穏やかな死
下の部分の余欄が気になりますが、あまり気にしないでください。
修正終了済み
「だ、第二部隊セルバ中隊長の隊が壊滅状態に陥りました!」
「第五部隊は何とか敵を押し止めていますが長くは持ちません!」
「ヴィンが向かっています! だがらもう少しだけ持ちこたえなさい!」
ここはネルセスの平原。
クラレント王国軍と魔王セルサードの直轄部下である第二部隊隊長であるリファと第四部隊隊長であるヴィンの戦場だ。
 
魔王軍の戦況は著しく悪く、少しずつだが押されている状況にあった。
対してクラレント王国軍側は、未だ指揮は衰えず、王国にまだ主力戦力が万全な状態でいる状況だ。
「人間共が! そんなに私たちの領土が欲しいのか!」
リファは机に広げていた地形図をグシャリと握った。
この戦争の事の発端はネルセスの平原の地下に魔鉱と呼ばれる希少金属かある事をクラレント王国の国王が知ったことがきっかけである。
魔鉱は耐久性が高く、魔力伝導率がとても高い金属だ。その為魔剣などの剣を作る為には欠かせない金属となっていた。
だが魔鉱を採掘できるのは魔界と悪魔界、水妖精族の住む海中だけだ。この中で一番容易く魔鉱を採掘できるのは魔界だけだ。
何故魔界だけなのかと言うと、悪魔界は特殊な亜空間の中に存在し、水妖精族の住むところは光の届かない深海だ。どちらも人間族が行けるところではない。
だが魔界ならば人間界のすぐ隣にある、その為クラレント王国の王は領土を奪おうとしているのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
苦悩に包まれた表情をしているリファにナイフを六振り腰にぶら下げた赤髪の女性が話しかけた。
「ええ……大丈夫よ。それよりリーブラは持ち場を離れて大丈夫なの?」
「はい。私の優秀な部下達に任せてきました」
「あなたはマルクの大切な妹なんだから気をつけてね」
リーブラは「大丈夫ですよ。私、これでも逃げ足には自信がありますから!」と元気よくリファに向けてグットサインを送った。
だがリーブラの顔には明らかに疲れが見えていた。
いくらリーブラが戦闘の少ない偵察部隊にいても戦場にいれば精神が疲れてくる。
勿論それは後方で指揮をとっているリファにも当てはまることだ。
「それでリーブラが来たということは敵陣で何か動きがあったということですね?」
「はい。敵の主力の一人……【炎帝】ゼファーが動きました」
「ようやく一人目が動きましたか……。これは少々ヴィンには荷が重いですね」
「ガリア様は居ないのですか?」
「ガリアは━━」
「呼んだか?」
突如として現れた黒いモヤの中からガリアがヌッと現れた。
あまりにも突然のことだった為ついリーブラは腰にぶら下げていたナイフに手をかけようとしてしまった。
「何故ここにあなたが……」
「ふむ……何故と言われても敵陣から強い者の反応があったので来た迄としか言えんな」
「……これは好都合ですね。ガリア、今すぐ【炎帝】ゼファーを討ち取るのです。早くしなければ大勢の仲間が死んでしまいます」
魔王軍での階級はガリアの方がリファよりも高い。だが今回の戦争に置いてはリファが総司令官でありガリアはその部下という扱いになっている。
その権限は戦場だけであって戦場ではない場所ではガリアの方が高い階級になる。
「了解した。前線で戦っている者を下がらせろ。巻き込まれても知らんぞ?」
「分かりました。リーブラ、この事を直ちに前線にいる部隊に告げて下さい」
「はい! 分かりました!」
リーブラはそう返事をすると同時に見にも止まらぬ速さで前線へと向かった。
「では行くとしよう」
「頼みましたよ?」
「任せておけ。我はこれでも第一部隊の隊長だ」
ガリアはここに来た時と同じように黒いモヤの中へと消えていった。
 
リファはガリアが来てくれて本当に良かったと思った。
ガリアの力は一騎当千。
剣を振るえば大地が裂け、魔法を使えば大地は焦土とかす。
流石は魔王様が最初に目をつけただけはあるお方だ。
「セルトラ、私は前線に向かいます。その間ここを頼みましたよ」
「仰せの通りに……リファ様」
燕尾服を着た初老の魔族が膝をつきリファに頭を下げた。
 
