妹を思う気持ちは変わらない
「そこからは、あんた達も知っての通り、俺は神海さんに接触して油断したところであいつらに引き渡した」
「なるほどね。大体予想はできてたけど。で? 君は何がしたいの」
隆二の言葉に碧はその体勢のまま頭を下げる。
「お願いします。後で必ず罪は償います。妹の所に行かせてください。何があっても、妹だけは守りたいんです」
「……その言葉、私がそっくり返してあげましょうか」
今まで黙って聞いてた撫子が侮蔑するように碧を見下ろす。今度は隆二も止めない。
「あんたに大切な妹がいるように、私にとってもさくらは大切な妹なの。わかる? 駆けつけた時、妹が殴られてボロボロにされているところを見た時の感情が」
碧ははっと撫子の顔を見上げる。その顔には後悔と謝罪の念が込められている。
「苦しいでしょう。相手が心底憎いでしょう。そういうことよ、あんたがやったのは。いくら妹が大事だからってやっていいことと悪いことがある」
撫子の声からは碧に対する憎悪が込められている。先ほどまでの楽しそうに会話をしていた撫子とは似ても似つかない。刀の鞘を握っている左手が震える。
「今だって、あんたをこの刀で切り殺したくてたまらない。妹の安否も知らずに後悔させたまま殺したい」
「……はい」
何の言葉も思いつかず、返事をするしかない碧に撫子は歯を噛みしめる。その右手は刀にかかり、今にも抜いて碧の首を刎ねそうだ。
「俺には、謝ることしかできません。どうか、気の済むまで傷つけていただいて構いません」
「……ああそう。じゃあ遠慮なくやらせてもらうわ」
撫子は刀の柄を握り、鞘から刃を抜き出すと、碧めがけて勢いよく振り下ろした。
碧は激痛に備えて目を強く瞑る。しかし、いつまで待っても痛みはやってこない。むしろ縛られた手首が楽になった気がする。
「撫子。いいのか?」
「ふん」
碧が恐る恐る目を開けると、撫子が機嫌の悪そうな顔で碧を睨んでいる。後ろを見れば、縄で縛られていた手首が自由になっている。
「え?」
「さくらと約束したからね。人は殺さないって」
「約束しなくても殺すなよ」
撫子の言葉に隆二は即座に否定する。
「あの、なんで」
「勘違いしないでね、許したわけではないから。ただ、妹を守りたいって気持ちはわかるから免除しただけ」
撫子がぶっきらぼうに言い放つ言葉に碧はどんな表情を見せていいのかわからない。ただ、命拾いをしたことだけは確かだ。
「で? どうするの? 妹のとこに行けば?」
「え、あ、でも」
早く行かなければ妹が危ない。だがここで妹の元に行ってしまえばさくらに謝罪をしないまま流れてしまう。
碧が迷っていると隆二が自身のスマホで電話をしにいった。
「ところであんたの妹、ここの近くに住んでるのよね」
「え? は、はい」
「名前は?」
撫子の質問に碧は何故そんなことを聞くのかと不思議に思いながら素直に答える。
「弥生です。名字は離婚して変わったので、伊部になっています」
「ふーん。だって、隆二」
「調べた通りで良かったな。あ、今電話来た。妹の見張りをしてた奴らも全員打ちのめしたってよ」
「流石。神山家の人間は腕っぷしが強いわね」
「お前が言うと嫌味にしか聞こえねえよ」
スマホを手に戻ってきた隆二と撫子の会話に碧はただ驚くだけしかできない。それに気づいた隆二が碧に笑いかける。
「あいつらはさくらを傷つけた張本人だからな。完全に息の根を止めてやらないとさくらがまた狙われるだろ? だから片っ端から調べ上げて全員今頃警察のお世話になってるだろ。もちろんお前の妹を狙ってた奴らも全員な」
「え、じゃあ……」
「俺達も鬼じゃねえから。さくらだけが助ければ後はどうでもいいわけじゃねえよ。それに、調べたらその妹さんはさくらと仲のいい後輩らしいし」
隆二の言葉に信じられないような、驚愕の表情を見せている碧に撫子は顔を近づけてその吊り目がちな瞳で見下ろす。
「約束しなさい。誠心誠意さくらに謝罪して償うこと。いくら妹のためだからってこれ以上犯罪に手を貸さないこと。それが守れるならここから出ていいわ」
撫子の言葉に、碧の両の目から涙が零れ落ちる。そのまま椅子から落ちるように二人に向かって土下座をする。
「すみません、神海さんを傷つけてすみません。妹を……弥生を助けてくれて、ありがとうございます!」
「私達はさくらのためにやったんであってあんたに礼を言われる筋合いはないわ。さっさと妹のとこに行ってやれば?」
撫子の言葉に碧は急いで道場を抜け出し、妹の待つ場所へ走った。
その後ろ姿を見ながら隆二は笑う。
「そんなに妹って可愛いものなのか?」
「宇宙一可愛いわ」
「あっそ」
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