表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学一年生(全17話)
16/154

未来の望み

 さくらは「予想通り」という気持ちと「何故」という気持ちのせめぎあいで、開いた口が塞がらなかった。


「驚くのも無理はない。だが本当の話だ。現にこうしてお前の元に現れ喋っているだろう」

「で、でも。1000年も前の人が生きてるなんて、そんな非現実的なことが本当に起こるなんて」

「俺が現れる前にお前はもう経験しているじゃないか。蔵の中で見つけただろう。古びた琴を」

「さくらこの琴?」


 男──未来は再び頷いた。


「俺は生きているわけではない。今までは地獄にすら行けず、暗い地の中に閉じ込められていた。だがお前が琴を見つけた時から四肢が動くようになり、こうして目の前にいる」


 つまりさくらは何者かによって封印されていた未来の魂を琴を見つけることで一緒に解いたということか。

 だが文献通りに行けば未来はさくらこの死後、すぐに心臓を突き刺され死亡したはず。

 そうしたら犯人はただ1人。さくらこを誑かし、神海家を滅亡寸前にまで追いやったあの男の仕業だろう。


「えっと、それで私はあなたに何をすれば。言っておくけど、あの術者と戦うなんてことは考えないでね。神海家で産まれただけで、特別な力なんて持ってないただの中学生なのよ今までは」


 有理と呼ばれていたあの男とははっきり言って会いたくない。

 純粋なさくらこを誑かし、周りの従者も貴族も何もかもを消し去るよう指示したあの男と対峙するなどできるはずがない。

 未来はそんなさくらの意図を読んだかのように首を横に振った。


「先ほども言っただろう。俺は情けないがこれでも武士だ。女に戦などさせるか」

「じゃあ私は何を」

「さくらこ様の琴を俺に渡してくれ」


 あまりにも簡単すぎる要求にさくらは一瞬耳を疑った。


「それだけ?」

「ああ。あの琴がなければ俺はずっと封印されたままだ。あの琴を持って体道山(たいどうざん)まで登ってくれればいい」

「体道……ってあの?」


 さくらの家の近くには1つ、体動山と呼ばれる大きな山がある。

 山と言っても人気がないだけできちんと歩道は整備されているし、年に数回小学生が社会科見学に来るくらいには安全な山だ。


「どうしてあの山なの?」

「あの山には昔桐が1本だけ生えていた。それを切り取って作られたのがさくらこ様の琴だ。その生息地に戻せば俺は解放される」


 そんなうまい話があるものかと思ったが、未来が成仏できずにさくらの側をつきまとっているのも正直迷惑だ。


「わかった。部活がない明日でもいい? お母さまも明日は1日家にいないから動きやすいし」

「いいだろう」


 話が纏まるとさくらは急いで部室に戻った。

 トイレに行くとだけ伝えてあったのに随分長い時間席を外していたため未奈と泉に心配されてしまった。




 翌日。母は舞踊の稽古ということで京都まで朝早くでかけた。父はいつも通り仕事。姉は受験のため予備校に通っている。

 つまり今残っているのはさくらだけだ。


「よし。準備は大丈夫」

「そのようだな」


 未来は触れることはできるが実際は幽体である。

 隠れ家がなくとも気配を消して他の人間にバレない方法はいくらでもある。


「ところで体動山のどこに桐の木があったかは覚えてるの?」

「もちろんだ。1000年で土地も変化したようだが空気でわかる」


 木の生息が空気でわかるものか。

 さくらは疑問を抱いたが反論の余地もなく琴を運べと指示された。

 もちろんさくらは貧血持ち。入退院を繰り返しているか弱い女子だ。


「ま、待って。ちょっと休憩」

「またか。これで何度目だ」


 山に着く前にさくらの体力が尽きそうだった。

 もう何度目かわからない休憩に未来は痺れを切らしたようにさくらを睨む。


「う、うるさい。さくらこ様には優しくてどうして私にはこんな厳しいの」

「さくらこ様は姫だ。少しでも気を煩わせたら神海家の名に傷がつく」

「い、一応私もお嬢様って立場なんだけど」

「昨日自分でただの中学生と言っていただろう」


 自分が墓穴を掘って痛い目を見てるというのにそれでも未来が悪いとでも言う風にさくらは頬を膨らませて睨んだ。


「とにかく急げ。時間もない」


 文献の未来はもっと優しかった気がする。

 さくらこのためかと1000年前の自分の血縁者に恨みを抱いた。

 そこからさくらが怒りと恨みで山まで向かい、1時間で入り口まで着いた。


「ちゃ、ちゃんと着いたわよ」

「当たり前だ。桐はもう少し奥にある。早くしろ」


 炎天下で重い琴を持って息を上げているさくらに労いの言葉1つなく未来は先へ進んでいく。


「私、未来のこと嫌いかも」


 怒りの筋を立てながらさくらは階段を上っていった。

 それから30分。呼吸もままならないさくらに琴を布から外させ未来はそのまま地面に跪いた。


「み、未来。ここは?」

「ここが桐のあった地だ」


 ようやく重い琴から解放される。さくらは安堵でその場にしゃがみこんだ。

 だがいくら待っても何も変化が起きない。


「あれ?」


 未来も何も言わず地面を見ている。


(ま、まさか未来の的外れとか? それなら私のこの2時間あまりは一体……)


 絶望の表情を浮かべるさくらに目を寄越すと未来は大きく息を吐いた。


「時間だ」

「へ?」


 未来が呟いた瞬間、今まで生きていた体が徐々に透けていった。

感想・誤字報告お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