好奇心って怖い
修正終了済み。
今私は命の危機に直面している。
あれは調子に乗って森をズカズカと進んでいたことだった。カラスモドキを簡単に倒せるようになった私はもっと美味しい血を!と思いさらに森の中を歩きまわった。
だが、しばらくして気づくとカラスモドキの気配すら感じなくなっていた。これはおかしいと思った私は全神経を集中させて索敵してみたが全く魔物がいなかった。
一応魔物の気配はあるっちゃあるけどどうも様子がおかしかったので何故か興味本位で近づいてみることにした。
今思えばあの時に引き返すべきだったのかもしれない。いつもならもう少し慎重にことを進めていると言うのに今日に限ってこんな失敗をしてしまうなんて厄日中の厄日だ。
そして、私が何故か興味本位で見に行った魔物は圧倒的な強者の覇気を纏った鳥類型の魔物だった。
見た目はカラスモドキにとても似てはいるが、強さの桁が違う。
それはもう雲泥の差のようだ。
異世界転生序盤で会う魔物ではないだろう。これはまさに初心者殺しと言っても過言ではない。
まあその原因は全て私にあるのだろうけど出会ってしまったのだからどうしようもない。
「ギィィイイイィィ!!」
なんて腹に響く声なんだ。今の一声だけで手が震えてしまった。カラスモドキの時ですらこんな事が起こらなかったというのに……。相手は私を完全にロックオンしている。しかも『気配遮断』を使っていた私を意図も容易く見つけた。これはもうあいつが『気配察知』を持っているとしか考えられない。
逃げられる可能性は万に一つもないということか……。
まさに絶体絶命というものだな。通りで近くに魔物がいないわけだ。こんな奴の近くにいたら食ってくださいと言っているようなものだからね。
「ギイィィ……!」
絶対的強者の前では逃げるのは不可能……ならば戦って明日へ繋ぐ。
それが私が出した答えだった。
まだ戦闘経験の少ない私ですら分かる強者の覇気。それ程までにこいつが強いということだ。
だが、こいつを倒せば大幅なレベルアップと最高に美味しい血が手に入るだろう。その報酬を考えれば逃げながら殺されるよりも戦って殺された方がまだマシだ。
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一定の条件を満たした為【スキル】『鑑定(魔)』を獲得しました。
これにより魔物に対して任意でステータス情報を見ることが出来ます。
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突然頭の中に女性の声が聞こえた。女性と言ってもロボット的な喋り方だった。
そして、何とも今の状況下で嬉しい【スキル】を獲得できた。
異世界転生したその日からずっと欲しい思っていた【スキル】だ。一体どのような獲得条件をクリアしたのかは分からないが、今はそんなことはどうでもいい。これで相手のステータス情報を見ることが出来る。
試しに目の前にいるボス格チックなあいつを見てみることにした。
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個体名:ヘル・バーバード レベル:62
ランク:A
生命力:3900
筋力:4800
耐久:2600
俊敏:1500
知力:480
魔力:2500
【スキル】『毒耐性LV7』『鋭利化LV4』『気配察知LV7』『熱感知LV4』
【技能】『毒魔法LV7』『風魔法LV5』
【称号】《毒を使う者》
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あー……やっぱりステータス見ない方が良かったかもしれない。
私が勝てる要素なんてどこにあるの?
レベルなんて2倍差だよ!
「いや~……無理ゲーにも限度ってもんがあるでしょ……」
ステータスを見たせいでやる気を結構削がれてしまったが、戦闘不可避なんだし戦うしかない。
本当は戦わずに尻尾を巻いて逃げたいっていう衝動の方が圧倒的に多いいけど……。
「ギイギイィィイイ!!」
「━━ッ!」
少し距離を取ろうとした瞬間ヘル・バーバードが口からドロッとしたものを私に向かって吐いてきた。
ヘル・バーバードが吐いたものを何とか回避することが出来たが、ソレが着弾した場所はドロドロと溶かされていた。
多分『毒魔法』なんだろうけどこんな溶け方をする物はマグマ以外に見たことがない。
そもそも毒ってここまで威力がある物だっけ?
