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私と彼女の物語  作者: 雪桃
高校一年生(全27話)
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激突

「さくら!」


 ナイフがさくらの足に突き刺さる寸前で、外から彼女を呼ぶ声が聞こえた。碧はナイフを止めて声のした方を向く。

 さくらも驚きながらそちらへ顔を向けると、扉の前には息を切らした昨夜が立っていた。


「……さ、くやくん」


 さくらの心に安堵が生まれ、恐怖とは違う涙を流す。しかしすぐに現実へ引き戻される。


「君は誰? ここに呼んだ覚えはないけど」


 男が嫌悪感を露わにしながら昨夜に問う。

 昨夜は男の質問には答えず、さくらの方を見る。殴られたであろう青黒く腫れた頬と手の甲に残るナイフの傷、そして何より無残に切り捨てられた黒髪。昨夜は青筋を立てながら男達を睨む。


「さくらを傷つけたのはお前らか」


 昨夜の怒りが籠った言葉にさくらと碧はそれぞれ体を強ばらせる。一方で、男は仕方なさそうに肩を竦める。


「嫌だな、若いのはすぐ血が上る。先に質問してるのは僕だよ。まあこの様子を見ればすぐ答えがわかるけど」


 男は碧からナイフを取り上げると刃先を昨夜に向ける。昨夜も同じくして竹刀を構える。


「何? そんな棒きれで僕達の相手をしようっての? 舐められたものだね」


 男が他の四人に合図するように片手を挙げる。

 さくらは顔色を悪くする。昨夜一人に対して相手は大の男五人。それも凶器を所持している。さくらでもわかる。確実に昨夜に不利な戦いだ。


(どうしよう。このままじゃ昨夜くんが危ない。でも私に何が)


 さくらが痛みに耐えながら立ち上がろうとするが、その前に碧が立ち塞がる。


「駄目だ神海さん。あっちへは行かせられない」

「そんな……」


 さくら達の様子を見て男はニヤリと昨夜を見下ろす。


「あの子を返してほしいなら僕達を全員倒すことから始めないとね。頑張れ」


 男が片手を降ろすと、周りの男が一斉に昨夜に襲いかかる。昨夜は竹刀を男に向けて受け身をとる。そのまま目の前にいる男の腹を蹴りあげ、後ろへと倒す。

 順番に他の三人にも竹刀を使って打撃を加えていく。


「へえ、威勢だけがいいのかと思ってたけどちゃんと鍛えてるんだね。すごいすごい」


 男が呑気に昨夜の様子を観察しては感想を述べる。その間、さくらは立ち塞がる碧を説得する。


「お願い碧くん、そこを通して。私はあなた達の言いなりになんかならないし、相澤くんと帰るの」

「それはできない神海さん。俺だってこんなことしたくない。でも、こうでもしないとあいつが……」


 碧はさくらの行く手を阻みながらずっと辛そうに顔を顰めている。さくらは意を決して碧に口を開く。


「ねえ、碧くん。あなた本当はこの人たちに脅されてるんじゃないの? だって、私を連れ去った時だって、今だってずっと、苦しそうにしてる」


 さくらの言葉に怯えたように碧は一歩後ずさる。

 だがそれでもさくらを昨夜の方へ行かせてはくれない。


「俺は、あいつらに逆らえない。俺が傷つくならまだいい。でも、裏切ったらあいつが傷つく。あいつはずっと、幸せなままで生きなきゃいけないんだ」

「碧くん?」


 苦しそうに言葉を吐き出す碧にさくらは眉を寄せながら手を伸ばす。

 やはり彼は何かおかしい。碧のいう「あいつ」が誰かはわからないが、言葉の節々から人質であることは推測できる。それなら今の碧は無理矢理犯罪に協力させられているということになる。


「碧くん。やっぱりあなた……」


 さくらが声をかけようとした瞬間、扉の方から鈍く大きな音が鳴り響いた。

 さくらが慌ててそちらへ視線を向けると、屈強な男に壁に叩きつけられている昨夜の姿があった。


「相澤くん!」

「少し時間はかかったけどまあ予想通りだよね。ただの高校生が成人の男に勝てるわけがないのに。それも竹刀だけで」


 壁伝いに座り込む昨夜の首を掴み、男は嘲笑いながら吐き捨てた。




 有季は切れた唇を舐めながら見張りの男と対峙する。有季は持てる限りの術を使って相手を翻弄しようとするが、それでも時間稼ぎ程度の目くらまししかできない。

 遅れを取ればそれこそガタイのいい男二人に勝てるわけがなく、隙を突かれては体に拳を入れられる。


「おーおーどうしたガキ。さっきの意気込みはどうしたんだ?」

「全く。年下相手に容赦ないよね。もっと優しくしてくれてもいいんじゃない?」

「生憎、勝手に潜り込んで喧嘩を売ってきた奴に優しくできるほど俺たちゃ優しくねぇんだよ。特にお前の場合、仕事の邪魔をする敵だ。殺されても文句は言えねぇ」


 有季の挑発も男は負け犬の遠吠えとしか思っていないのだろう。事実、傍から見ても有季の方が男たちより劣っているのは見てわかる。


(どうする。呪符も底を尽きた。相澤もさくらちゃんもまだ音沙汰がないし、ここで僕が倒れればこいつらも応援に入る。それだけは避けなければならない)


 有季が思案している間にも男は指を鳴らしながら近づいてくる。有季もそこまでひ弱なわけではないが、男よりは劣っている。しかしここで逃げれば危害は中にいる二人に及ぶ。

 有季は捨て身で時間を稼ぐしか選択肢がない。相手は本気で有季を殺す気だ。最悪の場合も考えられる。


「それでも二人の為だ」


 有季は生身で男の拳を受け止めようとする。だがその前に冷たい何かが頬を掠め、男を突き刺す。


「!?」

「え?」


 暗い中、目を凝らしてみると、それは刃物のようだった。いや、刃物よりも鋭い、日本刀だった。

 刀の切っ先は男の拳に突き刺さり、血が流れる。


「い……っ! なんだてめぇ!」


 有季が後ろを振り返るとそこには長い黒髪を無造作に一つに結んだ女が刀を握ったまま男を睨んでいた。有季が何かを言う前に女は突き刺した相手の首を叩き、気絶させる。

 奥にいた男にはまた違う青年が手刀で気絶させていた。


「あ、あの、あなた方は」


 有季が呆然としながら二人に問いかける。青年が気絶している男を縛り上げている間に、女は有季と目線を合わせると、口を開いた。


「さくらのとこ、案内して」

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