「『空間魔法』"短距離転移"」
ーネルセスの平原 戦場最前線
「おいおい。一体何が起こるってんだ?」
「わ、分かりません。ですが焦っているようにも見られます」
「何にだ?」
「そこまでは……」
【炎帝】ゼファーは鞘に入った剣を肩でトントンとしながら魔族が一目散に逃げる姿を険しい表情で見ていた。
 
しばらくすると目の前には魔族が一人としていなかった。
「怖気ずいたのか?」
 
「ゼファー様の気迫にビビったのでは━━」
ゼファーの部下の話が急に途切れた。
するとゼファーはその瞬間剣が鞘に入ったまま防衛の体勢に入った。
「ぐおっ!」
「ふむ、感の鋭い男だ」
黒いモヤと共に現れたガリアの斬撃を上手く剣で防衛出来たのだが、あまりの剣の重さに数メートル吹き飛ばされてしまった。
だがゼファーは吹き飛ばされながらも体勢を整えた。
剣の鞘をチラリと見ると剣の鞘には特大のヒビが入り、ボロボロと所々砕けていた。
「やはり最初っから【炎帝】を狙うべきだったか」
「不意打ちとは卑怯だな」
「戦場ではその通りは通じないぞ」
「確かにその通りだが……よくも俺の副官をぶった斬ってくれたなぁ」
「折角の戦いだ。あんな雑魚に邪魔をされたくはないだろ?」
「チッ! 気に食わねぇ野郎だ!」
ゼファーは『縮地』を使い、ガリアの懐に一瞬にして潜り込んだ。
対するガリアは一歩も動かずただじっとしているだけだった。
銀色に輝く美しい剣がガリアの首を捉えた……かと思ったがそこには既にガリアはいなかった。
「幻術の類か?」
「そう見えたのならばそれで解釈するがいい」
「チッ! 『火炎魔法』"火炎の火矢"!」
ゼファーは左の手のひらから炎の矢を数発ガリアに向けて放った。
だがガリアは飛んできた炎の矢を軽々しく弾き、黒いモヤを帯びた黒剣を力強く縦に振った。
すると黒剣こら鋭い斬撃が飛んでいき、ゼファーの肩を優しく撫でた。
寸での所で回避したゼファーは額から少量の汗を流していた。
ゼファーが汗を流すなんてことは過去に一度しかなかった。
 
「お前、ただの魔族じゃねぇな」
「ほう、何故そう思う?」
「ふっ……ただの勘だ!」
興味深そうに顎に手をやるガリアを目にゼファーは剣に炎を纏わせ、空間でも切れそうなほどの剣速でガリアの首を狙った。
「……未熟だな」
「がはっ!!!」
ポタポタと赤い血が地面に染みを作っていく。
 
ゼファーは今までで最高の剣速を出したのにも関わらずガリアに胸を深々と黒剣で刺されてしまった。
上半身を覆っていた赤い鎧はボロボロに砕け、「ガシャン!」という音を立てながら次々に地面に落ちていった。
「貴様程度の力ならばノア様にも仕留められるだろう」
「お、俺……が誰に……し、仕留め……られるって……?」
大量の血を吐きながらゼファーはガリアにそう問いた。
「ノア様だ。ノア様は戦闘において天賦の才を持っている。それは現魔王様をも超えうる存在に成長するだろう」
「偉く……そいつを気に入って……いる……ようだな……がはぁ!」
黒剣を勢いよくゼファーから抜いたガリアは黒いモヤと共に消える寸前にある事を口に出した。
「次はあのような出来事を起こしたくないからな」
「で……出来……事……?」
ガリアと共に黒いモヤが消えた瞬間ゆっくりとそして穏やかな死をゼファーは迎えた。
ここは戦場であるが為決して穏やかな場所ではないのだが、騎士にとって戦場で死ぬことは本望であり、更には自分よりも格上の相手と最後に戦えた事が何より嬉しかった。
そして数日後【炎帝】ゼファー死はクラレント王国中に響き渡った。
この出来事によってクラレント王国は戦力は大いに削られ、続々と王国兵士はネルセスの平原を後にしていった。
 
 
 
 
 
 
第28部は修正途中です




