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チンピラとギルマスと山賊

修正終了済み

今日はとても良い日だ。何が良い日かってそりゃああの子と会えたからだ。

あの子がなぜ人間界に来ているのかは不明だけどあの目からは敵意が一切感じられなかった。

話をしてみたところあの子は敵に対してはとことんやるが、味方に対しては優しそうだ。こうキッチリと敵味方を区別出来る者は将来有望待ったナシだ。


だが一番後悔していることは私が鑑定系スキルを保有していないことだ。もし鑑定系スキルを保有していたのならばあの子のステータスを是非見てみたかったものだ。


やはりそこら辺の適性が無いとは悲しいものだ。


「どうしました?」


昨日ノアが痛めつけた者たちの処理をしていたシースルーにギルド職員であるメリアが不思議そうに尋ねた。


「ああ、すまないね。これから楽しくなりそうだなと思ってね。つい笑みが溢れてしまったんだ」


あの子はこの先凄いことを起こす。それを私は見ることが出来るかは分からないがその過程を知れれば満足だ。勿論あの子がこの先起こすであろう凄いこともこの目で見てみたいが私は既に三百年……いや二千何百年近く生きた。周りからは若い顔立ちだなと言われているが、もう私の命は殆ど残っていないに等しい。

いくら私が古代の森妖精族であろうと寿命という制限からは逃げられない。


 はぁ……そろそろ我が友にも本当の事を話さなくてはいけない頃合いか……。

せめて死ぬまでにあの子の成長した姿を見届けたい。


我が主、夜王様の願いを背負って……。



ーバルジアナ王国 門前



「昼ぶりだな。ちゃんと証明書を発行出来たか?」


ここに初めて来た時に親切に対応してくれた兵士のお兄さんがそう問いてきた。

そうだよ、これが親切な人だよ。あのチンピラ共は親切の意味すら分からない低能な奴らだ。

この人の足元にも届かない低能な奴らだ。


「これでしょ?」


私はポケットに入っていたギルドカードを兵士のお兄さんに見せた。


「冒険者になったのか……。無茶はするなよ」


「無茶は……多分しない」


「不安だな。でもまぁ頑張れ。あと……名前も聞いて良いかな……」


「ノア」


「ありがとう。俺はオルーグだ。ここの門兵をしている」


「よろしく」


今日はよく名前を聞かれる日だな。

聞かれると言っても先程の耳の長い人とオルーグだけだがそれでもよく聞かれる日だ。魔王城では事前に魔王様がある程度私のことを部下に言っていたから名前を聞かれることは無かった。


「それでノアはこんな夜遅くにどうしたんだ?」


「薬草を採りに行こうと思ったの」


「こんな夜遅くにか? 辞めておけ。夜は魔物が活発になる時間帯だ。迂闊に門の外に出ると命を落とすぞ」


「大丈夫。近場で薬草を採りに行くだけだから」


私の指す近場とは魔王様が転移場所として選んだあの森だ。

そして薬草採取以外に私はある目的がある。

それは血だ。

かれこれ五日ほど血を飲んでいない。だが暗い森で暮らしていた時の疼きは全くない。

疼く条件が分かるまでは定期的に血を飲むことが大事だ。もし人間の目の前であの疼きが出てしまえば私は何をするか分からない。そうなれば私は確実に討伐対象にされる。

人間の血を吸う人なんて人間族に居るわけがない。直ぐに私が人間ではない何かと皆察知するだろう。

そうなってしまえば人間界に私の居場所がなくなってしまう。

それだけは何としても避けたいのだ。


「近場って言っても魔物がいることには変わりがないんだぞ。それに身を守る武器はどうした? 見る限り持っていなさそうだが?」


「魔法で武器を作れる。だから不要」


「便利なもんだな。まぁ冒険者の邪魔をしないのも門兵の仕事だ。だが死ぬなよ? 目覚めが悪いからな」


「分かった」


それからオルーグと別れた私はあの森へと向かった。周りには熱石のランプがあるはずも無くただただ暗い夜道が続くだけだ。耳を澄ませば羽虫のパタパタという羽音が聞こえてくる。その中にはグルルとどこかで聞き覚えのある鳴き声も聞こえてきた。

