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私と彼女の物語  作者: 雪桃
小話集
113/154

未奈と出会った日

 母・詩織はずっと心配だった。元々心配性なため毎日何かしら心配はしているが今日はそれ以上に心配していた。


「何をそんなに洗面所の前で泣きそうになってるんだ詩織」

「何って今日がなんの日か忘れたんですか大成さん」

「なんの日だっけ」

「さくらの小学校の入学式です!!」


 夫である大成の能天気さに怒りを覚えながらも詩織はさくらのピンク色のランドセルを持っては首を振って椅子に置くという不思議な行動をしている。


「入学式なのはわかったよ。で、何してるんだい」

「あの子がまた独りぼっちにならないかが心配なんです」


 今日はさくらの小学校の入学式だ。だが詩織が心配している要因の一つが極度の人見知りである。実際に元居た幼稚園では三年間一人も友達ができずに終わった。


「幼稚園はまだよかったです。でもこれからはみんなどんどん成長していきます。独りぼっち、お金持ちのお嬢様、孤立、いじめ、拉致、誘拐、人身売買……」

「待て待て。途中から小学校の話じゃなくなってるぞ。それに小学校なら撫子がいるじゃないか」

「さくらが小四の時には卒業しますよ」

「当たり前だ。三年もあれば友達もできるだろう」

「そうやって楽観視してるとさくらが痛い目を見ます。小学生は多感な時期なのですから」


 詩織は頬を膨らませながら大成を睨みつけた。大成は過保護すぎる詩織に対して反論はしなかったものの仕方がなさそうに肩を竦めた。


「心配しなくても、さくらと友達になってくれる子はいると思うよ」




 さくらは胸がつっかえるような吐き気をぐっと堪えながら案内された教室の席に着いて縮こまっていた。隣や前後にいる同級生の子ども達はもう友達を作って騒いでいる。誰とも喋らず机で縮こまっているのはさくらだけだ。


(おかあさま。こわいよ。おねえさまがいるなんてうそじゃないの)


 人見知りのさくらは幼稚園の時あまりの恐怖心から一人も友達ができずに独りぼっちで三年間過ごした。そして今度は知らない子と六年間同じ学校である。さくらにとっては地獄より地獄だ。


(はやくかえりたいよ。いつになったおわるの?)


 そんなことを思っているうちに担任と思わしき女の先生が来た。さくらは自分の先生が同じ女性であることに安心した。男性は苦手である。父親と使用人の男性以外は話したことすらない。


(やった。かえれる)

「はい。みなさんおはようございます。これから入学式が始まるので隣の子と手を繋いで廊下に並びましょう」


 担任の言葉でさくらは絶望の表情を浮かべた。帰れないどころか全く知らない子と手を繋がなくてはならないらしい。もうさくらは朝ご飯が口から出そうになるのを両手で何とか抑える。


「それじゃあ皆さん行きましょうね」


 さくらはやけになって無表情で指示されたところに並び隣の子と手を繋いだ。隣の子が何か言ってきたような気がするがさくらは相槌を打つだけでまともに会話をしない。無心で下を向きながら歩く。そんな歩き方をしたせいでつまずいて転んでしまった。


「いたた……あ」


 転んだせいで注目を浴びてしまった。多数の目がさくらに集まる。さくらは視線の恐怖で足が竦んでしまった。


「ご、ごめんなさ……」


 泣き叫びそうになるさくらの目の前に小さな手が差し出される。


「だいじょうぶ?」

「え?」


 女の子は尻餅をついているさくらの手を引いてお尻を叩いて汚れを落としてやる。そしてすぐにさくらの手を引っ張って元の列に戻った。


「あ、ありがとう」

「どういたしまして!」


 手を引いてくれる女の子にお礼を言うと彼女は白い歯を見せてさくらに笑い返した。体育館に着くと大勢の大人達がこちらを見ている。怯えて立ち止まりそうになるさくらの手をもう一度強く引いて女の子は指を差す。


「あ、おかあさんだ!」

「え、おかあさま?」


 そこにいたのは女の子の母親でありさくらの母ではなかった。さくらが頑張って親を探そうとすると着物を着た心配そうな詩織がいた。


「あ、いた」


 安心したようにさくらも両親に小さく手を振る。両親が手を振り返してくれたのを見てから女の子と共に自分の席に着いた。

 その後よくわからないがスーツを着た大人が何人も「入学おめでとう」と言ってくれたことだけは覚えていた。


『それではこれより生徒の名前をお呼びします。呼ばれた子は返事をして立ってください』

「!?」


 こんな大勢いる前で声を出さなければいけないのか。さくらは先程の安心感などどこへやら。胃に戻っていったものがまたせり上がってきた。人数が少ないためすぐ呼ばれてしまう。


『十一番、栗山未奈さん』

「はい!」


 さくらの隣にいた──先ほど手を引いてくれていた女の子が呼ばれた。


(みなちゃんっていうんだ)


 さくらが感心したように未奈の姿を眺めていると担任が自分の名前を呼んだ。


『十二番、神海さくらさん』

「は、はい!」


 ハッとしたさくらはつっかえながらも体育館に響くように大きな声で返事をした。自分で驚くさくらの隣で未奈はまた白い歯を見せながら笑った。今度はさくらも少し笑う。

 その後、退場になり教室に戻るまでもさくらと未奈は手を繋いだまま楽しそうにおしゃべりをした。


「それじゃあ明日から元気に皆さんで登校しましょう。さようなら」

「「「さようならー!!」」」


 帰りの会も終わり、後は保護者と帰るだけになった。だがさくらにはやるべきことがある。未奈に声をかけようとするが彼女はさくらの方を見ていない。


「おかあさん! みな、ちゃんとおへんじできてた?」


 未奈は自分の両親に意気揚々と入学式のことを褒めてもらっていた。さくらが入り込める余地はなさそうだ。その間に詩織と大成がさくらの元まで来てしまった。


「さあさくら、帰りましょう。今日はお祝いなのでご馳走ですよ」

「……うん」

「さくら?」


 落ち込むさくらに詩織が首を傾げていると未奈がこちらを向いて走ってきた。驚くさくらの手を握って白い歯を見せながら笑う。


「またあしたねさくらちゃん!」

「……う、うん。またあしたねみなちゃん!」


 未奈に見えなくなるまで手を振ってもらえてさくらは嬉しそうに笑いながら詩織と大成と帰宅したのだった。

【蛇足】

泉は実は中学生からの友人です。さくらは小学校で未奈以外に友達ができませんでした。

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