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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学二年生(全19話)
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ストーカーのような……

「お疲れ様ーっと。誰この子」


 昨夜の登場により、一気に部室がざわつき始めたが、彩果は全く気にすることなく昨夜に近づいていった。

 おそらく始業式の時にまともに話を聞かず、寝ていたのだろう。

 昨夜の存在を知らないということは。


「はじめましてイケメン君。入部希望? 見学?」


 会ってまだ1分も経っていないというのに彩果は昨夜に対し『イケメン君』とあだ名をつけた。

 正直その感性はどうかとさくらは思う。


(まあでも初対面で妖精ちゃんってつけられた私よりかはマシなのかな)


 さくらが遠い目をしていると、昨夜は臆することなく彩果の目を見て口を開いた。


「初めまして。2年1組の相澤昨夜です。和楽部へは入部希望で来ました」

「ああそうなんだー。えっと今は顧問がいないからまだ入部はできないね。でも楽器に触ることはできるからちょっと見学だけしていきなよ。あ、私3年の未名河彩果ね」


 彩果が手招きすると、昨夜は1つ頷いてついていった。

 その間誰もさくらの方には視線を向けなかった。


「お疲れさくら。なんでこんな早いの? 後なんで相澤君は部室来たの? 入部希望って言ってたけど」


 隙を見計らって未奈と泉が影になっているさくらの両端に並んだ。

 さくらも溜息を吐いて肩の力を抜く。


「ホームルーム前にもう一通り学校のことはわかってたんだって。だから案内は必要なかったんだけど、和楽部には入部したいから部室を案内しろって。入部希望の理由は聞いてないけど」


 さくらは彩果が移動した方に視線を向けながら言う。

 彩果は他の女子の視線など全く気にしておらず、楽しそうに後輩に楽器のことを教えていた。


「彩果先輩強いよ。私あんな女子の視線耐えられない」

「うーん。多分先輩のことだから視線にすら気づいてないと思うよ。ほら、あの人興味ないことには耳すら貸さないし」


 天真爛漫な性格を持つ彩果だが、その反面冷酷というか、冷静沈着な部分も併せ持っており、自分の気が乗ることしか協力しない。

 とは言ってもさくら達には親切にする部分もあるので、心を開くか開かないかが強い人間なのだろう。

 あの調子でいくと、昨夜には心は開いているらしい。


「ま、和楽好きに悪い人はいないって思ってんじゃないあの人」

「そうかもね。あ、そうだ。早く楽器の準備しないと。先生に怒られちゃう」


 さくらは急いで自分の名前が書かれた楽器のもとへ向かった。




 翌日。さくらは神海家の大きい門を開けて愕然とした。


「な、なんでいるんですか」


 さくらの目の前には昨夜が立っていた。

 さくらの存在に気づくとすぐに昨夜は近づいていく。

 後ずさりする間もなく一気に距離が縮まった。


「おはよう」

「お、おはようございます」


 反射的に挨拶を返してしまったが、質問に答えてほしい。

 ストーカーだろうか。それならすぐに家に戻って使用人を呼ばなくては。


「通学路に神海って表札が見えたから」

「だから?」

「待ってみようかと。目的地は一緒だし」


 質問に答えてはもらった。だが結局ストーカーとは大差ない答えだ。

 表札が見えたから待っているなど普通は考えないのではないか。


「わ、私待ってほしいなんて言ってないですよ」

「俺は一緒に行きたい」


 話がかみ合わない。

 大体もしさくらがその前に家を出ていたらどうするつもりなのか。

 昨夜は遅刻になってしまうだろう。


「さてと、行くぞ」

「え、ちょっと」

「なんだ。遅刻するぞ」


 本当に一緒に行く気らしい。

 今日は仕方ない。

 さくらには振りほどいて学校まで逃げる力はない。あったとしてもどうせ席は隣だ。


「……明日からはやめてくださいね」

「善処する」


 善処ではなく本当にやめてほしいのだが。

 さくらの昨夜への嫌悪感が更に上がった。


「ところで1つ聞いてもいいか」

「なんですか」


 待ち伏せだの話が通じないだの色々突然なことが起こったのにこれ以上何を躊躇うことがあるのだろうか。


「いつまで敬語を使うつもりだ」

「はい?」

「それ」


 言われてみればさくらは昨日から昨夜に対してのみずっと敬語を使用している。

 特に意識しているわけでもなく、ほぼ無意識に警戒心を高めていたせいだろう。


「よそよそしくないか」

「……いいでしょう。敬語だろうがタメ口だろうが私の勝手です」

「そうか」


 案外すぐに納得してくれた。

 敬語をやめろなど色々要求されるのかと思ったが。


「わかった。じゃあ敬語はそのままでいいよさくら」


 突然名前で呼ばれたことに驚いてさくらはむせてしまった。


「大丈夫かさくら」

「え、ちょ、なんで名前」

「敬語だろうがタメ口だろうが勝手なんだろう。なら俺が名前で呼ぼうが苗字で呼ぼうが俺の勝手だ」

「いや、だってなんかそれじゃあ仲がいいみたいじゃ」

「俺は一向に構わない」

「私は構う!!」


 さくらの訴えも聞かずに昨夜は素知らぬ顔で通学路を進んでいった。

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