表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

悲しみと企み

気が進みませんが今回は勇者の話です。

何故気が進まないかと言うと主人公ではないからです。


修正終了済み


クラレント王国の地下には一部の者しか知らない特別な部屋がある。

その特別な部屋は王国の関係者から()()()()()()()()などとサッパリとした呼び名で呼ばれていた。

そしてこの部屋に六人の人影があった。

一人は黄金の冠を頭に被り、真っ白な髭を生やした現クラレント王国国王であるハルバ・エマ・クラレントだ。そしてその傍らにいるのは国王の妻であるリーリア・エマ・クラレントだ。

その他に召喚士三人に聖教会の司祭の計六人がこの部屋に集まっていた。

三人の召喚士の目の前には幾何学模様の魔方陣が書かれている。

召喚士三人が魔方陣に手を付き、魔力を一斉に流し込み始めた。魔力が隅々まで通った魔方陣は薄らとした青色に光出した。


「国王様、勇者召喚の準備が整いました」


一人の召喚士がそう国王に言った。


「よろしい、勇者召喚の義を始めるのだ!」


召喚士達は国王の合図を聞き、先程までとは比べ物にならないほどの魔力を魔方陣に注いだ。

魔方陣から出る光は薄らとした青色から濃い青色に変化し、部屋一帯を光で満たした。


「いよいよだ。これが成功すれば我の願いは叶ったも同然のことよ」


国王はニヤリと黒い笑みを浮かべ静かにその時を待った。

そして次の瞬間魔方陣から発せられる光が青から赤に変わり、より一層強い光が部屋中を満たした。

あまりの眩しさに今ここにいる者達は全員目を瞑った。

それ程までに神々しい光だった。





「なあ、陸人……そんなに落ち込むなって」


「落ち込むなって! 俺の好きな人が目の前で死んだんだぞ! なのに何でお前はそんな平然としていられるんだよ! 柚葉はお前の幼馴染でもあるんだろ! なのに……なのに何で……!」


黒い葬儀服を着た二人は陸人と新一だ。

二人は今しがた交通事故で亡くなってしまった柚葉という少女の葬式が終わり、心を落ち着かせるため柚葉のお気に入りだった山の上の丘に行くところだった。


陸人は数年前から柚葉に思いを寄せていた。

本来なら告白する予定ではいたが、それは叶うことはなかった。

何故柚葉という少女に告白できなかったのか……それは告白しようとした日に柚葉が交通事故で亡くなってしまったからだ。



ーー数日前



今日は柚葉に告白するぞ!と意気込んでいた陸人はその告白相手に運がいいのか悪いのか分からないが朝ばったりとあってしまった。

同じ高校で同じ地区ならば朝登校時間が被ってしまっても何らおかしくはない。

だが、告白する相手と登校するなんて思ってもみなかった陸人はどこか緊張した表情だったため、柚葉に「どうしたの? 気分でも悪いの?」と言われてしまい、顔が一瞬にして真っ赤になった。

おかげで自然と歩き方もぎこちなくなってしまう始末だ。


「ねえ陸人……本当に大丈夫? 今日何か変だよ?」


妙に観察力の高い柚葉は陸人のぎこちない歩き方に直ぐに気づき、陸人に問いかけた。


「えっと……なんでも、ないよ……?」


「ふふ、何で疑問形なんだろうね? 本当に大丈夫なのかなぁ~?」


「だ、大丈夫だって」


やっぱり好きな人が隣にいるとどうも緊張してしまう。

でも折角こうして一緒に登校しているのだから今ここで告白してもいい。場所の雰囲気はあまり宜しくはないが好きだと言う感情さえ伝われば柚葉も分かってくれるだろう。


陸人と柚葉は細い住宅街の道を抜け、人通りが多く、車の交通量の多いい道路が横にある道に差し掛かった。

今は朝方なのでスーツを着た人が大勢駅の方面に向かって歩いていた。


流石にここでは告白は出来ないなと思った陸人はやっぱり学校で告白した方が良いなと思い無言で柚葉の隣を歩いた。

会話のないまま二人は歩いていると、突如後ろから叫び声のようなものが聞こえた。

振り返ってみるとスリップしたトラックが俺たちの方に勢いよく横倒しになって向かってきていた。

あまりの出来事だったため俺は足が動かなかった。


好きな人に告白も出来ずに死ぬなんて最悪な人生だ。こうなると知っていればもっと早く柚葉に告白をしていた。なのに何で俺はいつもいつも行動が少し遅いのだろう?

