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遠隔よりも近接が1番

修正終了済み。

「ぐっ!」


「ギィイイイイィィ!!」


ヘル・バーバードの『風魔法』が私の体中を切り裂いた。『風魔法』で作られた風の刃は無色透明なため私には一切見えない。

では何故致命傷を避けられているのかというと、それはズバリ景色の歪みだ。『風魔法』は魔力で風を起こし、それを1点に固めて放つ魔法だ。圧縮された風は高密度なため周りの空気に溶け込めない。だから歪みが起き、私はギリギリのところで避けることが出来ている。

これはある意味『毒魔法』よりも厄介な魔法だ。


「ギィイイィィ!!」


結構善戦しているとは思うが、このままではジリ貧だ。

血を流し過ぎて今にも倒れそうだが、ここで倒れたら一方的に『風魔法』で刻まれるだけだ。

ただでさえギリギリで避けているというのにこれ以上体中を切らては戦闘続行不可能になるかも知れない。それは絶対に避けなればいけないことの一つだ。


「『氷魔法』"氷槍"」


「ギイィ!!!」


私はヘル・バーバードの足元から数本の槍を作り出した。

最初は長剣でヘル・バーバードを攻撃していたが、『氷魔法』のスキルレベルが低いのか、それとも私の使い方がいけないのか分からないがどうやっても刀身がバキバキと折れてしまった。

だから切るのではなく突き刺すことに特化した槍で攻撃することにした。槍ならばそれなりの耐久力があるので折れることなくヘル・バーバードの体を突き刺すことが出来る。

これで一応五分五分とまではいかないがある程度は傷を与えている。でもあちらもギリギリのところで致命傷を避けているので結果的に私が押されていると言っても良いだろう。

このままいけばステータス値的に私が確実に負ける。

何せ私とヘル・バーバードのレベルは2倍差もあるのだから。

そして、この差をどう縮めるかを早く考えなければ話にならない。


「ギイィ!!」


まずはこの『風魔法』による攻撃をどうにかしなければヘル・バーバードには近づけない。

本当ならここは強行突破した方が早いのだろうけど、ヘル・バーバードに近づけば近づくほど『風魔法』を躱す手段が無くなってくる。

何故なら私の反応速度よりも『風魔法』の方が一歩早いからだ。

ヘル・バーバードが『風魔法』を私に向かって撃つ、そして私が『風魔法』の歪みを瞬時に見つけて避ける。

この一連の流れはヘル・バーバードと私の距離が一定以上離れていて初めて成立するものだ。逆に距離が近すぎると私は『風魔法』の歪みを見つけられず、気づいた時には切り刻まれている。

そこで私はあることを思いついた。

それは……避けるのではなく防ぐだ。

目視で避けられないのであれば盾かなんかで防いでしまえばい。幸いなことにヘル・バーバードの撃つ『風魔法』の威力は『毒魔法』よりも弱い。

私の推測が正しいのならば氷の盾でも十分に耐えれるはずだ。

私は『氷魔法』で円形の盾を作り出した。盾は構造が単純なのがネックだ。

ちなみに私が作り出した盾はとても薄い氷の盾を何十層も重ね合わせたものだ。そうすることによって盾の強度が爆上がりする。

多分普通の氷の盾でもヘル・バーバードの『風魔法』を防ぐに十分なのだろうけど、ここは念の為ガッチガチに強化しておいた。

何で面倒くさがり屋の私がそんな無駄な努力をするのかって?

それは私が心配性だからだよ。

こういった命のやり取りをすることに対しては一切手を抜いたりしない。

それが生き残るための最善策の一つだ。


私は氷の盾を前に構え、勢いよく走り、ヘル・バーバードとの距離を一気に詰めた。

ヘル・バーバードが『風魔法』を出している所は大きな翼と鋭い鉤爪だ。その二つさえ潰してしまえばヘル・バーバードは『風魔法』を使えなくなるだろう。


ヘル・バーバードの『風魔法』が氷の盾を撫でるように少しずつ傷つけていった。

だが、何十層にも連なる盾の壁は未だ一層も突破出来ていない。

分かってはいたが耐久力は十分にあるようだ。


「ギィ!?」


『風魔法』の猛攻を抜け、私はヘル・バーバードの真下に滑り込んだ。

これだけ近ければでかい一発をお見舞い出来る。

何故危険を侵してまでヘル・バーバードに近づいたのか……それは決定打となるような威力が足りないからだ。

遠隔攻撃は遠くから敵を狙えるところがメリットだが、その分タイムラグがあり、威力が落ちる。

こういった強敵に対してはレベルの低い私ではあまり遠隔攻撃は効かないのかも知れない。


「『氷魔法』"氷槍"!」


「ギイィ!!!!」


ヘル・バーバードの真下に滑り込んだ私は今残っている魔力の半分以上を使い、私の身長の2倍以上もあり、先程まで使っていた"氷槍"の倍の太さの氷の槍をヘル・バーバードの腹に一発噛ましてやった。

