学校案内
昨夜に向いていた視線が一気にさくらに向く。
その目は好奇心や敵対心、口惜しそうな表情など多種多様だ。
唯一泉だけは同情の視線を向けているが未奈と話しているのだから部活でからかわれるのは決定だろう。
さくらは美人だ。昨夜同様誰もが口を揃えて言う。さくらもそれは自覚している。
だから昨夜の顔が整っていることが何より苦痛なのだ。
並んで歩けば美男美女カップルと囃し立てられ、昨夜を狙っていそうなギャル系の女子には敵対心を抱かれ、その他の女子には羨ましがられることは目に見えている。
(私は極力目立たずに学校生活を送りたいの!)
そんな願いも虚しく、担任に学校案内をするよう命じられてしまった。
もちろん断ることなどできるわけもない。
「はい。わかりました先生」
意見をまともに伝えることができない自分の弱さを呪うさくらだった。
始業式でも昨夜は紹介された。
大体転校生は壇上に上がって紹介されることが基本である。
そしてその顔つきは全生徒に知られたわけだ。
「憂鬱……」
始業式が終わり、全員が教室に戻ってすぐに終礼が開始された。
本来ならそこで今日の学校は終わりだが、さくらにはまだ仕事が残っている。
「仕方ないね。部室に荷物持ってってあげるからさくらは思う存分相澤君を案内してきな」
「ねえ泉。変わりに行ってきてよ。ほら、私足怪我してるし」
「歩くのに支障はないんでしょ。ファイト、さくら」
助けを求めるさくらを軽くあしらって未奈と泉はさっさと部室へ行ってしまった。
恐らくさくらが案内を終える前に彩果とネタにするのだろう。
「呪われてしまえ」
「誰が?」
未奈達が出て行った方を睨みながら悪態を吐くさくらの後ろから男子の声がした。
驚いて振り向くと昨夜がバッグを肩にかけてさくらを見下ろしていた。
「え、えっと……」
さくらが男子への声のかけ方に迷っていると先に昨夜が口を開いた。
「案内。頼んでもいいか?」
「あ、え、あ、はいもちろんです」
しどろもどろになりながらさくらは席を立つ。
荷物がない分移動は楽だが、足は少し痛い。
「えっとじゃあ、1階から説明、します」
「いや、1階は大丈夫。さっき職員室に行った時にざっと見てきた。5階もな」
「え、じゃ、じゃあ私は何を案内すれば」
2階から4階は特に何もない。
移動教室の時は少し使用するかもしれないが、それは追々友達を作った時に一緒に行けばいいだろう。
「和楽部」
「へ?」
「だから和楽部。そこに入部したいから案内して」
さくらはすぐに反応できず、頭の中で言葉を反芻していた。
こんなイケメンがまさかそこまで知名度のない和楽部に入部しようなど考えているなんて。
それもまだ転校初日だ。
「えっと、今日?」
「駄目か?」
駄目と言われると断りづらい。何より昨夜の威圧に耐えられない。
「だ、大丈夫。今日部活あるから」
さくらは断れない自分の性格がひどく嫌いになった。
教室から部室へ行く最中もさくらにとってはただの見せしめでしかなかった。
「あ、あれ相澤君じゃない? ほら、今日壇上に上がってた」
「あああのイケメン。かっこいいよねー」
「ところでその隣の女子って誰?」
「ほら神海さんだよ。あの名家の」
わかっている。女子の目的は昨夜を見ることであり、さくらはただの飾りだということを。
それでも話題に出されていることだけはひしひしと伝わってくる。主に嫉妬の面で。
「いいなー。私も隣に並んでみたい」
「無理無理。だってあの神海さんがいるんだよ。相澤君、絶対私たちのこと眼中にないって」
まるで既にさくらと昨夜が付き合っているような言い方を彼女たちはする。
付き合うどころか友達ですらないというのに。
「色々噂されてるな」
「そうですね……」
その原因は主に昨夜にあるのだが。
当の本人は慣れているのか、そこまで気にした素振りもない。
「否定するか? 俺たちは付き合ってないって」
「いえ、結構です。なんだか否定すると返って強調してるみたいになるので」
「俺は別に構わないが」
「やめてください。私には付き合うなんて概念ありませんから」
別に構わないとはどういう意味なのか。
まさか女なら誰でも付き合えると?
(やっぱり素行が悪いんじゃないこの人。絶対友達にはなれないわ)
機嫌を悪くしたさくらはそれ以上昨夜とひと言も交わさずに部室へと辿り着いた。
「お疲れ様です。神海です」
部室に入る時の挨拶をしてから部屋に入る。
昨夜も入るよう促すが、さくらが上履きを脱いで影の薄そうなところまで移動してからだった。
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