『暗視』を持っている私はこの暗さでも昼と同じような景色が見えている。だから暗闇に紛れてコソコソと近ずいてくる魔物など見つけるのは造作もない。


あの森に着いた私は『鑑定(魔)』を使いながら徐々に森の奥へ入っていった。途中美味しそうな果実を見つけたためパクリと一口食べてみたが、薄味で水っぽかった。水分補給には丁度いい果実かも知れないが、血の代用品にはならなそうだ。もしこの果実が美味しく、それなりに食べ応えのあるものであったのならば少しは考えたかもしれない。


「それにしても魔物の反応が全く無い……またヘル・バーバードのせい?」


ここまで静かだと面白くも何ともない。せめてシルバーウルフでも何でもいいから襲ってきて欲しいものだ。

そんな事を思っていると少し先に人らしき反応が八つあった。


面白いことを見つけた!と思った私は足音を殺しながらその反応のあった場所へ向かった。

するとそこには薄汚い服を着た男たちが焚き火を囲いながら酒や肉をガバガバと食べていた。近くには服を一切着ていない生気の抜けた女性が三人寝転がっていた。


こいつらは俗に言う山賊なのではないか?

山賊というものは一度も見たことがないが、山に住み、通りがかった者たちを襲い、金品や食料を奪い、老人や男は殺し、利用価値のある若い男と女は奴隷として売り払うか、自分たちの慰め物にする。私が魔王城で読んだ本にはそう書いてあった。

つまりあの男たちが飲んだり食べたりしている物は誰かから奪ったものであり、近くに転がっている女達は男たちの慰め物にされた後と言うわけか。


「今日はどうしてこんなゲス野郎達と出会うのやら。不思議でならないよ」


今この状況で私がやる事と言ったら山賊の討伐だ。山賊の討伐も確か冒険者ギルドの依頼の中にあったはずだ。目的のマナラ草の採取依頼ではないが、冒険者ギルドの依頼の一つを片付けられる。あわよくば依頼達成と見なされてランクアップすれば上々の結果だ。

それに私には試したいことがある。

その実験台としては十分過ぎる素体だ。


「ガハハハッ! 今日は運が良かったな! そうだろ? グガル」


「確かにな! こんないい酒にいい女、俺らは久しぶりに良い当たりを引いたな!」


男たちは酒を飲みながら今日の収穫について話していた。

ノアとしては素直な奴がとても好きだがこの男たちはどうも好きになれなかった。それは山賊という点もあるのだろうが、それよりも相手から物を盗んだという点が気に食わなかったからだ。


「『氷魔法』"氷結地帯"」


ノアは静かな声でそっと魔法を発動させた。ノアが発動させた魔法は瞬く間にここ一体を凍らせ、山賊達はお尻を地面につけていたこともあるせいか胸あたりまで凍っていた。

中には寝転がっていた者も数名いた。そのような者たちは全身が凍りつき、易々と絶命した。


「こ、氷?」


「なんでこんなところに!」


反応はあのチンピラ達よりも冷めてはいたが、驚いていることには変わりない。


私は氷の短刀を二本作り、弓を持った山賊の頭と胸に向かって投げた。

なるべく遠距離から攻撃してくる敵は早めに倒しておいた方がいい。それはいくら腰あたりまで凍っていると言っても弓ならばそこから一歩も動かずに私を攻撃出来るからだ。


「ぐっあ!!」


「チッ! 俺らに手を出したってことはどうなるか分かってんだろうな!」


よく吠えるのはチンピラ達と同じだな。


「ふぅ~……こんなものかな」


ノアが作った物は短刀よりも刀身が長く、細く、そしてガラスのような透明な細剣だ。

細剣は機動力に長けているノアにはうってつけの武器だ。

だが細剣は刀身が長く細い。つまり耐久力が低いということだ。

かなり前から細剣は自分に合った武器だとノアは思っていたが、『氷魔法』のレベルが足りないのか、自身の熟練度が足りないのか分からないが、作っても耐久力が低いただの棒っきれ同然な仕上がりになってしまっていた。