氷の槍はヘル・バーバードの腹を貫き、勢いよく背中から飛び出した。

そして私は傷口から流れ出る大量の血をこれでもかと浴びた。私は待ちきれず、流れ出る血をゴクリと一口飲み込んだ。

すると体中がふわりと軽くなり、どことなく力が漲ってきた感じがした。そして肝心の血の味の方だが、それはもう例えようの無いほどに美味しかった。

あまりの美味しさについつい笑みが溢れ出る始末だ。


一方腹を綺麗に貫かれたヘル・バーバードは既に生命値がゼロになっているため、倒れたままピクリとも動く気配がない。

まあそりゃあそうだよね。お腹を太い槍で貫かれたら致命傷以外のなにものでもないからね。


「それにしても美味しい血を浴びるほど飲みたいとは思ったことがあるけど流石に血で体がベタベタだよ……」


私は髪も体もヘル・バーバードの血でベタベタなため不快感を覚えた。

これでも私は結構綺麗好きな所がある。地球にいた頃は部屋の掃除を1日も欠かさずにこなしていた。今となっては顔の分からない友達からは「もしかして潔癖症?」とか言われた記憶さえある。

私はそんな大層なものでは無いが、それに等しく近いものをもっている。

そこら辺にいる単なる綺麗好きな女の子だ。

でも異世界に転生してからというもの掃除と言う掃除はしていない。

何故なら掃除してもこんな森の中じゃ直ぐに汚れるからだ。砂埃や枯葉、そんなものをいくら掃除しても意味が無いからだ。


「これは本気で川とか湖を探さなくちゃダメかな」


こんなベトベトな状態でこの先やっていきたくない。

だってもう髪なんて血のせいで固まりつつあるし、ものすごく体中が獣臭い。まあ獣臭いのはこの服のせいもあるのだろうけど血のせいでさらに獣臭くなった。

これじゃあもう野生児と言われても仕方がないよ。


取り敢えずヘル・バーバードの血でも回収しようかな。氷の容器に入れれば少しは保存が効きそうだしね。

あとは……使えそうな素材があれば剥いどくか。あれほど苦労して倒したのだからなるべく使えるところは使わないとね。

色々と教えてくれた(一方的に)ヘル・バーバードに対して失礼だ。


その後私はヘル・バーバードの血を採取し、羽や爪、そして何故かお肉も剥ぎ取った。お肉は血よりも美味しくないことを知っているが、これだけ強い相手ならばさぞかし美味しいお肉なのだろうな。

調理法としてはかなり心配だけど生で良いだろう。例え有り得ないほどに不味かったとしてもその不味さは血の美味しさが何とかしてくれるだろう。焼いてしまっては血の美味しさが一気に損なわれる。

本音を言えば生ではあまり口にしたくはない。何故なら細菌とか寄生虫とかが怖いからだ。食べ物は火を通せば大体の物は口にすることが出来るが、今回は無しだ。

私自身生肉は初めて食べるが心の中ではどこか楽しみだという感情がある。


いやはや私の好奇心は時折怖いものがあるな。


さて、早速実食といってみよう!

私はつい最近拾ったストロベリークォーツみたいな少しばかり薄い赤色の石を取り出し、それを近くに落ちていた枯れ木にそっと置いた。するとしばらくして枯れ木からは煙が出始め、ついには立派な火に変わった。

一体どのような物質で出来ているのかは分からないが、便利だということには変わりない。

ちなみにお肉を焼かないのに何で火を炊いたかと言うと、それは単なる魔物避けにならないかなと言う願望があったからだ。

食事は至福の時間だ。そんな食事中に魔物に襲われたら唯一の楽しみを奪われてしまったと言っても過言ではない。

だからなるべく魔物が私に近づかないような対策を取ったまでだ。

効果があるのかは知らないけど……。


私は『気配察知』や『気配遮断』をわざわざ食事のために使った。一応近くには魔物の反応がないが、警戒は怠らない。

そして、私はカプッと血の滴る生肉を一口食べた。

お肉自体はもちゃもちゃとして気持ち悪い舌触りだったが、血の美味しさもあいまってか、それなりに美味しいお肉だった。

固形物を食べたのは久しぶりすぎて懐かしいような感じがしたが、やっぱり血の方が美味しいなと思った。

でもまあ気分転換に食べるぐらいならありなのかもしれないな。
















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