常識不足
ここは本来筋書きに無かった場面……です。
クラレント王国までの道のりは決して険しいものでは無い。一つ問題があるとすればランクの高い魔物が数多く生息山を超えなくてはいけない点だ。
この山に生息する魔物のランクは大体E~B程度である為商人などはランクの高い冒険者を何人も雇い越えているという。だがノアに取ってはBランクの魔物など雑魚にも等しい為軽快な足ぶりで山をひたすら登って行った。そして今回パーティーを一緒に組むことになった剣士のグレーと弓士のミルサ、職業不明のマルーニ達はハァハァと息を切らしながらノアの後ろを歩いていた。
「はぁはぁ……なんでこんな山を登んなくちゃいけねぇんだよ!」
グレーがついに弱音を吐いた。
「この山を通るとクラレント王国までの近道になるんでしょうが! さっきノアが言ってたのを忘れたの!」
「だからって険し過ぎるだろ!」
「……頑張って」
この人達がどうなろうと私の知ったことではないが、少しくらいは励ましの言葉を贈ることにした。
それにしてもこの人達はあまりにも未熟過ぎる。まるで温室で育てられた貴族みたいだ。こうなると分かっていたらもう少しまともな大人の人とパーティーを組めば良かったと何回おもったことやらだ。
「なぁノア! もう少しマシな道はなかったのか!」
「十分マシな道」
「はぁ? お前何処の野生児だよ」
「……」
否定したいが合っている事には変わりがないので否定しようのないノアは何も言わずに黙ることにした。
口を開いて無駄な散策をされるよりも口を閉じた方がマシというものだ。
「そう言えばノアはなんで冒険者になんかなったの? その綺麗な容姿さえあれば色んな所で働けたんじゃないの?」
話題を変えるつもりなのかミルサが私について聞いてきた。
「暇だったから」
「暇だったから?」
「冒険者は依頼によっては命を賭けて戦ってるんだぞ! なのに暇だからだぁ? 舐めてんじゃねぇよ! チッ! 最初は良い女だと思ったが今となってはお前が良い女だとは思わねぇな!」
「……別に私は地位と名誉の為に冒険者になったんじゃない。美味しい食べ物を食べる為に冒険者になった。あとは興味本位」
「たったそれだけの理由で冒険者になったのかよ」
たったそれだけとは酷い言われようだ。冒険者になって依頼をこなしてそのお金で美味しい物を食べて何が悪い。
私は冒険者を自由な職業だと思っている。好きな時に依頼を受け、達成し、お金を受け取り美味しい物や欲しいものを買う。選ぶ依頼も自分のランクで手の届く所であればどれでも受けることが出来る。
そんな冒険者に憧れた私をこいつは否定するのか?
「逆に聞くけどなんでお前は冒険者になったの?」
「あ? そんなもの決まってるじゃねぇか! 地位と名誉と金だ!」
私とは全く違う考えだな。どうやらこいつとは今後一切気が合う気がしないな。
「この馬鹿! さっきから聞いてれば自分勝手なことを言って!」
「グ、グレーがごめんね……。グレーは少し沸点が低いの……だからあまり気にしない方が良いよ……」
マルーニが申し訳無さそうに私に向かって頭を下げた。
頭を下げるべきなのはそこにいるグレーなのだがこれ以上面倒事を増やしたくはなかったノアは何も言わずに歩みを進めた。
しばらくしてサラサラと流れる川を見つけた為、そこでノア達は1度休憩をとる事にした。
川は水晶のように透き通り、所々に美味しそうな魚がゆったりと泳いでいた。
「はぁ~……やっと休憩かよ」
「ほら、これでも食べて大人しくしてなさい。ノアも食べときなさい」
そう言って腰に括りつけてあった皮袋から手のひらサイズの干し肉をノアに渡した。
「……ありがとう」
貰っておいてなんだが干し肉というものはあまり好かない。何故なら柔らかくなく、血の味もしないからだ。だがそれでも腹の足しにはなる。
ん?待てよ……。なら川の魚を取って食べれば良いんじゃないか?
ノアは川に近づき簡単な氷魔法を発動させた。
「『氷魔法』"水氷"」
すると川は一瞬にして凍りついた。
それを見ていたグレー達はポカンと口を開けて目を見開いていた。
「どうしたの? 食べるでしょ? 魚」
「お、おう……!」
「ま、まさか……ノアは魔法士の職なの……?」
「川が一瞬で凍っちゃった……」
何故そこまで驚くのだろう?