いや、ここは地球ではなく<剣と魔法のファンタジー>の世界だから今までの一般常識が通じない、毒くらいこのくらいの威力があったって不思議ではない。
でも流石に……この威力は反則でしょ。触れたら即終了の死にゲーじゃん。
せめて『毒耐性』でも持っていたら何とかなったかもしれないというのにな。取り敢えずヘル・バーバードの毒攻撃を避けつつ少しずつ生命力を減らしていけば良いか。
この数日間でレベルがかなり上がった私でも魔力量には限界がある。今となっては短剣二十振りは作れるだろうけどそんなちまちました攻撃では先に私がへばってしまう。それに吸血鬼の特性かなんか知らないけど異常に筋力が低いせいで決定的な攻撃は出来ないだろう。
だがそれは私が直接攻撃した場合での話だ。すると、直接攻撃以外でどうヘル・バーバードを倒すかという話になってくる。
今までの私はずっと手に短剣を持って魔物を倒していた。勿論投擲して魔物を倒すこともあったが、投擲では明らかにヘル・バーバードの体に刺さるような事は無いだろう。何故ならただでさえ筋力が低いというのに投擲をしたらさらに威力が弱くなってしまうからだ。カラスモドキの場合は比較的柔らかかったので簡単に投擲だけで倒せたが、ヘル・バーバードはそれだけで倒せるようなたまではないだろう。
ではどうやってヘル・バーバードを倒すか……それは魔法による相手への遠隔攻撃だ。
未だ魔法による相手への遠隔攻撃は試したことがないが、やってみる価値は十二分にある。
私が覚えている魔法は『氷魔法』ただ一つだ。『氷魔法』で一番最初に思いつくものは……"アイスボール"とかだ。
でも"アイスボール"は殺傷能力が高いものなのかな? だってただの氷の玉でしょ?
それだったら作り慣れてる氷の武器で攻撃したほうが早いような気がする。
仕組みとしてはまずここら一帯の地面を凍らせることから始める。そうする事によって自分が見える範囲であればどこでも武器を作ることが出来る。それを敵の真下から武器が出るように操作すれば筋力の低い私でもヘル・バーバードの体に刃を突き立てられるかもしれない。
半分賭け要素強めだが何事も試さなくては分からないことだ。
私はなるべく魔力の消費を抑え、私とヘル・バーバードの周りの地面一帯を氷で覆った。これで下準備は完了だ。次はヘル・バーバードの下から氷の武器を作り出せるか試そう。
私は氷の地面に手をつけ、全神経を集中させ、ヘル・バーバードの下から氷の武器が飛び出すようなイメージを頭の中で固めた。
すると……
「ギィイイ!?」
ヘル・バーバードの足元から長い刀身の刀のようなものが凍った地面から勢いよく飛び出した。
そして、魔法の試運転のつもりだったが、ヘル・バーバードは足元から飛び出した刀のようなものに反応できず、片足を貫かれてしまった。
偶然とはいえ片足を奪ったのは極光だ。それに魔法の遠隔操作は見事成功した。
魔力消費量は半端ないけどこれならばヘル・バーバードを幾分か倒せる可能性が出てきた。
「ギィィイイィィィ!!!」
「━━またッ!」
相変わらずなんとも腹に響く鳴き声だ。でも今ので完全にヘル・バーバードがキレたことが分かった。
私は魔法の遠隔操作を行う時からあるもう一つの目的を達成するために行動していた。本当ならもう少し後の方でやろうと思っていたのだがどうやら大丈夫のようだ。
そのもう一つの目的というのはヘル・バーバードをわざと怒らせることだ。生物は怒ることによって動きが大雑把になってくる。それに怒れば怒るほど判断力は欠けてくる。
つまりヘル・バーバードの動きを大雑把にし、判断力を鈍らせることによって少しでも隙を作ろうという作戦を私は考えていた。
だが、メリットのあるものはそれ相応のデメリットも同様にある。
そして、そのデメリットと言うものは「判断力が鈍る」という点だ。判断力が鈍ると周りのことを気にせずに攻撃をしてくる。そうなると今まで自重してきた魔法などをバンバン撃ってくるということだ。これはかなり危険なことなのかもしれないが、こうでもしなければ私はヘル・バーバードには勝てない。
それ程までにヘル・バーバードは強いのだ。
次回!強すぎて辛い……です。