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欲求

修正終了済み。

ジメジメとしていてポタポタと天井から水滴が絶え間なく、そしてその水滴は至る所から落ちてくる。それが体のどこかに当たる度にビクッ!とびっくりしてしまう。

ただでさえ何がいるのか分からない怖さがあると言うのにただの水滴で驚いているようじゃこの先が思いやられる。


洞窟の奥に行くほど骨の量が多くなってきた。この時点でまず草食系の魔物ではないと分かる。洞窟の入口付近にも骨は散らばっていたが、ただ単にたまたまそこで獲物を食べた肉食系の魔物の食い残しという可能性を保険として考えてはいたが、それは尽く砕かれてしまった。

せめて草食系であってほしかったが肉食系の魔物なのはもう確定したようなものだ。

儚い願望だった。

しばらくして洞窟の奥から「グルルッ」とかいう鳴き声が聞こえてきた。

ここまで鮮明に聞こえてくるとなるともうそろそろ出会うかもしれない。

なのでいつ戦闘になってもいいように右手には洞窟に入る前に作った氷の短剣を持っている。

今更だがこの短剣だけでどうにかなる問題なのかは分からないが、やれることだけのことはやろう。


「グルルルル……」


「寝てるの……かな?」


そこには狼のような狐のような名状し難い魔物がいた。

見る限り寝ているようだしこのまま仕留めるのもいいかもしれない。

このままずっと私に気づかずに寝ているならば好都合だ。今の隙にこいつの首を落とせば食料も寝床も同時にゲット出来る。

こんなひ弱な私にも勝機はある。


私はそっと狼モドキに近ずき、思いっきり短剣を首目掛けて振りかぶった。

短剣は皮膚や筋肉を貫き硬い首の骨に当たった。一瞬刃が弾かれたか!と思ったが運良く骨と骨との間に刃が入ったため、首の骨を両断することが出来た。

そのおかげで無駄な抵抗もせずに狼モドキは絶命した。

これがもし失敗していたら一体どんな目にあっていたか分かったものじゃなかったよ。

取り敢えず何にせよ寝床と食料は手に入った。この狼モドキ一匹で何日持つか全く分からないが当分は心配する必要は無いだろう。


「でも……食べられるの? これ?」


狼モドキの首の断面は綺麗な赤色なのだが本当に食べても大丈夫なのだろうか?

仮にもこの狼モドキは魔物だ。

昔ラノベなる本を読んだだけの薄っぺらい知識だが、魔物は周りの魔素を吸収することによって動く生き物らしい。勿論獲物を食べることでも動くことは可能だと昔読んだ本には書いてあった。

まあ創作なのだが……。

その為あまり本を信じるのもどうかとは思うがこれは一種の命綱だ。

実際私はあまりそういう本を読まないので異世界の知識は乏しい。

言ってしまえば昔読んだラノベという本は数少ない異世界の情報源という訳だ。


本当に私って異世界で生きていけるのかなと思っていると、とても美味しそうな匂いが鼻の中に入ってきた。そしてその根源は今さっき倒した狼モドキからだった。

最初は綺麗な赤色のお肉の匂いかなと思ったが、匂いの根源はそこではなかった。

そして、綺麗な赤色のお肉は全くと言っていいほど興味がそそられなかった。

では何に食欲がそそられたのか……それは傷口からポタポタと垂れる真っ赤な血だ。


「あー……やっぱり私は吸血鬼になっちゃったのかな……」


吸血鬼は血が大好き……それは物凄く有名なことだ。吸血鬼のいない地球の人達だって大体は知っていることだ。

まさかこの世界でも吸血鬼は血が好きなのは変わらないとは……。

そして、この流れ出る血を見ていると、この血を飲みたいという欲望が次第に強くなってくる。

飲みたいという欲求と、飲みたくないという体の拒否反応が私の中では争っている。


「……」


しばらく何も考えないようにと目をつぶって冷静さを取り戻そうとしてみるが、全くの逆効果だった。逆に飲みたいという欲求がさらに強くなった。

こんな感覚は初めてだ。

次第に体が熱くなり、呼吸も荒くなってくる。それに意識が少しずつ朦朧としてきた。


「なるほど……ね。これが吸……血鬼のデメリットか……」


血を飲まなければこのような状態になる。それが吸血鬼のデメリットだと気づかされた。

そして……「こんな苦しみをこのままずっと味わうのなら血を飲むしかないか……」と思った私はポタポタと狼モドキの傷口から垂れる血を手のひらで受け止めた。

普通ならこのドロドロとした血を見るだけで「うっ!」と言ってしまうかも知れないが、今の私は涎がついつい垂れそうになるほどの食欲がそそられた。

試しに指先にチョンと血をつけてペロリと舐めてみると、それは今まで食べたことの無い未知の味だった。まろやかで甘みがあり、感覚的にはフカヒレスープだった。あまりの美味しさに私はグイッと一気に血を飲んでしまった。すると、今までの苦しみから一気に解放され、快感と思えるような心地良さが体を包んだ。