だが現在の『氷魔法』のレベルは九に上がっており、それに応じて魔法を発動するまでの速さ、精密性、耐久力が上がった。

おかげで作ってもただの棒っきれ同然の細剣はある程度使えるまでに昇華した。


「子供か?」


湾曲した剣を持った男が私を睨みつけながら低い声でそう言った。


「そう、これでも私は冒険者」


「その歳でか? 見る限りまだ成人でもねぇ子供が何故俺らにこんな事をする?」


「そんなのもう分かりきってるんじゃないの? それが分かってるから山賊やってるんじゃないの?」


「はははははっ! 傑作だな! まさか子供にそんな事を言われるなんてな!」


男は狂ったように笑った。何故笑ったのかは分からない。でも私の言っていることは理解しているらしい。


「俺らを討伐に来るのは兵士でもなけりゃ騎士でもねぇ。まさか冒険者の子供が俺らを討伐に来るとはな!」


「人生何が起こるか分からない。お前は今日私に殺される運命」


「そうかい! じゃあせいぜい足掻いてやるよ!」


男は剣の柄頭で腰や足に付いた氷を叩き割った。

まさかそんな方法で私の『氷魔法』を突破するなんて思いもしなかった。この男はあのチンピラ共とはひと味違うようだ。


全身の氷を叩き割った男は湾曲した剣を大きく振りかぶりながら飛びかかってきた。


「実戦形式で面白い……」


「子供が何を言ってんだよ! 一体どういう育てかたをされたのかね!」


男と私の間を剣が何回も何回も交差する。

筋力は負けているようだが手数では押している。だが男は何らかの技能を使っているらしく、これと言った一撃を与えられない。


「なんの技能?」


「よく気づいたな、良いぜ。せっかくだから教えてやる。これは『瞬間加速』と『見切り』って言う技能だ。例えお前が不意をついてきても俺はその瞬間に反撃も出来るし、防御だって躱す事だって出来る。この技能でお前は死ぬんだよ。いや、死なさずに生かしておこう」


「何故? 私はお前を殺す気なのになんでお前は私を生かすの? 意味が分からない」


「まだまだお子様だな。お前を殺さずに生かすという事はお前の身動きをとれなくした後に楽しむって事だよ! まだ幼いがお前には貴族の令嬢にも引けを取らない美貌がある。お前を抱きたくない男などいるはずがないだろ?」


それが人間としての本能ならばしょうがない事なのだろうけどこの男は明らかに私を玩具としか見ていない。あのチンピラ達もこの男と同類だ。

耳の長いギルマス(仮)はあまりどういう人なのかは掴めなかったけど私をそういった目で見ていないのは感じ取れた。

今のところ私の安全地帯は暗い森と魔王城しかないな。


「お前に抱かれるなんてごめんだね」


「なぁに心配するな。いずれ俺の気持ちを分かるようになるさ!」


背後から心の臓を突き刺そうと思ったが、男は湾曲した剣を後ろに向かって大きく横に振りかぶった。

少しでも回避が遅れていれば腕一本くらいは貰われていた。


「……もういいや、まぁまぁ楽しかった。ありがとう」


「あん?」


ノアの周りに霧状の冷気が集まり始める。集まった冷気はかなり冷たく周りの草木に霜を降らせ、やがて凍っていった。

ノアは右手を男の方向に向かって優しく撫でるかのように横に振った。


「『氷魔法』"雪原風"」


そう静かに魔法を発動させると、男の体は物凄い速さで凍っていく。

男は剣の柄頭で体の氷を叩き割って剥がしているが、叩き割った所は直ぐに凍っていく。

ついには両手の指が数本バキリと折れ、次々に地面を転がっていく。


「チッ!……ここで終わ……りか」


男は己の最期を理解したのか何も抵抗しなくなった。


「俺は……ここいらで有名……な山賊だったんだぜ? まさ……か……こんな子供に……殺られる……とはな」


「人生何が起こるか分からない」


「はっ! そうかよ……。まぁお前のような……奴に殺られる……のは嬉しい……な」


「それはありがと」


男は残った指からサラサラと崩れていき、やがて残ったものは男が着ていた衣服や装飾品、武器だけだった。


生き様だけを見たらとても良い人だった。何故この人は悪の道を進んでしまったのやら……。


そしてノアはギルドの依頼であるマナラ草を採取するためさらに森の奥に進んでいった。







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