私が使ったのはたかが一文字魔法だ。一文字魔法など誰でも使えるものではないのか?
「一文字魔法なんて誰でも使えるでしょ?」
「誰でも使えるわけないでしょ! 魔法よ!魔法!」
「獣人族以外なら皆魔力持ってるでしょ? なら使えるんじゃないの?」
「馬鹿じゃないの! 魔法はアルテリウス様が作った奇跡の力なのよ! そうポンポン使えるものなわけがないじゃない! そう簡単に魔法を使える人は魔法士の職についてる者だけよ! 魔法士の職じゃない人が頑張って魔法を覚えようとしても何十年もかかる代物! それも頑張ったとしても指先に小さな火が出るくらいしか出せないんだからね!」
奇跡の力?魔法士だけが簡単に使える?頑張ったとしても指先に小さな火が出るくらい?一体何を言っているのだ?
魔法なんて私がこの世界に転生した時から使える簡単なものだぞ。いや、もしかしたら私の考えが間違っていたのかもしれないな……。つまり魔法というものは魔法士だけが簡単に使える奇跡の力で魔法士ではない者が何十年頑張ったとしてもほんの少ししか使うことの出来ない代物と言う考えがこの世界の一般的な常識なのかも知れない。
そう考えると何故私は魔法士でもなんでもないのに魔法が使えたのだ?
「あんたはさっきの魔法を見る限り氷属性の魔法士でしょ? なんで魔法士なのにそんなこと知らないのよ」
「魔法士じゃない」
「魔法士じゃない? じゃあなんで魔法使えたのよ?」
「……そもそも私はまだ成人してない。魔法が使えたのは言うなれば才能?」
「はぁ!? あんたまだ成人前なの!? 確かに子供っぽいなとは思ってたけどまさか成人前だったなんて……」
「いや! 問題はそこじゃねぇだろ! なんでこいつが魔法士でもないのに魔法を使えるのかって話だろ! さっき自分で言ってただろ!」
「た、確かにそうね!」
そこまでオーバーなリアクションする必要があるのか?
私は魔法士でもなければ成人にもなっていない。そもそもの事の発端は私がこの人達の目の前で魔法を使ったのがいけなかったからだ。この世界の常識というものが大きく欠損している私がよく起こしがちな失態だ。
そしてこの人達からは成人していない者は魔法を使うことが出来ないと言うことを知ることができた。
さて!また一つ常識人になったことはさて置き……私が成人でもないのに魔法を使えることを知ってしまったこの人達を一体どうしたのものか……。下手すれば私が魔族だと気づいてしまうかもしれない。
この場合だと選択肢は二つある。
一つ目はここだけの話秘密にしてもらう。
二つ目はここで死んでもらう。
私としては無益な殺生をしたくはないのだがこの人達が私との約束を絶対に守るとは限らない。
こうなれば第三の選択肢だな。
「ん? そう考えるとお前本当に━━っ!」
「黙って。黙らないとこの氷の短刀がお前の喉を掻っ切る」
第三の選択肢……それは脅しだ。
これならば相手を信頼する必要もなく、殺す必要もない。それに恐怖による服従は一時ではあるが最も有効な手段だ。
「ちょ、ちょっと! グレーに何してんのよ!」
「黙って。さもないとこいつの首が飛ぶ」
「ゔっ……な、なんでこんなことを……するの?」
「……そのくらいなら答えてあげる。私はある約束を果たさなくちゃいけない。その為にも自分の正体を隠していたの。でも如何せん私は常識というものがどうも欠けてる……だからさっきみたいなボロが時々出る。特に今回みたいなボロは私の身を滅ぼしかねないほど重要な事だった。どうせ成人してなきゃ魔法が使えないのは人間族だけの範囲なんでしょ? さっき人間族独自の神であるアルテリウスっていう名前を言ってたし」
人間族独自の神アルテリウス。
人間族はどの種族とは違い独自の信仰を持つ種族だ。