もっと早く行動していれば悔いは残らなかったのに……。


これで俺の人生は終わりなのかと思った瞬間横から誰かに突き飛ばされた。


「……え?」


「生きて……」


陸人を突き飛ばしたのは柚葉だった。

柚葉に突き飛ばされた陸人は勢いよく後ろに倒れた。

だが陸人を突き飛ばした張本人である柚葉のすぐ真横には横転したトラックの姿があった。

このままでは柚葉がトラックに轢かれてしまう!と思い急いで手を伸ばしたが、柚葉はもう間に合わないと思ったのか陸人に向かってにっこりと微笑んだ。

そしてトラックは勢いよく柚葉を巻き込んで、近くにあったお店へ突っ込んだ。

柚葉が轢かれた所を見た通行人は「きゅ、救急車!」「おい! 人が轢かれたぞ!」と騒いでいる。

その間陸人は腰を抜かし、涙を流していた。


大切な親友を失った悲しみ、助けられなかったことへの悲しみ、告白出来なかったことへの悲しみ、そんな思いが重なり目からは涙が止まらなかった。

今陸人の頭の中には後悔と言う言葉が土砂降りの雨のように降っていた。


その後柚葉は救急車に乗せられ病院に行ったみたいだが、医者曰く即死だったそうだ。

苦しまずにあの世に行けた柚葉は幸運なのかもしれない。


そして、今に至るわけだ。

先程まで行われていた柚葉の葬式には大勢の黒服を着た家族や学校の友達、親戚などが来ていた。

皆目から涙を流してはハンカチなどで拭くを繰り返していた。柚葉の小学校からの友達であった女の子は大粒の涙を目から流していた。

だが、その中で俺は涙を流せなかった。

好きな人が亡くなったと言うのに、ものすごく悲しいのに、何故か涙が流れなかった。


「大丈夫か? 陸人」


そんな時に声をかけてくれたのが親友の新一だった。新一は気分転換に三人でよく行ったあの丘に行こうと言い出した。

新一の言う丘とはこの街で一番でかい山の頂上にある丘のことだ。ここはとても景色が良く、柚葉のお気に入りの場所でもあった。

山を登り、街を見下ろせる丘に行くと、ポロポロと涙が出てきた。

それを見た新一は「よしよし」と陸人の背中を優しくさすった。


だがしばらくして陸人と新一の足元に幾何学模様の何かが現れた。一体何なんだ?と陸人は思い新一の方を見ると、いきなり新一は倒れた。新一の肩をユサユサと揺すっても全くと言っていいほど起きる気配がなかった。


もしかしてこの幾何学模様の何かが関係しているのかと思った陸人は新一を担ごうとした瞬間意識が遠ざかり、そのまま意識を手放した。

そして、幾何学模様の何かは強い光を出し、後に残った物は陸人と新一のカバンだけだった。




ー神界《神域の間》




「また馬鹿な人間族の王が勇者召喚の義を行ったそうですね?」


「ええ、ですが毎度毎度面白いものが見れるので私はそれで良いと思いますよ。哀れで滑稽な人間族を見るのは飽きないというものです。それに比べて今の魔族は面白味がない」


「その原因は勇者の存在……でしょ?」


「まあそれもあるけど今の魔族はそれを差し引いても面白くない。魔王が優しすぎるせいもあるし、あの()が絶滅してしまったことも問題ですね」


「だから私自らの力で復活させてあげたでしょ」


「それに対しては感謝しています。さて……そろそろ仕事の時間ですね」


「……今代は大丈夫そう?」


「それは成長してからのお楽しみです」


そう言って白のローブを着た者はその場から消えていった。


ここは神の住まう世界。誰にも侵されることの無い神聖な場所。

神は人々を管理し、人々の最期を見守る存在。

時に手助けをし、より良い未来を人々に提供する存在。

神は万物は平等であり、不平等を許さないと考える者……の筈だが、ある二柱の神はそれを良いと思わなかった。

この二柱の神は遥か昔地上の世界を滅ぼそうと神界より降りてきたが、それを()()()()()()()()()()()()()()()()、そして最後は()()()()()()()()()()、強制的に神界へ送還された。

そのせいもあってここ数千年間は全く身動きが取れなかったが、三百年前にようやく解放されたため、こうして神として仕事をしている。

ただ、こうして神の仕事をしているが地上の世界を滅ぼそうとする考えは無くなった訳ではない。

数千年前のこともあってか二柱の神は地上世界を滅ぼすことをある種族に任せた。

だが任せたと言っても一方的なものである。

その種族にはどの種族よりも優遇な扱いをし、全種族を滅ぼせる力を持つ者を召喚するとこの出来る魔方陣を与えた。

それが勇者召喚の魔方陣だ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