好奇と嫉妬の波
嫌々ながらも学校へ辿り着いたさくらを待っていたのはクラスメートの期待と嫉妬の目だった。
「これが嫌なのよ……」
「気にしなければいいだろう」
昨夜は全く縮こまることなく入ってすぐの席に着席する。
扉の前にいては迷惑になるためさくらも渋々隣の席に着く。
それを見計らったかのようにさくらを女子生徒が取り囲んだ。
「神海さん。ちょっといい?」
リーダー格のような目つきの鋭い女子がさくらに声をかける。
もちろんだが人見知りのさくらは彼女の名前も覚えていない。
「相澤君とはどういう関係なの」
さくらは特に質問に答えるとは返事していない。なのに答えるのは当たり前だとでも言うように女子の視線が痛い。
未奈と泉に助けを求めようとするが2人はいつも登校が遅い。
つまりさくらは今孤立無援状態だ。
「ど、どういう関係でもないです。ただのクラスメートというか……」
「でも今一緒に来たじゃない」
「そ、それは、偶然下駄箱で会って」
「そうなの相澤君」
リーダー格の女子が隣で素知らぬ顔をしている昨夜に聞き返す。
「神海さんとは何もないのよね」
(お願いだから波風立てないで)
「……まあ、何もないな。通学路が同じくらいで」
余計な一言が後ろにくっついていたが、取り囲んでいた女子達は何もないというところで納得したらしい。
さくらには敵対心を見せているがそれ以上追求することもなく、席に戻ってまたグループでお喋りに華を咲かせた。
「憂鬱……これが1年間続くの」
神海家の娘なので、いじめられることはあってもすぐに解決することはできるだろう。それ程までに権力は大きい。
しかしそれは体裁の話であって、さくら自身が抱える問題は解決できない。
「お願いだから事務連絡以外に話しかけてこないでください」
「昨日からずっとそうしてるだろう」
家の前で待ち伏せしていた男がよく言う。
今だって登校時間が違えばあのグループに睨まれなくて済んだのに。
(神様、どうか平穏無事に学校生活を送らせてください)
さくらの願いが神に届いたのかはさておき、午前授業は何も心配がいらなかった。
教科書は昨日の時点で購入していたらしく、見せるということはなかった。
更に男女別の体育があったため、昨夜もそこである程度同性の友達を作ったらしい。
「良かった……これで教科書見せたりなんかしたらまた目をつけられる」
「美人もいいことばかりじゃないんだね」
昼休み。いつもの通り未奈と泉と机を2つ並べて弁当を広げる。
成長期でも平均女子より格段に少食派のさくらは未奈と泉の弁当箱より小さい。
「あ、そういえば彩果先輩から連絡来たんだよねさっき」
「なんて?」
「相澤君が入部したって」
「うっ、胃が……」
卵焼きを口に含みながらさくらは胃の辺りを摩った。
「小さい部活だから噂が広がるかもね。特にさくらがいるなんて知ったら目をつけられるどころの話じゃないんじゃない?」
「お助けください神様。私が何をしたというのですか」
嘆くさくらに対し我関せずと言ったような様子で未奈と泉は談笑を再開した。
(そういえば相澤君は今どこ行ったんだろう)
見た所教室内にはいない。
てっきり先ほど仲良くなった男子と昼食を共にしていると思っていたが相手は違う友達と楽しく話しながらパンをかじっている。
(友達と食べるわけじゃないんだ)
不思議に思ったさくらだが、波風を立てたくないのでそのまま自分も未奈達の話の輪に入っていった。
放課後。まだ新学期早々ということで、部員に変わりはほとんどない。
新入生もまだオリエンテーションや学校に慣れるので忙しいだろう。
そしてオリエンテーションと言えば忘れてはいけないことが1つある。
「というわけで、今年も例年通り体育館で演奏を披露します。今年は部員数もそこまで大きな開きはないわけだし中学と高校で分かれましょう」
顧問が全体集会の前で発表した。
学校では毎年恒例の新入生歓迎公演ならぬ部活勧誘がある。
人数が少ないところは中学生高校生混同で2回公演をするらしいが、和楽部は丁度良い比率で人数が分かれているため、どちらも別で行うことになった。
「高校生の方はもう慣れてる人の方が多いでしょうからいつも通りにやっていただければ構いません。中学生、特に2年生は今年初めて後輩も前で発表します。3年生の指示をよく聞いて迅速に動いてください。それじゃあまた各自練習に戻ってください」
顧問の伝達が終わると自然と各々が自分の楽器の方に戻っていく。
とは言っても規則が緩い部活なので大体はそのまま足を崩して団欒する生徒が多くなる。
「公演かー。今年はさくらがいるから皆集中して聴いてくれるんじゃない」
「やめて。また胃痛が来るから」
まだ齢13というわけでさくらは神海家の大々的な演奏会に出たことはない。
だが流石に名前は知れ渡っている。
珍しいもの見たさで注目が集まるだろう。
「まあ後輩は後ろの目立たない方に入るから安心して妖精ちゃん。多分」
「説得力ないです先輩。あいたたた……」
少しの間辛そうに胃を押さえているさくらがいたそうだ。
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