そしてその信仰対象である神……アルテリウスは柱の神ではないただの神だ。ただの神ということはこの世界に干渉する事の出来ない言わば観客のような神だ。何故そんな神を人間族は信仰しているのかと言うとそれは神滅の大戦の時に人間族の味方となった唯一の神だからだ。その性格は優しく、万人を愛する神だった。それゆえか神滅の大戦が終わってもなお人間族はアルテリウスを信仰し続けている。それは魔族を倒すために協力して欲しいのか分からないが、人間族独自の神だと言うことには変わりはない。
「も、もしかして……あなたは……ま、魔族なの……?」
「……それはどうだろうね。ただ今の状況はとてもと言っていいほど都合が悪い。もしお前たちが私の事を人に言いふらしたら私はどうなる? 異端だと思われて私は捕まる? 物珍しさに貴族が私を捕らえに来る? どれもお断り」
「ど、どうしろって……言うのよ……」
「一つ、今から交わす約束を守る。二つ、ここで安らかに死ぬ。三つ、戦って死ぬ。どれがいい?」
ノアの持つ短刀の刃がグレーの首を薄く切り、ツーっと赤い血が滴り落ちる。それを見たミルサとマルーニは次第に血相が悪くなっていく。
「守るわよ! 約束を守るわ!」
「どう約束するって証明する?」
「えっ……そ、それは……」
はぁ~……やっぱり考えてなかったか。だが証明することが出来ない以上やはり殺すしかないようだ。
「じゃあね。来世では冒険者にならないことを願うよ」
ノアは短刀に力を込め、グレーの首をスッパリ切ろうとした。
「『闇魔法』"一時的失明"!!!」
マルーニがグレーの首を掻っ切ろうとしたノアに向かって『闇魔法』を放った。突然の事だったので回避が遅れたノアはマルーニの魔法が直撃し、視界が一瞬にして黒く染った。
「今よグレー!早く逃げて!」
「ぐっ……!」
グレーに突き飛ばされたノアは尻もちをつき、一旦今の状況を整理しようと動いた。
「肉体的なダメージは無し……弱体系の魔法」
まさか人間族が魔族と悪魔族しか使えない『闇魔法』を使えるとは驚きだ。
なるほど……この魔法があいつの職業か。
「い、今はこれが精一杯です~!」
「よくやったわ!マルーニ!」
「チッ! だがバレっちまった! どうするミルサ!」
「こうなったら……今のうちにノアを……ノアを殺すしか……」
ミルサは悲しそうに俯いた。
それもそうだ。短い間とわいえ色んな話をした仲間だ。その仲間を自分達の手で殺すと考えると悲しくなってくる。
「っ! もういい! お前は黙ってろ!」
グレーはノアに向かって大きく剣を振り上げた。ノアはまだ視界が回復していない為片膝をついて座り込んでいる状態だ。
「はぁっ!!!」
勢いよく上段から振り下ろされた剣はノアの頭目掛けて落ちていった。
だがノアはそんな事では死ぬような玉ではない。ノアは『気配察知』をフルに使い、頭の中で立体となったグレー達の姿を作り上げていた。それにより今どんな動きをグレー達がしているかは丸分かりだ。
ノアは閉じた目のまま右手を勢いよく前に突き出した。
「ぐぁっ!」
勢いよく前に突き出された右手はグレーの首を掴み、そのまま思いっきり地面へと叩きつけた。手加減をしている為死んではいないだろうが、軽い脳震盪ぐらいは起こしているだろう。
「な、なんで!」
「まだ魔法の効果が続いてる筈なのに……」
「私は『気配察知』のスキルを持ってるの。このくらいであれば視界を奪われていても君達の動きなんて丸分かり」
「ば、化け物……!」
「化け物なのはそこにいるマルーニじゃない? 人間族は本来『闇魔法』なんて使えない筈。それは人間族があまりにも魔力が乏しいから……『闇魔法』は魔族か悪魔族と同等かそれ以上の魔力が無くては習得出来ない。つまりマルーニは少なくとも人間族がもつ平均的な魔力量を圧倒的に上回っている事になる。そんな者が化け物以外なんて例えたらいいの?」
ノアは薄らと笑みを浮かべた。それはこの者たちを殺さなくて済むかもしれないと思ったからだ。
そして、人間族にして『闇魔法』を扱うマルーニについて色々と気になったからだ。
次はいつ投稿出来るかなぁ……。




