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私と彼女の物語  作者: 雪桃
高校一年生(全27話)
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帰ってこない

 昨夜は夜の街を制服のまま走っていた。その額には汗が浮き上がり、長い時間走り回ったように息が上がっている。


「なんで、出ないんだ。さくら」


 昨夜の手には自分のスマホが握られている。ディスプレイには神海さくらの名前と通話ボタンが表示されている。既に数えきれないほど着信ボタンを押した昨夜のスマホにはさくらの履歴がいくつも並んでいる。


「相澤。さくらちゃんは?」

「出ない。探してもどこにも見当たらない」


 同じく息を切らして走ってきた有季と神海家の玄関前で落ち合う。二人が話している間に玄関の扉が開いた。


「大成さん、さくらちゃんは?」


 さくらの父、大成はいつもの優しそうな微笑みをその顔から失くし、険しい表情で首を横に振る。


「まだ帰ってきてない。スマホのGPSも全く機能していないところを見ると、誘拐されたことは間違いないだろう」

「……くそっ」


 大成の言葉に昨夜は悪態を吐く。現在の時刻は二十一時を過ぎたところだ。

 さくらがいなくなったことに気づいたのは部活や委員会が終わり、全員で下校するために待ち合わせていた十七時過ぎだった。いつまで待っても来ないさくらを心配し、分かれて荷物などを確認したら教室に荷物はあるのに下駄箱の革靴はなくなっていた。もしかしたら無駄に仕事を押しつけられているかもしれないと心配した未奈と有季が会議室に行くと、教師が首を傾げながら二人に言った。


「神海さんなら具合が悪くなったから柴崎君が連れて帰りましたよ。十六時頃に」


 教師の言葉に嫌な予感を覚えた二人は即座にさくらの母・詩織に連絡を入れた。しかしその返答は、「まだ帰ってきてない」だった。

 さくらがこんな嘘を吐くわけがない。となれば考えられることは一つ、柴崎碧に拉致されたということだろう。

 そこからはさくらの捜索が始まった。さくらが拉致されたことを知った昨夜達五人は手分けして街中を走り回りさくらがいそうな場所を隈なく探し回った。さくらが拉致されたことは父・大成にも連絡がいき、急いで帰宅しさくらの位置情報を調べてもらったが、スマホの電源を落とされているのか、壊されているのか、全く起動しなかった。

 そして当所(あてど)もなく街中を捜索すること四時間が経った。

 大成が一つ重い溜息を吐き、二人に向き直る。


「未奈ちゃん達三人は既に帰らせてある。君達ももう帰りなさい。夜も遅い」

「でもさくらが!」

「もちろん君達の言いたいこともわかる。だがただ走り回っても体力を消耗するだけだし、何よりもし居場所がわかっても恐らくさくらの周りには人がいる。返り討ちに遭って負の連鎖ができるだけだ」


 大成の言葉に昨夜は二の句が告げない。そのまま沈黙が流れるかと思いきや、すぐに有季が昨夜の腕を引いた。


「加治!?」

「大成さんの言う通りだ。帰ろう、相澤」

「……っ」


 有季までも断念してしまえば昨夜に勝ち目はない。苦虫を噛み潰したような表情で昨夜は抵抗する力を弱めた。


「夜分に失礼しました」

「さくらのことは僕に任せて。君達も夜道には気をつけるんだよ」


 二人の後ろ姿を見送った後、大成は自身の携帯を見て眉根を寄せる。そこへ、昨夜達とは反対側の道から二つの人影が見えた。


「何してるの?」

「玄関に立ってるなんて珍しい」

「ん? ああ、君達か。おかえり」

「ただいま。じゃなくて何してるの? そんな険しい顔するなんて珍しい」

「いや、えっとね。うーんと」


 大成が珍しく言葉に窮していると、目の前の制服を着た男女二人は大成を鋭い目つきで睨む。


「自分が嘘を吐くのに慣れてないの忘れたの。黙ってないでさっさと吐きなさいよ」

「……さくらが拉致された」

「「は?」」

「さくらが拉致された。絶対そっちに行くだろうから昨夜君達には秘密にしておいたけど場所もわかっている。ただ、あちらも相当な手練れだ。下手に警察を動かせばさくらに危害が及ぶ。どうにか穏便に……」

「なんで穏便に済ます必要があるのよ。私が行けばいいじゃない」


 女はその目つきを変えず、薄く笑みを作った。


「さくらを拉致した? いい度胸してるじゃないそいつら。私も久しぶりに暴れたいし丁度いいわ」

「だな。どうせならどっちが多くボコボコにできるか勝負するか」

「あのね、僕が黙ってた理由がわかるかい? 君達だときっと相手の命の危険があるから止めたんだよ」

「関係ないわ。さくらが受けた傷の何倍、何十倍と返り討ちにしてやるから。ほら、さっさと場所言って」


 大成は困り眉を作りながら二人に地図を見せた。


「ここにあるコンクリート造りの建物だ。今はほとんど廃墟になっているが、噂では違法で人身売買を行っている組織らしい。数は見張りも含めて十人は超えている」

「ふーん。まあ、さくら以外は全部倒せばいいんでしょ。簡単じゃない。じゃあ行ってくるから。ここで待っててね、父さん」

「必ず戦利品も持ってくるからね叔父さん」


 二人はそう言うと、地図通りの道を走っていく。女の手には袋に入れられた刀が握られている。

 大成は女の様子に苦笑する。


「なんでこんなに性格が異なるんだろう。皆普通に育てたはずなんだけどなぁ」

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