね。楽器数も多くてのんびりやってると間に合わないから」
そんなカツカツな状態をさくら1人に押しつけるのか謎だが仕方がない。
顧問の説明が終わった後、さくらは部室の奥にある備品室に昨夜と向かった。
「無理だったな」
「何がですか」
備品室に入り、今まで黙っていた昨夜がさくらに声をかけた。
無視はできないので一応返事をする。
「事務連絡以外で関わるなと言っていたのに結局第三者から俺と関わらされている」
「……仕方ないです。ここには味方もいますので」
「味方……栗山と石川か」
「2人のこと名字で呼ぶなら私のことも名字で呼んでくれませんか。特別扱いが一番嫌です」
備品の組み立て方を指示しながらさくらは不満を零す。
「大体私と知り合ったのだって単なる偶然でしょう。たまたま席が隣でたまたま通学路が一緒で。和楽部に入りたかった理由は知りませんけど私がいたからじゃないでしょうし。男の子の友達と一緒にいてもらった方が私も気が楽です」
さくらが眉を寄せながら組み立てては外して片づけるを繰り返す。
それを真似しながら昨夜は一度手を止めて何か考え事をするかのように宙を見上げた。
「偶然か」
「ちょっと、手を動かしてください。これまだ一割もできてないんですから。早くしないと練習時間が少なく……」
「本当に偶然か?」
「はい?」
急に何を言い出すのか。さくらが苛つきながら昨夜を見上げると彼も同時にさくらの目を見た。
「神海」
「な、なんですか」
「1000年前、神海家に1人の姫がいたはずだ。美貌を誇り度々親や使用人を困らせてきた」
さくらは手を止めて相手の顔を食い入るように見つめた。
段々体温が下がっていく。
「だが彼女は神海家を滅亡寸前まで追い込んだ。陰陽師の力を使って。愛していた琴を利用して」
「どう、して」
「そして1年前、古い蔵の中から姫の琴と、封印されていたはずの魂が出現し、山の中で成仏したと」
さくらは反論することも怒ることもできずただその場で硬直していた。
その思考は1つの疑問にしか結びつかない。
「なんで、知ってるの」
もちろん昨夜とはなんの関係もない。未奈や泉が勝手に話したということもないだろう。
だとすれば何故彼は知っているのか。
心配されまいと親や使用人にさえ言っていなかった成仏の話さえも。
「さくらは思い出していないのか」
「何を」
「昔の記憶……さくらこだった頃の記憶を」
琴の詳細だけでなく、その所有者の名前まで知っている。
この男はどこまで情報を握っているのか。
「あなたは何者なの。私は誰にも教えてないはず」
「それは……」
「ちょっと2人とも。雑用はそこまでにして1回戻ってきて」
幸か不幸か練習を終えた奈子がさくら達を呼びに来た。
「どうしたの神海さん。顔色悪いわよ。また貧血?」
「い、いえ。ちょっと立ち眩みがあっただけです」
「そう? それならいいんだけど。あんまり無理しないでね。さあ、行きましょう」
手招きされてさくらは立ち上がる。
その直前、昨夜が耳元で囁く。
「俺はさくらの味方だから」
振り向いた時には既に昨夜は何事もなかったかのように戻っていった。
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