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私と彼女の物語  作者: 雪桃
高校二年生(全33話)
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取り憑かれ

 さくらは決意を固め、夢の中の少女と対峙する。

 いくら夢だとしても、この状態が続くのは危険ではないかと本能で察知したからだ。


 もうすぐ会えるよ


 いつものように少女はひび割れた仮面から口だけを露わにして、さくらに話しかける。

 さくらは一瞬怖気づきながらも少女に向かって口を開く。


「あなたは、椎名桜子なの」


 桜子と初めて会話をして、違和感はやはりあった。

 全体に向けられた声、自分とは違う人と会話をする時の声。そのどちらも少女と似ていると思ったくらいで、それ以上の考察はできなかった。

 しかし、授業で友達のように話す桜子を見て曖昧な考えは確信に近づく。

 あれは少女の声だ。間違いなく、桜子は少女と一致している。


「あなたが椎名桜子だと言うなら、何故私のもとに来たの。私とあなたは、何故こんな世界にいるの」


 さくらの問いかけに少女はその口を段々歪ませる。

 嘲笑っているようでもない。怒っているようでもない。

 今にも泣き出しそうな、そんな口だ。


「……駄目」

「え?」

「気づいちゃ駄目。私の正体に気づいたら……もうじき会えるわ、さくら」


 切羽詰まった声だった少女が急に余裕そうに微笑んだ。


「?」

「逃げてさくら……あなたは私のもの……私が引き止めてるうちに……この力は私のもの」


 まるでバグでも起こったように少女は途切れ途切れに話す。

 怯えている少女と、何かを脅かしている少女。

 さくらが顔を引き攣らせ、足を後ろに引こうとする。


「どこに行くのさくら」


 だがその直前、背後から何者かに行く手を遮られる。

 それは目の前にいたはずの少女。


「自分から罠にかかってくれるなんて思わなかったわ」

「や、やめて。あなたは、誰なの」

「あら、今自分で言ったじゃない。桜子だって」

「違う。違う。桜子はあなたじゃない」

「いつもは鈍感なのに、こういう時だけ鋭いのね。でも、それもおしまい」


 さくらの体が鉛のように重くなる。何とか逃げようとするさくらだが、少女が背後から動きを止めているため叶わない。

 不意に「パキ……」と音がして、さくらは振り返る。

 少女の仮面の亀裂が深くなっている。

 仮面は段々崩れていき、頬、額、鼻と、さくらの視界に映る。


「大丈夫よさくら。心配しなくても、あなたの大切な人もちゃんとこの世界に送り込んであげる。だから安心して永遠に眠りなさい」

「いや。いや! 助けて昨夜くん!」


 さくらが何もない空間に向かってその細い手を伸ばす。

 しかし少女は嘲笑うようにその腕を取り、さくらの体に自分の体を重ねていく。

 少女の体はまるで流動体のようにさくらの体に溶け込んでいく。


「さようならさくら。もう、あなたが人間界に還ることはない。永遠に」

「いやぁぁぁぁぁ!!!!」


 さくらの悲鳴と共に、白い世界はひび割れ、崩壊していった。




 目が覚めて、初めに目についたのは自室のクリーム色の天井。

 カーテンからは朝の陽の光が差し込んでいる。

 さくらはゆっくりと上半身を起こす。

 頭がぼーっとして、正常な判断がまだできない。


「さくらー。起きてるー?」


 扉の向こうから撫子の声が聞こえる。


「……」

「さくら? 開けるよ……って起きてるし。私より遅く起きるなんて珍しい。具合でも悪いの?」


 撫子の言葉に返答せず、さくらは扉をゆっくりと閉める。

 電気も点けていないさくらの部屋は窓から差し込む太陽以外光源がないため、薄暗い。


「さくら? 何してるのよ」

「……お姉さま」


 訝しむ撫子が近づいてくる。

 さくらは姉が伸ばしてきた手を取り、その胸に顔を埋める。


「お姉さま。お姉さまは私の味方よね。ずっと、一生」

「は、はあ? そりゃまあ……」

「そうよね。だったら、黙っててくれるわよね」


 さくらは呆気に取られている撫子の心臓部分に右手を当て、術式を唱える。

 術は陣のように撫子の胸の部分で円を描き、そのまま体内に入っていった。


「っ!?」


 撫子は心臓に異物を抱えたように胸を押さえ、その場に座り込み苦しそうに咳き込む。


「さく、ら……あんた、何して」


 苦しむ撫子に歪んだ笑みを見せるさくら。

 その顔を見て、撫子はさくらを恨めしそうに睨む。


「あんた、誰。さくらを、どうしたの」


 撫子の問いにもさくらは返さない。

 ただ嘲笑うように撫子を見下ろした後、その耳元に口を近づける。


「お姉さまは優しいから、私のこと黙っててくれるよね。でないと」


 さくらは撫子が押さえている心臓の部分を指す。


「お姉さま、死んじゃうからね」


 さくらは楽しそうに笑い、部屋の扉を開ける。


「行こうお姉さま。お母さま達が待ってるよ」


 何事もなかったかのように部屋を出ていくさくら。

 彼女の後ろ姿を見送りながら、撫子は悔しそうに唇を噛む。


「私の妹を奪ったのよ。タダで済むと思わないことね。化け物」


 撫子はさくらを睨み、吐き捨てた。

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