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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学一年生(全17話)
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謎の違和感

 睡眠と食事をしっかり摂り、点滴も打ったさくらは話を聞いた翌日、安静条件のもと学校に通えるようになった。

 優に1週間ぶりの学校だが大半を寝て過ごしていたさくらにとっては連休明けとしてか思えない。


(暑いなー。部室が冷房効いてるといいなー)


 温暖差が激しいとまた体調を崩すさくらだがそれでも涼しい環境に避難したいというのは本心であるから仕方がない。


「……?」


 さくらは違和感に気づいて後ろを振り返る。

 だが人通りが元々少ないその歩道にはさくら以外誰も歩いていない。


「気のせい?」


 疑問を抱きながらもさくらはいつもの通学路を進んでいく。

 だが背後の気配はやまず、むしろ真夏だというのに寒気が襲ってくる。


(やっぱり気のせいじゃない? だって別に具合が悪いわけでもないしそれにこんな気持ち悪い空気初めてだし)


 意識しだしたら恐怖が体を駆け巡っていった。

 さくらは体力の限界寸前まで力を込めて走った。

 校舎の姿が見えた時安心して力を緩めた。


「あ、おはようさくら。体は……って悪化してんじゃん!」


 下駄箱で偶然遭遇したさくらに気づいた未奈は昨日よりも顔色を悪くさせている彼女を見て驚愕の声を上げた。


「ち、ちょっと不審……いや、悪寒がしたから」

「えー。やっぱまだ休んでた方が良かったんじゃない? 先輩には私達から言っておくし」

「ううん平気。本当に辛かったら自分で言うから」


 入学式からさくらと関わりのある未奈は彼女の体調管理によく巻き込まれている。

 だからこそ他の人より心配しているのだ。

 その中には面倒に関わりたくないという意味合いも含まれている気がする。


「とりあえず保健室寄ろう。冷えピタ貼って頭冷やそう」


 さくらの顔色は既に赤なのか青なのか判別できなくなっている。

 大丈夫だというさくらの手を無理矢理引いて保健室に行く。

 慣れた手つきで冷えピタシートを手に取ると遠慮しようとするさくらの額に勢いよく貼りつけた。

 ついでにリンゴのように真っ赤になっている頬には湿布を両方貼った。


「くさい……」

「我慢してよ。うわ、綺麗な顔が台無し。写メっていい?」

「……もう好きにして」


 色白美少女のさくらだが、リンゴほっぺに湿布2枚のシート1枚のせいで何かの怪人に見えてしまう。

 珍しがった未奈はバッグから携帯を出して目が死んださくらの顔を撮る。


「早く行こう。遅れたら怒られちゃうよ」

「そうだね。泉と待ち合わせた時間はとっくに過ぎてるけど」

「ちょっと未奈……」


 時間にルーズな友人に呆れながらもさくらはその奇怪な顔で階段を上がった。

 和楽部は中規模の部活である。メジャーな部活よりかは部員数は少ないが、それでも部室の半分は埋まる程にはいる。男女比としては少し女子が多いというくらいのほぼ半々だ。

 そして部活の開始時刻はすぐそこに迫っている。つまり大半は部室に集まっているわけだ。


「あ、妖精ちゃん体調はぁぁぁ!?」


 楽器の準備をしている彩果が2人に気づいて声をかけようとする。

 もちろん彩果もさくらが入院していたことを知っているため、心配するような声掛けをしてみたら変わった風貌を見せているのだ。声が裏返っても仕方がないだろう。


「え、何? 怪人シップマン?」

「とりあえず先輩のネーミングセンスが悪いことがこの会話で証明できました」


 部員の視線がいたいが未奈と逃げようとしている彩果をその場に残して泉を探した。

 すぐそこで他人のふりをしているが腹を括っているさくらは容赦がない。


「私のこの姿に関しては10割未奈が悪いので彼女に言及してください」

「元凶はさくらじゃんか!」


 自分は被害者だと言い張るさくらに未奈が頬を膨らませながら訴えた。


「ああはいはい。神海さんの顔はどうでもいいからさっさと準備しちゃいましょう」

「奈子さん!?」


 別に自分の顔を驕ったりはしないさくらだが「どうでもいい」は流石に傷つく。

 落ち込むさくらを引っ張って集合場所にまで全員向かう。




 文化祭が近づいているためそろそろ慌ただしくなった部活内でさくらが戻ってきたこともあり、いつものように教師の目を盗んで談笑を始めた。


「未奈ちゃん達が調べたものも見たけどやっぱりド素人の私達じゃ関係性はわからないってことだよね」

「本当に。調べものをするのは大好きなのに考察ができないことが悔しいです」


 本気で悔やんでいる未奈に軽く引きながらもさくらは改めて資料を見返して非現実的な歴史に意識を持っていく。


「これは専門家案件ね。でもそんな知り合いいるわけないからとにかく神海さんはあの琴に触れないことだけを徹底しなさい」

「はい」


 琴は未だ押し入れに入っている。

 蔵の中に入れ直そうにもまだ安静にしていろと言われたさくらは母に半ば監視の勢いで部屋に寝かされているため戻すことができない。

 誰かに頼もうにも最初から琴は戻した(てい)で家族に話しているため押し入れにあることが知られたら大激怒間違いなしだ。


(未奈に手伝ってもらうにしたって結局バレることに変わりはないしな。どうしよう)


 夕日がアスファルトを照らしていく中でさくらは帰路に着く。


「……あれ?」


 朝と同じように寒気がする。誰かに背後をつけられているような気がする。それでも後ろには誰もいない。


「気のせいじゃ、ない?」


 さくらの背筋を生暖かい空気が通った。

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