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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学二年生(全19話)
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新しい季節

 新学期。新学年。

 桜が芽吹くこの季節は暖かいような、それいてまだ肌寒い日が続いている。

 とはいえ新生活が始まるということで大半の生徒は浮足立っていた。


「なんで新学期初日に保健室来なきゃなんないのよ」

「テンション上がってスキップしたら捻ったんだよねさくら」


 呆れた顔の未奈と楽しそうににこやかに笑う泉に見下ろされながらさくらは気まずそうに視線を逸らした。

 1年の夏休みから半年以上経った今日。

 中学2年生になったさくらも浮足立っている生徒の1人に漏れず、運動神経が悪いにも関わらず、通学路を楽しそうに歩いて小石につまずいて足を捻った。

 そして現在。養護教諭に呼ばれた未奈と泉が教室に連れて行くよう指示されたわけだ。


「ほら教室行くよ。荷物は持ってってあげるから」

「ありがとう未奈」


 中高一貫校であるさくら達の学校は規模が大きい。

 1階は図書館や職員室、保健室など、全生徒が使用する公共場。2階から4階は6学年のホームルーム教室。

 そして5階は和楽部を始めとした部室や音楽室、美術室など多種多様である。

 中学1年の頃は毎日4階まで上がっていたさくら達だが、学年が1つ上がってからは3階の教室になった。


「あー楽ー。1階分なくなるだけでこんなに負担が減るなんて。ね、さくら」

「そ、そうだね、未奈……」


 二度目だがさくらは運動神経が悪い。階段1階分歩くだけで息が上がる。

 一方で未奈はさくらのバッグを持っているというのに全く動じていない。


「ちょっとでいいから軽い運動してみれば。貧血が重いのも体力不足だからじゃないの」

「重々承知しております。一応努力してるんです。これでも」


 朝10分早く起きてラジオ体操をする。野菜ジュースを飲む。鉄分の多い食物を摂る。

 色々やってはいるがそれでこの状態なのだ。もう体力不足の問題ではない。


「もう慣れっこだけどさ。1年で何度保健室に連れていったか。おかげで無駄に体力ついたわ」

「謝罪すべきかお礼を言うべきかわからない言い方しないで」


 さくら達の教室は中央階段を左に曲がったすぐ目の前だ。席を確認して荷物を運んでもらう。

 この学校は特殊な配置をしており、サ行の名字を持つさくらが6列ある席のうち、窓際から4列目の1番後ろにある。

 その隣はまだ空いており、1番廊下側は机がない。


「ここは誰だろう。聞いたことのない名前ね」

「さくらは男子の名前なんてほとんど覚えてないでしょ。てか大丈夫? 超人見知りじゃん」

「喋らなければいいの。事務連絡だけ」

「隣の人と事務連絡のみって。でも確かに私もこの名前は知らないな。相澤君?」


 情報通で有名な未奈でさえ名前を知らないというのだ。

 つまり簡潔に言って転校生ということだろう。


「じゃあさくら。初めての男子友達作り頑張ってね」

「なんで。だから事務連絡だけだって」

「転校して不安になってる隣の男子に事務連絡だけなんてあんた冷徹もいいところよ」

「頑張れさくら。友達作りには流石に手を貸すことはできないよ」


 さくらの制止も聞かず、未奈と泉は自分の席を探して向かってしまった。

 なぜかあの2人は隣同士で仲良くしてる。


(人の気も知らないで)


 重度の貧血もあるが、完全な箱入り娘であるさくらは人づきあいがあまりよろしくない。

 もちろん受け答えはしっかりとするし、クラスで虐められているわけでもない。

 しかし、神海家はこの近辺では名前を知らない者がいないと言われている名家だ。

 そこの娘ともなればクラスで視線を向けられるのも一理ある。

 そしてその視線に恐怖を覚え、現在さくらは完全なる人見知りになっている。

 心を許しているのは未奈と泉、後は先輩数人くらいで、男子など話したことすらない。

 だというのにこれからやってくる転校生とやらは男子だ。

 折角楽しい新学期が憂鬱になる。


(せめて草食系男子でお願いします。コミュ障ならなお嬉しいです)


 結構な悪口を心の中で呟いているさくらだが、それだけ転校生と接触したくないという切なる願いなのだ。

 しかしそれもたった数分で打ち砕かれた。


「お前ら席に着け。転校生を紹介する」


 担任が促すと、1人の男子生徒が入ってきた。

 途端にクラス中の女子が色めき立つ。


「転校生の相澤だ。ご両親の都合で東京に引っ越してきたらしい。それじゃあ相澤。自己紹介してくれ」

「はじめまして。相澤昨夜です。まだ慣れない生活で色々不便をかけることもありますがよろしくお願いします」


 相澤(あいざわ)昨夜(さくや)と呼ばれたその少年が1つ礼をするとクラス中の女子がざわつき始めた。

 それもそのはず。昨夜は誰がどう見ても口を揃えてイケメンだと評する顔つきなのだ。

 突然変異なのか金髪で碧眼を持っている彼は、少しきつめの顔をしているが、そこもまた良いのだろう。

 少なくともさくら以外の女子には。


(どこが草食系なのよ……まんまオラオラ系のチャラ男じゃない)


 さくらがもっとも苦手としているいわゆるモテる男子が隣に来てしまった。

 おそらく彼はホームルームが終わったら始業式までの数分で質問攻めされるだろう。

 そして巻き添えを食らうのがさくらだ。


「それじゃあ相澤は……神海の隣だな。神海、始業式が終わったら学校を案内してあげなさい」


 そう。例えばこんな風に。

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