「はぁ~……こんな美味しいものは初めてだよ~」


こうして考えてみると麻薬みたいだなと思った。でも麻薬のような副作用も無さそうだし多分大丈夫だ。

それよりもこの血は美味しすぎる。お椀何杯分でもいけそうな感じだ。

でもお肉には全く興味がそそられない。お肉なら工夫をすれば長期保存も出来ただろうけど血は無理だろう。この分だと後もって二日くらいが限度だ。血は日が経つ事に固まっていき劣化していく。そんな血を私は飲みたくはない。飲むのならば新鮮な血が良い。


「取り敢えずお腹も何故かいっぱいになったし……洞窟の入口にでもバリケードを作ろうかな」


まさか手のひらに掬った分だけの血を飲んだだけでお腹いっぱいになるなんて思わなかった。これは血さえ一定量定期的に飲めば最低限の活動が出来そうだ。

そしてお腹いっぱいになった私が今やることは洞窟の入口を外敵から守ることだ。何も対策をしないでそのままここで寝てしえば洞窟に入ってきた魔物に寝ている間に食べられてしまうかもしれない。

それは絶対にダメだ。

私はこの新しい命で自分の好きなように生きるんだ!

そのためにも身を守るためにこの洞窟の入口をどうにかして外敵から守らなければいけない。思いつく限り一番簡単な方法は木で入口を塞ぐという手段だ。そうすれば外敵からは身を守れる、だが一つだけ問題がある。それは私も出られないことだ。

そして、あまり触れてはいなかったが何故か私の歳は七歳だ。転生したばかりだと言うのに小学一年生くらいの歳だ。これは何がなんでもありえないので極力関わらないでいた。何故かと言うと今の私では考えても無駄だと思ったからだ。

でも赤ん坊のままこの森のようなところにほっぽり出されるよりかは良かった。何せある程度成長しているのだから。

さて、ある程度成長していることに対しては感謝しているが、どうも筋力が足りなさそうだ。狼モドキの首の骨を運良く両断出来たが、あの大きな木を運べるかは別だ。


「くっ!……次から次へと問題が……!」


あまりの不自由さにワナワナと拳を震わせる。

何故親がいないんだ!と叫びたくなってしまうがここは我慢だ。だけどできる範囲のことはしよう。やらないよりも何かやった方が確実に良い。そう思った私がまず最初に取り掛かったのは木を切ることだ。木は二、三本あれば洞窟の入口は塞げる。だけど何かしらの工夫を施さなければ不便になってしまう。そこで私はドアのようなものを作ることにした。少しばかり手間がかかるが自分の命がかかっているのでそこら辺は惜しまない。

まず近場に生えている木を三本ほど短剣で切り倒した。

一本倒すのに一時間近くかかってしまった。まあ短剣で木を切り倒しているし、小学一年生並の筋力なんだからしょうがないか。

そして切り倒した木の二本は洞窟の入口にピタリと嵌るように削り、残った一本はなるべく縦に薄く割り、近くの木に巻きついていた蔓を使って一枚の板になるように加工した。そしてその板、もといドアのようなものを出入り口となるように洞窟に取り付けた。

こういうものはあまり手慣れてはいないが、こうして見ると意外と様になっている。


「かなり作るのに時間かかっちゃったけど達成感は十分。それにしても予想通り力が弱かったなぁ」


木を切っり倒そうとしている時ふと私はある事を思いついた。

それは魔法で簡単に木を切れるかも知れないということだ。

だが何故か覚えられなかった。頑張って想像したのにも関わらず『氷魔法』以外の魔法は何一つ覚えることが出来なかった。

一体何が原因なのだろうと悩んでいると、ある一つの結論に辿り着いた。

それは適正だ。

学校の教科のように得意なものと不得意なものがあるように魔法でも人によって得意なものや不得意なものがあるのかもしれない。それによって魔法を覚えることが出来るか出来ないか決まるかもしれない。

これは単なる推測だがあながち間違ってはいないのではないのだろうか?

だがこの答えは今の私では分からない。もしもこの森のようなところを抜けられた暁には図書館にでも行きたいものだ。

図書館自体この世界にあるのかは分からないけど……。












次回!二匹とかないわ〜……です。

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